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第36話 上海戦線

「北京に共産党軍の正規軍が、上海には国民党軍の正規軍が集まっているのか。上海戦線も、抵抗が凄いんでしょ?」

「上海というより、南京方面へ向かう道中での抵抗が激しいようで、損害が想定よりも大きいです」


北京に攻撃して来た共産党の正規軍を見て、侮ってはいけないと気を引き締める。しかしより戦況が芳しくないという上海戦線では、上海から南京に向かって進軍したい軍が国民党軍によって完全に足止めをされていると、愛華さんから報告を受けた。……結局情報のやり取りは愛華さんに任せることにした。彩花さんは参謀役に徹して貰おう。親衛隊に関しては口出ししない方針だったけど、流石に向き不向きがある。


「……湖と川を使って幾重にも防衛線を構築してるのか」

「湖の迂回も難しそうですし、別方向から南京に攻撃を仕掛ける方が良いかと」


彩花さんも地形を見て上海から南京への進軍は難しいと判断したけど、地形で見るなら上海から南京より香港から深圳の方が難しいはず。しかし、香港戦線の方はかなり順調だ。となると考えられる理由としては、やる気不足かな?


……ああ、砲弾不足か。


「砲弾の消費が多いから、上海戦線の軍団長はかなり慎重な人なんだろうな。上海上陸の際にも砲弾の使用量が多かったから、こりゃ砲弾が不足してるな」

「……砲弾不足は北方戦線、南方戦線では起こりえないことなので失念しておりました。急ぎ、海上輸送の量を増やすよう進言して来ます」

「砲弾の消耗が激しいからもっと寄越せ、みたいな連絡は無かったのか。あ、海軍を動かすならそのまま長江に入れるか知りたい」


北方戦線では北方大陸領から生産される砲弾、銃弾が大量に運ばれてくるけど、上海戦線や香港戦線では海上輸送にしか頼れない。しかも兵糧が最優先だっただろうし、銃弾も必要だから、砲弾の供給量は少なくなっていたのだろう。愛華さんが指示を出しに行ったから、砲弾不足が進軍速度の遅い要因になっていれば解消されるはず。輸送能力が限界という可能性もあるけど、民間の船舶も含めれば船の数は異常なほどだから、それは無いと思いたい。


各消耗品の消費量とかをまとめて見られたら便利なんだけど、上海戦線の情報とかは基本的に一週間遅れだから、本土や別戦線にいると把握はどうしても遅れてしまう。そろそろ本国で電報ぐらいは開発されただろうか?研究面で革新的な進歩がありました、みたいな報告は未だに無いけど。


「彩花さん、長江は見たことある?」

「はい。上海上陸作戦のために陸軍将校達が下見に行った際、護衛の艦の一隻として私の船も同行しました」

「……待って。上陸作戦って、陸軍主導でするものなの?」

「はい。上陸作戦ではまず船で砲撃を行い、敵を引かせる事が出来れば船の上で援護射撃をしたり、上陸戦の時に先導をする海兵隊が前面に出ます。その後、実際に侵攻する陸軍の部隊が上陸を行って作戦を遂行します。どちらかと言えば、陸軍の主導ですね」


そして彩花さんに長江について聞こうと思ったら、上陸作戦は陸軍主導で行う作戦だということを聞かされる。確かに将寛さんが上陸計画を立てていたようだったけど、彩花さんから話を聞く限り完全に陸軍主導だと思って良いだろう。……これ、海兵隊が陸軍の所属になっているのか?


「海兵隊って海軍の所属?」

「いえ、海兵隊は陸軍の所属で、海軍の命令に従う戦闘部隊です。一隻につき数十人はいました。基本的にはある程度の規模の海兵隊を、上陸戦の時は先頭集団の艦船に割り振って配置します」

「……戦争中に軍の組織を根本的に変えるのは不可能だし、当分はこのままか。

そいつら、上陸戦や近距離での海戦時以外は何をしているんだ?」

「甲板の掃除とか雑用が主です。陸軍に入って海兵隊に回されている時点で、後が無い人達なので」


船の上での指揮系統がどうなっているのか凄く気になるけど、現状大きな問題が起こったことは無いらしい。そもそも陸軍と海軍の仲が良さそうなので、共同で作戦立案が出来るのだろう。だとしたら、無理に上陸作戦を海軍主導に切り替えるような必要は無いのだけど……とてももやもやする。


「長江って、船は入るよね?」

「はい。長江は川幅がとても広く、船が入ることも可能でした」

「船で入ることが可能なら……海軍所属だった彩花さんの意見が聞きたいのだけど、艦船が陸にいる敵陣を横から砲撃することは可能?」

「難しくはないと思います。ただ、長江の上流がどれほどの川幅なのか私には……」

「んー、長江はかなり上流まで川幅は広かったと思うよ。難しくないのなら、長江を利用して海軍に支援砲撃をさせながら進軍するように、と伝えるか」


長江は黄河と同じく、かなり川幅が広かったはずなので海軍に支援砲撃が可能か聞いてみると、彩花さんからは可能だという答えが帰って来た。まあ船の砲撃は大砲とは違って狙うということがかなり難しいけど、そこは船の数でカバーさせよう。問題は川沿いにしか進軍出来ないことと、堤防決壊作戦を仕掛けられたら被害がヤバそうなことぐらいか。一応、長江の方の堤防決壊にも警戒するよう言っておこう。


南京は、国民党の政治中枢が移転した先だ。まだ中国では鉄道が敷設されていないから、国民党の偉い方々は南京に腰を下ろしたばかりかな。南京付近は国民党軍の士気がまだ高い地域なようなので、愛国心溢れる人達が戦っているのだと思う。下手に刺激をするよりも、他の戦線で戦果を拡大する方が良いのかもしれないけど、ここは唯一と言って良い国民党軍の善戦箇所を潰すべきだろう。南京までの道中にいる部隊を、海軍と合同で撃ち砕くようにと通達する。


……問題は、山奥に政治中枢がある共産党軍だな。正規軍はそれなりに強いし、士気は一定以下にならない。ひたすら死体の山を築き上げれば屈服するだろうけど、それまでの日本軍の損害を考えたら憂鬱な気分になる。北京を釣り餌にして、共産党軍の正規軍を引き寄せつつ、北京を迂回して河北の都市を占領していくか、北京に攻めて来る共産党軍を効率良く撃退し続けて息切れを待つか、どちらが良いかな。

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