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約束の向こう側  作者: 亀
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第四十一章 自分で進む道

四月の後半。


会社とのやり取りは続いていた。


組合から送った文書に対して、会社から返事が来る。


その返事を組合が確認する。


必要な部分について、また質問する。


凌もそのたびに、自分が持っている資料を確認した。


同じ出来事について、違う書き方がされている。


日付が違えば、意味も変わる。


誰がその場にいたのかによっても、話は変わる。


凌は以前より慎重になっていた。


「たぶん」


という言葉だけで判断しない。


「聞いた話」と「自分が見たこと」も分ける。


「自分が思ったこと」と「相手が実際に言ったこと」も分ける。


ノートのページは、少しずつ増えていった。


ある日の午後。


凌は机の前に座って、日本語の問題を解いていた。


しばらくして、問題集を閉じた。


別の資料を開く。


特定技能について書かれた資料だった。


技能実習とは違う在留資格。


必要な試験。


日本語能力。


分野ごとの技能試験。


受け入れてくれる会社。


必要な手続き。


一つずつ確認する。


凌は、紙の端に書いた。


「介護」


その下に、


「農業」


と書いた。


介護については、すでに試験を受けた。


結果も出ている。


一つの可能性として、残っている。


そして、もう一つ。


農業分野の試験について調べていた。


五月一日に試験がある。


まだ時間はある。


凌は、試験の日程を確認した。


「五月一日」


スマートフォンに予定を入れる。


それから、勉強する内容を整理した。


知らない言葉が出てくる。


一度では覚えられない。


調べる。


書く。


もう一度読む。


それを繰り返す。


途中で、スマートフォンに組合からメッセージが届いた。


会社とのやり取りについてだった。


また確認が必要なことがあるという。


凌は文章を読んだ。


以前なら、これを見ただけで気持ちが重くなっていた。


また問題が続く。


また説明しなければならない。


また返事を待たなければならない。


そんな気持ちになった。


けれど、今は少し違った。


組合が会社と交渉している。


その間に、自分は自分のことを進める。


どちらか一つだけをする必要はない。


凌は返信した。


「確認しました。必要な資料があれば送ります」


送信する。


それから、また農業の資料に戻った。


しばらく勉強していると、分からない言葉が出てきた。


凌は辞書を開いた。


意味を確認する。


例文を読む。


そして、ノートに書いた。


一つ覚える。


また一つ分からないことが出てくる。


それでも、少しずつ進んでいく。


夜になった。


凌は窓の外を見た。


工場で働いていたころとは、時間の流れ方が違う。


仕事がない。


だからといって、何もしていないわけではない。


相談している。


資料を整理している。


日本語を勉強している。


別の仕事について調べている。


試験の準備をしている。


自分の生活を、自分で立て直そうとしている。


その途中で、誰かの力を借りることもある。


それは、自分が何もできないということではない。


凌は、そんなふうに考えるようになっていた。


机の上には、二つの紙が並んでいた。


一つには、会社との交渉について。


もう一つには、五月一日の試験について。


どちらも、まだ答えは出ていない。


凌は二枚の紙を見比べた。


「どちらも、自分の未来につながっている」


そう思った。


一方だけに答えを求める必要はない。


会社との問題が解決すれば、それで全部終わるわけではない。


別の仕事に移れば、それまでの問題が消えるわけでもない。


自分の人生は、一つの出来事だけで決まるものではない。


凌はペンを持った。


五月一日までの日付を、ノートに書いていく。


一日ずつ。


勉強する。


確認する。


そして、その日を迎える。


会社との返事を待ちながら、自分の道も進める。


それが、今の凌にできることだった。

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