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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
新しい家族

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あわあわ〜からの天使誕生

 どんなに目が冴えても、所詮は子供。

 しかもあんなに泣いた。夜通し起きているなんて無理で熟睡。


 次に目が覚めたときには、私は独りじゃなかった。

 隣には両親がいて。二人はずっと前に起きていたらしく、バッチリと目が合う。


 着替えは既に終わらせていて、ベッドに座って私の寝顔を観察していたみたい。


 朝から美しすぎる微笑みを向けられて頭が爆発した。

 頭から出る煙を隠すように毛布を被る。


 部屋はもう暗くない。明かりも消えていた。

 眩しくないようにカーテンで日差しが遮られている。


 柔らかい光は目に優しい。あのカーテンが特殊なのだろうか?


 「ユーリ。まだ寝たいだろうが、そろそろ起きようか」

 「ん……」


 声は全く出せないわけではない。今みたいに一言なら苦しくないし、相手にも意志を伝えられた。


 ──あれ?着替えないんだ。


 リミックは軽々しく私を抱き上げた。

 部屋の外にはオレンジに近い赤髪の女性が待機していて、私をその人に預ける。


 子供を抱っこするのに慣れているのか、すごく上手。


 「初めまして、お嬢様。今日からお嬢様の侍女となりましたリンシエと言います」


 可愛らしく微笑んだ。


 リミックやレーゼルもそうだけど、公爵家に仕える使用人からも良い匂いがする。

 身なりに気を遣うのはマナーなのだろう。


 サァァっと血の気が引いた。腕の中でバタバタと暴れると、リンシエはそっと降ろしてくれる。


 足に力を入れているはずなのにら体を支えきれずにそのまま倒れた。

 頭からいかなかったので、痛くはない。

 起き上がらせてくれようと伸ばされる手が嫌で、激しく首を振る。


 ユーリは気付いたときにはもうあの部屋にいた。外に出たことは一度もない。

 それはつまり、生まれてからお風呂に入ったことがないということ。


 多少の清潔を保つために濡れたタオルで雑に体を拭かれるだけ。

 それも週に一度。

 石鹸を使われたこともないので、汚れは落ちていない。

 全身を拭いてくれるわけでもなく、片腕や片足だけ。酷いときには濡れたタオルで顔を叩かれて終わり。


 ──よっぽど私に触れたくなかったのか。


 私からは異臭がしているはずのに、嫌な顔することなく触れて、抱き上げてくれるみんなの優しさに、恥ずかしくなった。


 「お嬢様。お風呂に入りましょう」

 「う?」


 リンシエは優しく言葉をかけてくれる。


 「可愛いお嬢様をもっと可愛くするお手伝いをさせて下さい」


 私が匂いのことを気にしていると瞬時に悟り、気にさせないような言い方をしてくれた。


 両膝を付いては小さな手を包み込んでくれる。

 あくまでも私の意志を尊重してくれるらしく、首を横に振っても怒らない。


 何時間もかけて髪や体を拭いてくれるのだろう。


 どうしたいかを自分で選べる自由。当たり前のことは当たり前でないと実感する。


 小さく頷けば「ありがとうございます」と言った。


 「ユーリのことをよろしくね」

 「お任せ下さい。奥様」


 頭を下げて浴場へと向かう。


 お金持ちのお風呂は泳げるほど広かった。

 ゴリゴリのマッチョが何十人入っても、まだまだ余裕がある。


 この床は大理石?

