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約束の向こう側  作者: 亀
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第七十三章 お金の流れ

「お金。」


林川は、ノートの一番上にその言葉を書いた。


生活を支える。


物を安くする。


相談できる場所を作る。


誰かが失敗しても、戻れるようにする。


どれにもお金が必要だった。


では、そのお金はどこから来るのか。


林川は、しばらく考えた。


最初に思いついたのは、行政だった。


行政が費用を出す。


しかし、行政のお金も、どこかから集められている。


税金。


社会保険料。


その他の収入。


結局、社会の中をお金が移動している。


林川は、


「行政が払う」


と書いたあと、その横に、


「どこから?」


と書いた。


一つの場所からお金を出せば、別の場所にあるお金が減る。


だから、単純に「予算を増やせばいい」と考えるだけでは足りない。


何に使うのか。


どのくらい必要なのか。


どのくらい続けるのか。


その結果、何が変わるのか。


林川は、そこまで考えてから、少し手を止めた。


以前の自分なら、費用を「必要経費」としてまとめていたかもしれない。


でも、今は少し違う。


お金は、ただ消えるわけではない。


誰かに支払えば、その人の収入になる。


商品を買えば、店の売上になる。


運送を頼めば、運送する人の仕事になる。


施設を作れば、建設する人の仕事になる。


つまり、支出は同時に、誰かの所得にもなる。


林川は、そのことを紙に書いた。


「支出」


↓


「誰かの収入」


その下に、


「収入」


↓


「消費」


と書く。


さらに、


「消費」


↓


「企業の売上」


と続けた。


一本の円ではなく、何本もの線がつながっていく。


しかし、そこでまた問題が出てくる。


お金を使えば、必ず良い循環になるわけではない。


必要のない物を大量に買えば、資源を使う。


一部の場所だけにお金が集中すれば、別の地域には届かない。


短期間だけ支出を増やしても、続けられなければ効果も限られる。


林川は、少し考えてから、


「どこへ流れるか」


と書いた。


お金の量だけを見るのではなく、


どこから来て、


どこへ行き、


その結果、何が残るのか。


そこを見る必要がある。


例えば、地域で必要な物を買う。


そのお金が地域の店に入り、


店が従業員へ給料を払い、


従業員がまた地域で買い物をする。


そういう循環が続けば、地域の中でお金が動く。


一方で、必要な物を買うために遠くへ行かなければならなければ、交通費もかかる。


時間も使う。


林川は、前に考えた「生活コスト」を思い出した。


お金は、金額だけではない。


そのお金を使うために必要な時間や移動もある。


「だから、生活コストを下げることは、お金を配ることだけじゃない。」


林川は、小さく呟いた。


近くで必要な物が買える。


必要な情報が簡単に手に入る。


相談先が分かる。


不要になった物が地域の中で循環する。


そういう仕組みも、結果として生活に残るものを増やす可能性がある。


林川は、そこで一つの疑問を持った。


もし生活に必要な支出を減らせたら、その分のお金はどうなるのだろう。


貯金する人もいる。


別の物を買う人もいる。


借金の返済に使う人もいる。


病院へ行く人もいる。


人によって違う。


だから、そこまで含めて「人がどう使うのか」を見る必要がある。


林川は、ノートの端に書いた。


――お金を動かすことが目的ではない。


――人の生活がどう変わるのかを見る。


その言葉を見て、少し安心した。


数字だけを追い始めると、いつの間にか人が見えなくなる。


しかし、数字を無視しても、仕組みは続かない。


だから、両方を見る。


お金の流れを見る。


その先にいる人も見る。


林川は、ノートを閉じた。


「お金を出すか、出さないか。」


それだけではない。


「どこから集めて、どこへ流して、何を残すのか。」


そこまで考えなければならない。


窓の外を見ながら、林川は次の問いを考えた。


もし社会全体のお金に限りがあるなら、


どこに使えば、生活を支えることと、社会そのものの力を残すことを両立できるのだろう。


まだ、答えは出なかった。


けれど、問いの形は少しずつ変わってきていた。

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