第八十三章 お金はどこから来るのか
「お金は、どこから来るのか。」
林川は、その問いをノートに書いた。
仕組みを作る。
物を集める。
保管する。
運ぶ。
人が働く。
場所を使う。
どれにも、お金が必要になる。
「善意だけでは続かない。」
林川は、そう書いた。
そして、その下に、
「では、誰が負担するのか。」
と続けた。
行政が負担する。
企業が負担する。
地域が負担する。
利用者が一部負担する。
寄付を使う。
いくつかの方法がある。
ただ、一つだけに頼ると、その一つがなくなったときに仕組みも止まる。
林川は、以前考えた「役割を分ける」という方法を思い出した。
費用も同じかもしれない。
全部を行政に任せる必要はない。
全部を企業に求める必要もない。
全部を利用者に負担させる必要もない。
できる部分を分ける。
林川は、紙を三つに分けた。
「固定費」
「運営費」
「物そのものの費用」
例えば、場所を借りるなら家賃がかかる。
冷蔵設備を使うなら電気代がかかる。
物を運ぶなら燃料費がかかる。
人が仕分けをすれば、人件費がかかる。
それぞれ性質が違う。
林川は、一つずつ書き出した。
「何に、いくら必要なのか。」
そこが分からなければ、
「お金が足りない。」
という言葉だけが残る。
逆に、必要な費用が分かれば、どこを減らせるのかも見えてくる。
例えば、遠くへ運ばなければ物流費を減らせる。
保管期間を短くすれば、倉庫の負担を減らせる。
既存の施設を使えば、新しい場所を借りなくてもいいかもしれない。
林川は、少し前のページを開いた。
「すでにあるもの。」
そこに線を引いた。
新しい制度を作ることばかり考えていたが、
お金について考えると、既存の仕組みを使う意味がさらに大きくなる。
新しい建物。
新しいシステム。
新しい人員。
全部を新しくすれば、当然費用も大きくなる。
それなら、すでにある場所や人を使えないか。
林川は、
「新しく作る前に、今あるものを見る。」
と書いた。
そのとき、別のことに気づいた。
お金を出す側にも、負担がある。
企業なら、商品を提供するだけではない。
仕分けや搬送に人が必要になる。
行政なら、制度を作るだけではない。
予算を組み、確認し、管理する人が必要になる。
地域の団体にも、時間が必要になる。
住民にも、参加するための時間が必要になる。
林川は、
「お金以外の負担」
と書いた。
時間。
労力。
場所。
責任。
情報。
それらもコストになる。
だから、費用だけを比較しても足りない。
安い仕組みでも、誰か一人に大きな負担が集中していれば、長く続かない。
林川は、少し考えてから、
「負担の見える化」
と書いた。
誰がいくら払うのか。
誰が何時間働くのか。
誰が場所を提供するのか。
誰が問題に対応するのか。
誰が最終的に責任を負うのか。
そこまで見て、初めて本当のコストが分かる。
林川は、ノートの端に小さく書いた。
――無料に見えるものにも、誰かの負担がある。
その言葉を見ながら、少し考えた。
それでも、利用者から料金を取ればいいという話でもない。
必要な人が利用できなくなる可能性がある。
だから、
「誰から、どの程度負担してもらうのか。」
を考える必要がある。
一律に決めるのではなく、
利用する人。
提供する企業。
行政。
地域。
それぞれが無理のない範囲で負担する。
林川は、最後にこう書いた。
――負担をなくすことではなく、負担が一人に集中しない仕組みを考える。
しばらく、その文章を見ていた。
仕組みを作るということは、
物を動かすことでも、
お金を動かすことでもない。
人の負担を、どう分けるかを考えることでもある。
林川は、次のページを開いた。
そこには、
「誰がお金を出すと、何が変わるのか。」
と書いた。




