第80話 内燃機関
オーレリーさん達が京都に着いてから3日が経過した7月22日。朝から蒸し暑くなる季節になったので、仁美さんと同じベッドで寝ていたら流石に暑苦しい。温暖化の影響が少ないのか、改変前の世界のような猛烈な暑さでは無いけど、それでも最高気温は30℃近いと思う。夏本番の暑い日になれば、35℃近くまで上がるだろう。
温度計はこの前に即興で作ったけど、水銀っぽいものが機能しているのか機能していないのか判断し辛い困った代物だ。一応、0℃と100℃の概念は改変前と合わせた。
そんな暑い日の昼前から、内燃機関に関する説明会みたいなものがオーレリーさんによって開かれた。俺は不参加だったけど、オーレリーさんの講義を受けて仕組みを理解した人達が作った纏めのようなものを読むことで、内燃機関の把握を行う。
「これ、近いものは出来ていたから結構惜しかったな」
「近いものは作れていましたが、根本的な部分が違うので一から作るのは大変だったと思います」
そんな紙を見て一瞬で理解する愛華さんや彩花さんに対して、ちゃんと読み込まないと理解出来ない俺。地頭の良さでは圧倒的に親衛隊の方が良いということが露見している。まあ加藤さんや木下さんも1回では理解できなかったみたいだし、親衛隊のスペックの凄さにはもう驚かない。
「これが1955年には登場していて、船にも1960年代から転用されているなら、2005年には内燃機関を導入した軍艦が揃うわけだ」
「日本でも、内燃機関を導入した大型の艦船を造りますか?」
「……んー、小型の駆逐艦と対空装備を積んだ巡洋艦は早めに造っておくか。出来れば空母を大量に造りたいんだけど、飛行機が完成してからじゃないと無理だろうし」
船に関しては戦艦を放棄して巡洋艦と駆逐艦の設計を指示する。装甲と対空装備を増した駆逐艦や巡洋艦なら、将来的に長く使えそうだし、既存の艦隊にも組み込める。将来的には空母と潜水艦を多く建造したいけど、何隻も空母を同時に建造する財政がその時にあるかが不安だ。
後は魚雷についてだけど、魚雷の知識がある人間はフランス人側にも1人しかいなかったので、その人を中心としたフランス人研究者達のチームを作った。全員が19歳から22歳という若い世代の人達だけど、能力はありそうだ。なので、半年以内に射程数キロの船を一撃で沈められるような魚雷を生産できるようにして欲しいと注文する。
「魚雷とそれを運用する駆逐艦さえあれば、海戦で勝てるのではありませんか?」
「彩花さん、愛華さんに反論して良いよ」
「うぇ!?わ、私も魚雷さえあれば空母は必要なのかな、と思いました」
「海軍の天才でも、戦術面の研究が進んでいなかったらこうなるのか。流石に魚雷だけの物量作戦は……あれ?可能なのか?」
空母の大きさや魚雷の有用性を語っていたら、愛華さんも彩花さんも魚雷さえあれば他は要らないのでは?という思考に至ったので魚雷の不利な面や、コストの高さを説明したら2人とも考え込んでしまった。
「魚雷が1本で1億円相当というのは、どの時代もあまり変わって無いような気がする。今の日本円にすると、1本を生産するのに5000万円前後は必要だと思う。信頼性が低くても良いなら、もう少し安くなると思うけど」
「それならば、1回の海戦で1万本を使っても1兆円には届かないですよね?」
「……弾薬じゃないからそこまで大量に積み込めるのかもわからないけど、1万本作るなら1兆円は越さないんじゃないかな?」
「一方、空母が1隻で2500億円程度になると。研究開発費も含めると、2兆円で6隻程度が目安ですか?」
「うん、最低でもそれぐらいという認識で良いと思う」
彩花さんが1万本使っても1兆円に届かないなら大丈夫と言っているけど、普通に財政が傾きそう。一方で空母の方は愛華さんの言う通り、研究開発費だけでも5000億円以上を覚悟しないといけない。
正直に言うと、兵器の良し悪しについて完璧に理解をしている訳では無い。空母と魚雷は曖昧な値段しか知らないし、彩花さんが言う魚雷の大量運用は、正義なのかもしれない。しかし空母と潜水艦が強いというイメージはある。これをどこまで俺が伝えられるかで、今後の海軍の編成まで変わって来そうだ。
潜水艦も、魚雷を積む以上は魚雷の開発が急務だ。魚雷の生産ラインは確保するとして、大量の人員と予算を確保してまで空母の開発建造をすべきか否か、という問題が発生した。飛行機がまだ飛んでいないから、空母の有用性は海軍側に伝えることが不可能だ。
というか外国でもまだ空母について発想はあっても実用化している国が無い。それに、愛華さんの言うように6隻で2兆円というお金が吹き飛ぶことを考えると、安易に空母が良いとも言えなくなってきた。……飛行機は別に考えるとして、1隻で2500億円。下手すれば、ただの高価な玩具になってしまう船に、2500億円。
飛行機が飛ぶのはもう少し時間がかかるだろうから、それから空母の研究を開始していると世界大戦にはたぶん間に合わない。研究に1年半、建造に2年前後を費やすとして、訓練期間も合わせれば空母の実用化まで5年近い時間がかかる。今から見切り発車をすべきか否か。
「秀則様は、空母と潜水艦を中心に建造していきたいのですよね?」
「うん。戦艦を放棄していれば空母と潜水艦の大量運用は可能だと思ってる。潜水艦はロシアと技術の取引をするとして、空母は外観を知っているから加藤さんに描かせてみるよ」
「外観が分かるのであれば、研究開発費は抑えられそうですね」
とりあえず彩花さんに自身の考えを言った後、加藤さんを呼ぶ。何故か元気が半減しているけど、船を描かせ始めると元気になった。相変わらずよく分からない奴だ。
「ああ、島津さんが訓練に行っちゃったんだ?」
「うん。千夜ちゃんと離れたことはほとんど無かったから、やっぱり寂しい」
あやふやな指示を聞いて、会話しながらどういう構造をしているのか聞き出す加藤さん。本当に俺の想像通りの景色を描いてくれる異質な人材なので、ハンググライダーの訓練とかで怪我をしないで欲しい。
……赤城って、こんな感じだったかな?