第24話「旅支度」
「んにぇ……ふぁぁ、……ん?」
かざむとテロルの間に挟まれて寝ていたたわし。
外のパシャパシャという音で目がさめる。
テロルは唾液を垂らして寝ているものの、かざむの姿も、布団もない。
外を窓から覗いてみるとかざむが昨日たわし達が入っていたゲーム内家具の露天風呂に浸かって溶けている。
お布団を片付けて朝風呂に入っていたようだ。
相変わらず風呂が好きだなぁ……。
皆を起こさないように布団を片付けて部屋を出る。
ひとまずご飯だ。
一階の宴会場にゲーム内家具、キッチンと壁掛けツールを設置した。
「ライスローズを10輪、鍋の中でクシャッとしてバラバラに、水も10カップ入れて浸水させる」
基本的な手順で行うと、食材の量が減らないは前回のお弁当で確認済みだ。
スキルを使って調理すると食材の味が低下したり、量が減る。
なら全てを基本的な手順で作るとどうなるのか。
ランクAになる。
スキルで作ったものよりも高品質だと認識されるらしい。
ゲーム時代は料理を食べると身体能力や経験値がアップする効果がついていた。
例えば、ランクAのラブラブオムレツなら魅力値と経験値増加の大幅な上昇の効果がついていた。
ランクBなら通常の上昇、ランクCは少量の上昇だ。
ランクDは経験値の上昇効果が消えていた。
魅力値はランクCの上昇のままだ。
ライスローズの浸水中の時間で他の料理を作る。
とろりんたまごをこれまた10個用意する。
ボウルに割り入れる。
「とろりんたまごを軽く混ぜたら、うましおソルトとつぶつぶペッパーを入れて更に混ぜるのだ」
どちらも適量だ。
フライパンを熱してオリーブオイリーを二粒転がすと、表面が熱で溶けて中からオリーブが浸み出す。
フライパンにオリーブオイリーの油を回して熱くなった所に、とろりんたまご液を三分の一流し混む。
液が半熟になる前にカモンチーズを上から摩り下ろす。
「にゃう、食べたい……我慢我慢」
芳醇なカモンチーズの香りが鼻腔をくすぐり、口から唾液が出て来た。
いけないいけない。
半熟になって固定されたらフライパンを斜めにし、くるくるとチーズ入り卵を巻き落とす。
焼いたチーズ入り卵をフライパンの端に寄せ、残ったとろりんたまご液二分の一を流し混む。
「フライパンが重くなってきたぞぉ」
カモンチーズを再び摩り下ろして、卵を巻く。
最後のとろりんたまご液を流し込み、同じ手順を踏んで完成だ。
十人前なだけあってかなり重い。
お皿にうつして粗熱を取る。
ケチャップをかければラブラブオムレツの完成だ。
「もう一品作りたいなぁ……猫の手も借りたい」
「どうしたの姉ちゃん」
猫が風呂から上がってきたようだ。
「お、かざむ、丁度いい所に!このピーマン半分こして種を出して欲しいのだ」
「了解」
やみつきピーマン5個をかざむにやってもらう。
かざむがやみつきピーマンを半分こして種を取り出してくれる。
その間にたわしはまんまるオニオンを3個程縦に半分こにしてから厚めにスライス。
「お目目が痛いのだぁ……」
まんまるオニオンの切り口から刺激的なエキスが出て、目にしみる。
「涙が止まらないのだ」
エゲツないまんまるオニオンの攻撃に何とか耐えながら頑張って3個切り終えた。
「姉ちゃん、出来た」
弟が褒めて欲しいと目で訴える。
「にゃー、上手に出来たねぇ、まるでコックさんみたいなのだ!
