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以前のコンセプトは……

 白昼、堂々と夢を見る。



 今にも取り憑かれて死にそうな善継に与えられた、睡眠時間。

 座長の虎吉も「こいつは危ないな」と、思い詰めてる姿を危険視したのだろう、善継には「仮設の天幕で睡眠を摂れ」と。時間を与えられた。


 何せ、黒兵衛が来るまでは、寝るのも食べるのも時間を惜しんで、何か閃かないかと、うんうん唸っている。

 黒兵衛との遊びは、良い気分転換にはなったが、体は疲れたままだった。



「座長、お春には、俺は屋敷で寝ていると伝えて下せえ」


 屋敷といっても、皆が想像するような屋敷ではない。化け物屋敷のことだ。

 虎吉が頷くのを見てから、善継は化け物屋敷予定地で睡眠を摂ることにした。



 燃えた化け物屋敷。あの時に作っていた話は、さて、どんな話だったか。

 笑いと恐怖が隣り合わせになるように、必死に考えたのに。そうだ、ちょいと思い出してみよう。

 瞼を瞑れば、何かの見せ物みたいにあっさりと想像できる。

 人物像から声まで。




 慈郎は売れてる二枚目役者、いつも満席の芝居者。

 又吉はうだつの上がらないが、どこか何かを秘めてる未知の可能性を持つが諦めた爺の役者。


(慈郎さん、その役をお譲り下さい)


 天下一品の芝居役者の慈郎に、ある日、引退間近だからと、役の交代を願う芝居役者、又吉。

 又吉は慈郎から情けで役を貰い受け、公演をする。ところが、何と又吉が公演したほうが収入がいいし、伸びも評判も、うんと良くなった。



(あれは、俺のものだったのに! 返せ、返せ! その役は、俺のもんだ!)


(嫌だね。慈郎さんの情けのお陰で、こうして日の眼を見られた。最後くらい、日の眼に当たったって、いいじゃないですか)


(そしたら、お前は伝説の役者として名を刻まれ、俺は役をおめおめと渡した間抜けな三枚目となってしまう。そんなの許せない!)



 慈郎は又吉に馬鹿にされるのが許せなくて、ある日とうとう――。



「殺してしまうんだ。そう、殺してしまう時が、公演の直前だから、客は死んでることに気付かない。役の中身が変わっても笑って見ていられて、又吉は幽霊で『中身が変わっても何故、俺の名を呼ぶんだ』と苦痛の恨み辛みを込めた表情……――あれを越える化け物屋敷ですか」



 あの化け物屋敷は、女が怪談の風流なところに、男を混ぜ込んだから、成功したと思える。女にしか恨み辛みがないと思えば、幽霊が女だけかと思えば、大間違いだ、という斬新な発想だったのだ。



 白昼堂々、夢を見たい善継。できるなら、おぞましく、同時に、愉快で滑稽な夢であれと願い、睡眠を摂ってからも、考える。

 睡眠をまた貪ろうかと考えてるところに、片恋相手がやってきた。


「善継、また化け物屋敷のことでも考えてるのかい?」


「お春。ご名答、ですが、やっぱり中々浮かびませんね」


「前に作ったのと同じでいいじゃないか。ココは新橋じゃないんだし、ばれやしないさ」


 やってきた女性――春は、善継の隣に腰掛けると、善継の髪に触れ、撫でる。

 瞳には親しみが籠もっていて、善継の眼を恐れない、最初の人であった。

 春は、自らを妖怪だと名乗って見せ物になってる身である。妖怪というよりは、魔性の気配がある気がするのは俺だけだろうか、と善継は少し苦笑した。



「ばれる、ばれないの問題じゃないんです。俺の自尊心を傷つけないでくださいよ。お春みたいに、心臓に毛が生えてるわけじゃねえんですから」


 善継がさめざめとすると、春は噴き出して、神社の鈴のような大きな笑い声で笑い転げた。


「そうだね。あんた、か弱いもんね。眼の力がなければ、あっという間に死んでるわ」


 笑い転げられると調子に乗って、善継は女のしなっとする姿をわざと強調してみせて、女の振りを演じる。


「そう、弱いんです、俺。だから、口先だけで生きていくしかないんですよ。眼には頼りません」


 笑いが続くかと思って、善継はそこまでしたのに、春は今度は笑わず、溜息をついた。


「あんた、何で開き直れないんだい? 眼の力で死んでいくのは、あんたの所為じゃないでしょう」


「いいえ、俺の所為ですよ。俺が睨まなければ、それで終わる話ですもの」


 それは蟻に巣を作るな、と命令するくらい無理な話だと思いはする。だが、それでも自分の所為であると強く感じる。

 春には、それが理解できないのか、毎度この話になると、溜息をつかれる。

 春は変わった女性だった。美女ではあるが、春の態度が美女であるということを忘れさせるくらい強気で、肝っ玉がでかかった。

 春と知り合ったのは、六年前。善継が恐らく十八のときであった。恐らくというのは、自分の本当の年齢など判らないからだ。


 善継は捨て子であり、虎吉に育てられた――と、周りは言う。

 だが、本来は、もっと違う温もりを覚えている。虎吉とは違う温もりを覚えているのに、それは誰だか判らないから、もどかしい。


 春に似てると言ったら、春は嫌な顔をするだろうか?

 話が逸れた。元に戻して繋げると、六年前に、自ら見せ物小屋で働きたいと申し出てきた、正体不明の美女であった。

 最初は警戒していた善継だったが、春の性格の良さと、眼を恐れない肝っ玉に感心し、仲良くなっていったという次第である。

 今では春は、善継にとっては、欠かせない片恋の人である。

 俺に欠かせないのは、春と化け物屋敷くらいだ、と本人に言ったら、大層怒るだろう。



「善継。所詮、この世は弱肉強食さ。それを何で、あんたは理解できないんだ? あんたなら理解できそうなのに。頭は、むかつくことに、結構いいんだからさァ」


「うーん、その言葉が、俺には苦手でありまして。いや、別に弱者が可哀想とか偽善めいた気持ちを持ってるわけではなくて、ただ単に――弱肉強食という化け物屋敷に取り憑かれてばかりだからですよ」



 弱肉強食?


 さて、誰が化け物屋敷をそう決めたのか。ふと口走った言葉に疑問を覚えた。


 そこまで深く思案してから、善継は思いついた。

 そうだ、弱肉強食ばかりの世界を描いてきたのだから、今度は――弱者が強い者を陥れる話にすればいいのではないか。そのほうが受けもいいのではないだろうか、と閃いた。



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