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潰したくない才能

 次の日、善継の元に酒を飲みながら遊びがてら行き、善継に説明された。

 こんなにも繁盛している化け物屋敷の内容を。

 善継は、お酒を飲んでふらついてる黒兵衛を見つけるなり捕まえて、化け物屋敷の繁盛を教えてくれた。





「弱者が強者を虐める?」


 善継の突拍子もない発案に、黒兵衛は訳が解らなかった。

 何だってどうやってそんなことができるのだ。

 いつだって、強者に弱者は虐げられて、どの時代も強者を恨んでいるというのに。

 憧れる者だってそらぁ、いるだろう。だが、憧れがあれば、僻みというものもつきものであり。

 何より、強弱には正義がつきもので、強者こそが世界を変えるような力を手にすることができるのだ。

 色んな意味で強い者が。



「そう、弱者が強者を、こてんぱんにするんです」


 善継は機嫌良く愛想を振りまいて答えた。

 今日ばかりは「不思議な人」ではなく、「商売人」であり「芸術家」であった。

 普通の人間に見えるようになってきたからある種「不思議」ではある。



 ああ、今日が完成日だったかと黒兵衛は考えて、「これから引き離さないといけないんだよなぁ」と憂鬱な気分を思い出した。

 場所は以前に絡繰りを見せてくれた場所だ。

 これでは人は来ないのではと杞憂していたが、そんな心配は無用であった。ススキ色の草原が辺りにあるので小便もしやすく、小便したくなったら、店から遠くの草原に行けば済むことだ。それによって、待ちやすいことも判った。


 何より、化け物屋敷を作ったのが善継だとあって、少し名が知れているらしい。若いうちから、化け物屋敷に取り憑かれた青年の妄想は、より一層不思議な世界で不気味な世界を描いて独特の空気がある、と。

 人が大勢わんさか並んでる姿を見て、黒兵衛はぽかんとしていた。



「芥子を塗ると、――いいや、これは、やってもらったほうが分かりやすい。黒さん、並んでやってみてくださいよ。どうせ、博打しか予定はないでしょう? 碌でもない人なんだから」



 博打はすでに終わっていると言ったら、善継は何と言うだろうか。

 どうせ馬鹿にして笑って終わるだろうと思ったが、今日の興奮具合を見ているとそんな些末なこと気にしそうにない。


 そこまで言われると、並んでやってもいいかなと思う。最後の言葉は聞かなかったことにする。

 黒兵衛は「しゃあねぇ」と並び出す。ところが、何番目になるのか、さっぱり見当もつかぬほど、人が並んでいる。


 これは下手したら、二刻くらいは並ぶかもしれぬ。

 酒が片手にあってよかった。酒で暇潰しできる。酒の酔いが良い加減に回り出した頃、黒兵衛の番がやってきた。



 黒兵衛は、入る前に善継に「芥子を塗るんですよ」と言われて、首を傾げた。

 中へ入れば、そこは暗い中に、青い昼行灯。その青い昼行灯が怖さを演出する役割で、人形は、どうやら織田信長のようだ。


 織田信長が乞食たちに肉を削ぎ取られており、乞食たちは信長の肉を喰らっている図であった。

 人形の一人は、織田信長の削ぎ落としている足に芥子を塗っている。実際に塗ってもいいような出来になっていたので、塗ってみた。

 すると、それまで信長を見ていた乞食たちの眼が、ぎろりと動き、黒兵衛を見つめる形に動いた。

 からからとは、どこかで聞いたような音だ。

 とにかく、全ての眼が黒兵衛に向いているので、一気に肝が冷えた。もくもくれんという、瞳が無数にある妖怪まで急に現れ、黒兵衛を見つめてる。どきりとした。


 信長の声が聞こえる気がする。


(助けてくれ、助けてくれたら、十万石やろう!――)


(そこの方は、帰ってくんな。帰らないと、同じ目に遭わせますぜ。あんただって、強者なんだから――)



 酔ってるからか、効果的にそんな言葉が浮かんだ。


 天才をどうして、潰そうとするのか。春はどうして、この天才的な世界を善継から取り上げたがるのか。



 よくは判らない。ただ、判るのは――。

 黒兵衛は慌てて退室し、善継の元へ向かう。興奮そのままに。



「善継、すげぇもん作ったな!」


 ただ判るのは、天才から才能を奪ってはいけない、ということだ――。



 善継は褒められると、年頃相応に素直に笑い、頷いた。



「クルミを磨くのに苦労しましたよ。あの眼、全部クルミなんです。沢山あったでしょう? 芥子は、塗られた重さで眼が動くようにしてるんです。いやぁ、あの親子の眼差しから閃いたんですよ。眼が物を言う、ってね」



 自慢げな善継の顔を見て、黒兵衛の答は決まった――。









「善継、春に伝えてくれ、賭けは俺の負けだ、って」


 善継の才能が一押しになった。自首する勇気に。

 自首するつもりは善継や春に出会うまではなかった。

 二人の輩をどうすれば幸せにできるか考えた結果だ。

 さて、最後にこの田舎小僧、どうやって暴れてやろうか。


 必要な着物は、帰るときに、いつもの旅団の人々に話しかければ、要らなくなったと言われた品々を貰った。

 何に使うんだと眉をひそめ顰められたけれど、これからを考えれば大笑いできる、げらげら。


 夜が深まるのを待って春に悟られないように気をつけて、妻から昔習った手縫いで品物を作り上げるの、あはは。


この章はこれで終わり。あと2章くらいですかね。

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