 彫像とかは置いてないんだ。お金持ちのお風呂って、像からお湯が流れているイメージだった。


 ここは私の生きていた世界とは異なるし、常識が当てはまらないのも事実。


 薄いピンク色のお湯には幾つもの花が浮かべれていて、それがとんでもなく良い香り。

 鼻の奥を突き抜ける甘く爽やか。あの数なら匂いが濃くなりすぎるはずなのに、そんなこともない。


 ぬるま湯をゆっくりと体にかける。

 泡立ったボディーソープを腕に付けると白い泡はみるみる黒くなっていく。


 リンシエ曰く、ボディーソープが黒くなるのは汚れが浮いているから。


 泡を洗い流し、同じ箇所にもう一度付けるとすぐに黒くなった。


 それほどまでに私は汚く汚れているということ。


 「お嬢様。あわあわ~、ですよ」


 私が目を逸らしかけた瞬間、リンシエは全身を泡まみれにした。

 白が黒に変わり泡を流す。


 それを何度も繰り返すと、すっかり汚れはなくなった。


 小さいとはいえ、私が綺麗になるためにどれだけの量を消費したのか。

 申し訳なさでいっぱいだ。


 ───物はタダじゃないのに。


 しょんぼりしてる私を湯船に入れて、今度は頭を洗う。

 台に乗せてくれたから沈む心配もない。


 「お嬢様。洗う前に髪の毛を揃えますね」


 すっかり伸びきった髪を切ってくれるリンシエは手馴れている。

 退屈しないようにか、家族の話をしてくれるリンシエは楽しそう。


 家があまり裕福ではないから使用人を雇えず、ほとんどのことは自分達でやっていたらしい。

 下に弟妹がいて、髪を切るのも長女であるリンシエが率先していた。


 手先が器用というのも理由の一つだったとか。


 公爵家で働くようなりに、従来の給料より多く貰え、半分以上も実家の仕送りに当てていた。


 残ったお金は贅沢などせず、貯金に回す。家族に何かあったとき、すぐ助けられるように。

 結局、世の中はお金だ。お金があるとないとでは、大きく違う。


 自分のことは後回しで、一番に考えるは家族のこと。

 リンシエがいかに家族を愛して大切にしているかよくわかる。


 髪が整うと洗髪だ。

 リラックスしている間に髪は洗われていく。

 ボディーソープと同じだ。泡を髪に付けてるだけで黒くなり汚れが浮いてくる。


 上から下まで綺麗さっぱり汚れが落としてもらい、私はゆっくりと肩まで浸かった。


 ──リラックス効果でもあるのかな?


 顔が蕩ける。

 足が伸ばせる広いお風呂はいつぶりか。

 何年か前に友達と温泉に行ったのが最後だったような。


 バシャバシャと足を動かして満喫していると、5秒と待たずに疲れてダウン。


 「お嬢様。もう上がりましょうか」


 今の私はあまり長湯するのが危険で、もうお風呂タイムは終わり。


 体を拭く前の濡れた肌に何かの液体を満遍なく伸ばす。


 あ、この香り……。


 「お気付きですか?この香油は旦那様と奥様が付けてる物なんですよ」


 湯冷めしない内にフワフワのタオルを包んでくれた。

 ゴシゴシではなく優しくトントンと肌を傷つけないように水分を拭き取る。


 リンシエの妹が着ていたというワンピースは私にピッタリのサイズ。


 「さ、出来ましたよ」


 着飾った私が自分の姿を見られるように姿鏡が運ばれていた。


 初めて見たんだ。名前を与えられなかった「ななし」の姿を。


 そこに映るのは薄く暗い色ではあるけど汚れが落ちたことにより、くすみはなくなりリミックの髪色に近い灰色。


 あんなにも長かった髪は首節が隠れる程度まで短くなり、細めの鮮やかな緑色のリボンでお洒落に仕上げてくれた。


 目も大きくパッチリしてスカイブルーの瞳が目立つ。


 こんなにも愛らしかったんだ。


 主人公の妹というだけはある。このまま成長したら可愛い系になること間違いなし。


 表現がやや死んでいるのは気のせいではない。


 そりゃそうなんだけどね。今までずっと、まともに人と接してこなかった。

 人間に感情があることさえ知らなかったのだ。


 表情筋がただの1ミリも動くことはない。


 「さ、お嬢様。次は朝食ですよ」


 ご飯!!


