第弐話 流れるがままに
セリーナの言葉に踊らされ冷静さを保つことができなくなった天下。しかし、考えてみればみるほどその言葉は真実にしか思えないのだから、彼にとってはそれは辛いものにしかなりえない。
「あらあら、この程度で焦るなんて」
「だまれ!」
セリーナが言ったことは嘘ではない。これは事実だが、天下にとってその事実はあまりに残酷だった。今の生で魔王に出会えたことで救われたはずなのに……乗り越えたはずなのに……、自分が生きていた場所がこんな荒廃した世界へと姿を変えていたのだから心が乱される。
動きが鈍るが、フェンリルはその攻撃を本気にはしない。むしろ、天下の動きが悪くなるにつれ、その動きに対して同じレベルに合わせて動きを制限していく。
セリーナは元から、天下を殺すつもりなどない。彼女の目的はあくまでも魔王を倒すこと。今後の歴史を紡いでいく上でいらないものを排除すること。
「くそ!」
天下は焦る。心は乱され、体はいうことを聞かない。魔王にセリーナを合わせないためにも天下は負けられない。
対し、セリーナはフェンリルに任せて見ているだけだ。全てを記せし禁断の書庫を使い探り終わったとしても、彼女は天下の心を折って魔王のもとへと行かなければならない。彼を素通りするにはそうでもしなければ無理だというのは初手を合わせてすぐに理解したのだ。
天下を殺すこと自体は簡単だ。セリーナにとって殺人を犯すことなど何の忌避感もないのだから。だが、彼女はこの後に魔王との戦いを控えているし、彼の持つ知識自体は有用だ。心さえ折ってしまえば、洗脳すら容易いのだ。だからこそ、セリーナは無理な攻撃をせず、フェンリルを使っているのだ。
「いい加減さとりなさい。世界を壊したのはあなたたちなのよ。結果としてこんな世界がここにあるのよ」
「違う!こんな世界なのはお前みたいのがいるからだ!」
「あら?だったら、今世界に対して宣戦布告した魔王はどうなのかしら?」
言葉に詰まってしまう。今、世界を混乱に陥れたのは間違いなく魔王だ。今自分が守っているのはそんな人物だ。いくら、恩があるとはいえ今まで自分がやって来たのははたして正しかったのだろうか?そう考えてしまった。そう、考えてしまった。
「あ……あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
折れた。世界の敵は誰だったのか理解してしまった。自分が何者であるかを考えてしまった。もう、彼には冷静に自分を測ることなどできなかった。
「あらら、まさかここまでなっちゃうなんて」
そう言って、セリーナは天下の頭に手をかざす。
「う……ぁ……」
天下は軽くうめき声をあげ倒れた。
セリーナはそんな彼に目もくれず、魔王のいる城へと歩みを進めるのであった。