おかげでお姉ちゃん助かったのだ、ありがとうねぇ!」
満足げな弟を送り出した後、種ぬきしたやみつきピーマンを細切りにする。
「スタミナにんじんを3本カットするのだ」
火が通りやすいようになるべく薄切りにする。
カットは銀杏切りだ。
最後に謎肉を一口サイズに適当にカットする。
フライパンにオリーブオイリーを今度は三粒のせる。
滲み出た油をフライパンに行き渡るようにくるくると回す。
火が行き渡ったら謎肉を炒める。
軽く焼いて別皿にうつす。
肉の旨味が入ったフライパンで、火の通りにくいスタミナにんじん、火が通りやすいまんまるオニオン、やみつきピーマンを順に炒める。
ある程度炒まったらビックポテトから抽出したデンプン粉をさわやかオレンジを絞った物と混ぜ合わせる。
デンプン粉は水魔法と風魔法と火魔法を使ってワードさんとヒメカツさんが徹夜作ってくれた。
オレンジ絞りはタクトパッパの腕力で絞ってもらったものだ。
なお一個目のさわやかオレンジはタクトパッパの手の中で皮ごと爆ぜ、繊維以外残らなかった。
今から作る料理はたわしのお家の家庭料理だ。
味の想像がつかないとワードさん達に言われたが、不味くない事は確かだ。
炒めた具材に肉を戻して炒め合わせる。
先ほど作ったデンプンオレンジを投入する。
水分が飛ぶ前に味を軽くみながら塩と胡椒を入れる。
ぐるぐる混ぜると肉の油とデンプンオレンジが程よく混ざり合ってとろみがつき始める。
酸味でお肉が柔らかくなり、火にかけた事で酸味が程よく飛んであまり酸っぱくない甘酢のようになった。
味は甘酢程しつこくなく、オレンジ独特の香りはしない。
オレンジチキンという料理の謎肉版だ。
我が家のオレンジチキンは甘辛くはない。
主張しすぎない甘さを塩胡椒で引き立てる味付けだ。砂糖は入れない。
オレンジの香りは肉の匂いと混ざり合い、まろやかで旨味がある香りに変わった。
口から送り込まれるソースは肉の油の旨味を生かしつつ、酸味と甘さが癖になる。
あぁ、この世界に生姜が無いのが非常に悔やまれる。
これ一品でご飯1合は食べたものだ。
さて、どんなフレーバーテキストになるのだろう。
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オレンジミート
ランクA
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異世界の家庭料理、オレンジの酸味と甘みが肉の油でコーティングされ、マイルドでジューシー。
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効果 体力↑50 MP↑50 経験値30%アップ
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あぁ、やっぱり、たわし達の世界は異世界なんだ。
今更帰ろうとは思わないがやはり悲しい。
考えないように一先ずフレーバーテキストを見る。
凄い効果だ。
同じHPやMPの上限をアップさせる料理でも上がるのは30、経験値は20%くらいだった。
まだどういう基準でアップするのかわからないが、おいおい研究するとしよう。
ライスローズの浸水が丁度良い頃合いなので鍋に火をつける。
沸騰するまでの間に並行してポテトサラダを作る。
ビックポテトの皮を10個剥いて茹でる。
まんまるオニオンを極薄にスライスし、スタミナにんじんは千切りにする。
この二つを塩もみした物を一旦放置。
ライスローズの鍋が沸騰してきたので弱火で12分。
とやりたいが正確な時間を測る手段が無い為鍋の蓋を開けて中の水分量を確認し、炊き上がりの判断をする。
ビックポテトに箸がスッっと通ったのでザルに上げる。
ここからが重労働だ。
置いてある餅つきの石臼に茹でたビックポテトを入れる。
杵でマッシュ開始だ。
「せいやっ、にゃっ、そいやっ」
程よくほぐれたら塩もみしたオニオンととにんじん、ミルで砕いたつぶつぶペッパーを入れる。
マヨネーズが欲しいが、この世界で酢はまだ発見されて無い。
当然マヨネーズも存在してないのだ。
そこで取り出したのはすっきりレモンだ。
とろりんたまごとオリーブオイリーの油、レモンを混ぜ合わせる。
分離しなくなるまで混ぜたら白っぽいマヨネーズモドキが出来た。
ふとライスローズの鍋を確認すると蓋の間から水分が出ていない。
「やべっ、ふぅ、あぶないのだ」
ライスローズの蓋を開けると水分がなくなりかけていたので火を止める。
蓋をして蒸らす。
石臼にマヨネーズを投入して混ぜ合わせる。
ポテトサラダの完成だ。
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ポテトサラダ
ランクA
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異世界の料理。まろやかなとろりんたまごとオリーブオイリー、すっきりレモンが混ざり合っている。素材の味につぶつぶペッパーのスパイスが加わって美味しい。
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攻撃力↑50 防御力↑50 経験値30%アップ
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これにも大幅な補正がかかっている。
とりあえず考えるのは置いといてお弁当を詰めよう。
ラブラブオムレツやオレンジミート、ポテトサラダを10当分して詰めていく。
これ一つあれば皆のお腹を一日は持たせてくれるはずだ。
にいさまの分も作った。
たわしはこれからにいさまを探しに行くのだ。
支度はバッチリだ。
「にいさま、無事だと良いなぁ」




