認めるのね
結論から言うと、全て、ルイの手のひらの上だったということになる。
いろはがあの思い出の場所へと歩き出したのは思いつきではなかったらしい。
「……まったく。会長の頭の中を覗いてみたいな」
まあ、考えてみれば当たり前だった。
いろはは脱走事件の真相を知らないのだ。あの場面であそこへと導く意味がない。もしも、思いつきで言ったのなら、賭けになる。行ってみたところでなにもなかったという可能性もあったのだ。
そこへ、ルイが絡んでくるとなると話が変わる。
ルイはこの街一番の大富豪、華渓院家のお嬢様だ。中学生時代からその天才的な頭脳と美しい容姿は有名だったらしく、人望も今と変わらないくらいあったとか。要は、あの大騒ぎになった脱走事件をルイが知らないはずがないのだ。
黒花が友達のところへ遊びに行くと言って出て行った後、ルイはいろはの家にまず電話をかけた。その時、ルイは「もしも、説得できるような機会が訪れたらそこへ行ってみろ」と教えていたらしい。
相変わらず、種を植える作業が好きな人だった。
それを本人に言ったらニヤリといつもの笑みを浮かべられた。
「さてと、いくつか質問させて欲しい」
ゴールデンウィーク明けの五月九日、金曜日。
選抜クラスの授業が終わるのを待って、駿平といろははグループホームへと向かった。
脱走事件の翌年から、瀬名、駿平、いろは、康弘の四人でちょっとしたパーティーをしている。さすがにグループホームの利用者全員でというわけにもいかないので、瀬名の部屋で細々と、ではあるが。
しかし、今年はいつもと違う点が一つ。
黒花が、そこに参加してきたのだ。
駿平といろはを黒花は学校の玄関で待っていた。どうしたのか聞くと「今日の命題ね」と返答。何度聞き返してもそれしか返さないので、そのまま歩き出すと、黒花は後ろから着いてきた。そしてそのままグループホームへ入り、どういうわけかパーティーにも参加したのだ。
それだけで、もう黒花の出した解答は分かった。
「質問の多い男性は嫌いよ」
瀬名の相手は康弘といろはに任せて、二人で屋上に来ていた。一番大切な答えは分かっても、謎は残っているのだ。
山に日が落ちていくのを眺めながら、問答を繰り返す。
「俺はお前の好みに興味はない」
「本当に?」
「本当だ」
先ほどから、五分以上こんな感じで話が進んでいない。
「こうされても?」
と、唐突に黒花は駿平の目の前でワンピースを脱ぎ始める。
片腕を袖から外して、もう片腕も――
「て、やめろバカ!」
言いつつ、黒花の真っ白な肌を眼に焼き付けようとしている自分がいることに若干自己嫌悪。
「私、胸はあまりないけど、それなりの需要はあるつもりだけど?」
それについては同意する。
桜色の髪の毛も見慣れてくると案外可愛く見えるのだ。
もともと、華奢で守ってあげたくなるような雰囲気のある黒花だ。需要があるかないかと問われれば、あると答えるに決まっている。
じゃなくて、
「いいから服をちゃんと着てください、お願いします」
「いいの? ブラとかも見えてると思うけど?」
ええ、いい感じに見えてますよ。
どこまで黒が好きなんですかあなたは。
じゃなくて、
「俺は真面目な話がしたいの! いいから着ろ!」
「真面目な話、私の身体もそれなりのものだと――」
「分かったから!」
「認めるのね」
こういう時、男というのは非常に弱い。
黒花にからかわれるというのはかなり屈辱的だが。
「ええと、それでたな」
黒花がワンピースを着直したのを確認し、コホンと咳払い。
「なんとなく流していたけど、あの男子生徒二人と黒花はどうして知り合っていたんだ?」
確認すべきはそこだ。
過ぎたことと流すのは簡単だが、気にならないと言えば嘘になる。




