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やはり、薬は何の効果も現さない。
相変わらず彼女が何を言いたいのか、私にはまったく理解できない。
「私は彼女たちの研究を始めました。そして、彼女たちの中に不慮の事故や病気で亡くなっている人たちを見つけました。私は胸が痛みました。何と言ったって、彼女たちは私自身でもあるのですから。私の世界では他の世界への過剰な干渉は禁じられています。しかし私は、どうしても彼女たちを助けたくなりました。もう見過ごすことは出来ません。法律なんてくそ食らえです!!」
彼女がテーブルを拳で叩き、コーヒーカップからコーヒーが少しこぼれた。
「私は世界の壁と時間を越える技術を身につけました。あなたと同じですよ」
彼女が、にやっと笑う。
それはぞっとする笑顔だった。
「自分の目的のためだけに、この資格を取ったのです。私と同じ名前を持つ、いいえ名前が違ったってかまわない。私と同じ出発点を持ちながら、無限の選択の中で命を失ってしまった『松岡七奈』と、その存在を近しくする者たちを救うためなら、私は何だってするのです!!」
そこに座っているのは。
私が今日、最高の芸術作品を作るために屋敷へ呼んだ「松岡七奈」ではなかった。
私の面接した慎ましく恥じらいを持った「松岡七奈」は、どこかに消えてしまった。




