序章①動向
「すいません」
見た目は人に近いが、頭の上に生えた耳や、縦に広がる瞳は、彼女が亜人の血が流れている証拠である。半亜人であるメイド服を着た少女ティリアは、不規則に揺れる馬車の中で用意された厚めの毛布の上で横になり、視線を落としてくる猫亜人族の先輩や主人である青年に、定期的に謝罪していた。
「慣れない間は仕方がない。俺も昔はそうだったからな」
青年は何度も謝る必要はないと彼女が口ずさむ度に告げてきたが、ついに諦めたかのように左右の眉の外側を下げる。
再び目を瞑った少女の表情を確認し、青年が口を開く。
「仕方がないとはいえ、転移陣を壊したのは勿体なかったな、コルティ」
お陰で、目的地の移動までに時間がかかると青年が嘆く。
「むしろ、一瞬で転移できる方が異常なのですよ、御主人様」
とはいえ、とメイド服を纏ったコルティが苦笑する。
「頭の中では分かっていても、使い慣れてしまうと、流石の私もそう思う事が多くなりました」
各街に拠点や仲間を密かに配置しているとはいえ、時間と情報の速さは貴重である。青年は揺られる馬車の中で頬杖をつきながら溜息を漏らす。
そして、話がずれたままだった事に、はたと気付きた。
「あぁ、すまん。コルティ、話の続きを頼む」
青年の前で座るコルティが小さく頷き、表情を改めて報告を続ける。
「隣街のグーリンスで、大量の鉄や銅が集められている情報は事実のようです」
「武器や防具の値段は?」
「ここずっと上がっています。併せて、食料の値段も遅れて上がり始めているとの事です」
武器や防具に限らず、需要がなければ作る程に安くなり、見合った利益は出づらいのは経済の常識である。食料や薬、生活用品等ならともかく、武具の類は購入者が限られる。
つまり、売る為の買い付けではなく、使う為の生産という事になる。