 意識するとお腹が減る。

 まともなご飯なんて食べた記憶がないから自然と胸が踊ってしまう。


 リンシエに抱っこされたまま食堂へと向かい、既にリミックを始めとした四人が席についていた。


 そこでは当然のように私の席も用意されていて。


 「か……」


 ティアロは口元を手で隠しながら肩を震わせる。


 怒って……いるのだろうか?私のせいでいつもより朝食が遅くなっているのは明白。


 上級貴族ともなれば1秒だって無駄にしてはならない。


 謝りたくて頑張って声を出そうとした瞬間


 「可愛すぎる!どこの天使が迷い込んできたのかと思ったぞ!!」


 ………………はい?


 ティアロだけではなかった。ノルアも言葉にこそしないが同じ目をしている。


 天使は私ではなく貴方達ですが?

 その誰もが羨む美貌は万人に愛される。


 ここが天国でないのなら地上の楽園。


 「さっきから何を言っている。ユーリが天使なのは元からだろう?」


 リミックは何言ってるの?


 今はともかく、綺麗にしてもらうまでは人が近づくのを嫌がるレベルで汚れ臭っていたからね。


 「ユーリが可愛いのは見てわかるわ。それより食事にしましょう」


 ちょこんと椅子に座らせてもらうも、全然低い。

 高さを調整するためのクッションも用意してくれているのに、それでも足りなかった。


 栄養なんて摂ってこなかったから4歳児にしては小さいほうだけど。

 思っていた以上に小さかったことに驚き。

 平均にやや満たないどころか、もっととは。


 「すまない。大人用の椅子ではユーリには合わなかったな」


 私を膝の上に乗せてくれたタイミングで、料理が運ばれてくる。


 小さくないから気にするなと言ってくれた?


 こんなにも優しくて気遣ってくれる人ってほんとにいるんだ。


 焼き立てのパンは食欲をそそる匂い。

 短い手を伸ばしても取れないと最初からわかっているので、リミックが取ったものを分けてもらう。


 ジャムも数種類あり、私は定番のイチゴを塗りたい。


 「ユーリのご飯はこっちだ」


 適温に冷まされたスープ。野菜も入ってる。

 容器もかなり小さく、私が食べられる量を考えてくれていた。


 待てよ。この体勢だと私が食事を摂れる方法は一つだけでは?


 スプーンを手にしたリミックは案の定、あーんをしてくれる。


 羨ましそうに見てくるノルアとティアロはして欲しいのかな?

 二人はもうそんな歳ではないし。

 まさか……。されたいではなくて、したいほう?私に。


 握力のない私がスプーンを持てるはずもないだろうけども。

 これは恥ずかしすぎるな。


 純粋たる厚意(やさしさ)を無下にするわけにもいかず、観念して食べさせてもらう。


 胃を刺激しないように薄味ではあるけど、野菜の旨味が凝縮されている。

 小さくカットされた野菜もよく煮込まれていて、噛む力のない私でも簡単に舌で潰せた。


 人間らしい食事を初めて食べて、初めてお腹いっぱいになる幸せ。


 ──あ……。


 食べることに夢中になりすぎて失念していた。


 私に食べさせてくれている間、リミックは自分の食事が出来ない。


 私のバカバカ!!あまりにも美味しすぎて次から次へと催促してしまった。


 こんなにも優しくしてくれる人に、自分勝手なことをしてしまったのだろうか。


 自分でも呆れてしまう失態を咎めることなく、頭を撫でてくれるリミックにお礼がしたい。


 何がいいだろうか。


 悩んでいると食事は終わり、出掛けるからと支度に取り掛かる。

 コートを羽織るだけなんだけど。


 留守番の時間を使ってお礼を考えようと意気込んでいると、私も一緒にと言ってくれた。

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