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たとえ記憶が消えたって  作者: 彩坂初雪
気持ち悪い
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どうしてそんなに

「ところでさ」

「なんだ?」

「駿平、どうしてそんなに必死なの?」

「ん?」

 唐突に、意味のよく分からない質問をされた。

「黒花に、そんなに考えを変えてもらいたい?」

「んん? そりゃあ、まあな。黒花の考えが変わってくれれば、会長の言うようにこの後も開けてくるだろ?」

 いろはも同じだろうに、どうしてそんな質問が出てくるのだろうか。

「そうかな?」

 いろはは素直に同意しない。

「あたしには、どうも、『奏黒花に』、考えを変えて欲しいように見えるけど」

「んんん? 言っている意味がよく分からないんだが?」

 いろはは思案顔で続ける。

「もともとさ、あたしも駿平も、理解して欲しいなって思ってただけで、それほど強く皆にどうなって欲しいって思ってたわけじゃないでしょ?」

「ああ。それはそうだ」

 けれど、その問題に関してはルイの綿密な作戦によって自分たちの動く理由が裏づけされている。流されていると言われようと、それで良いと思っている。

「それなのに、今までの口ぶりだと、駿平は積極的に動いてるよね。あたしは、さっきも言ったように『これでいいのかな?』ってやっぱり考えながら動いてるよ? 会長の作戦がどうとかって話はあたしにも話してくれたから知ってるけど、それでも自分の意思としてどうなのかなって思いながら動いてる」

 ここまで遠まわしの言い方は、いろはにしては珍しかった。

「話が見えないんだが? どういうことだ?」

「たった今、駿平も一緒に同意して、一緒にどうなんだろうねって話してくれたけど、それってあたしが言わなかったら考えなかったことじゃない?」

 道路に落ちていた石をこつんといろはが蹴る。

 転がっていった石はそのまま下水道へと落ちてしまう。

「返答に困るな。確かにそうかもしれないが……」

「つまりさ、駿平は今回の件にすっごいやる気だよねって話。言い出しっぺの会長はともかく、駿平も自分から積極的に行動してるでしょ? 今だって、アタックしていこうぜってすごいやる気だったし」

「……?」

 それのなにが悪いのだろうか。

 言わんとしてることを悟ってくれみたい風に語られると居心地が悪い。

「自覚、ないのかな? それとも、あるのに誤魔化してるのかな? どっち?」

 だから、どっちと言われてもなにを聞かれているのか分からないのだが。

 いろははちらりとこちらへ視線を向けた後、ため息。

 しょうがないなあ、という雰囲気でそのものズバリを口にする。

 その態度は癪に障ったが、黙って聞く。



「駿平は、黒花の意識を変えたいのか、黒花を含めた周りの人全員の意識を変えたいのか、どっちなのって話だよ」



「……」

 ここまで言われれば、さすがに気付く。

 いろはは、駿平が黒花個人のことを意識しているのではないかと言っているのだ。

「……」

 そんなバカなと言おうとしたのに、どうしてか、言葉が出てこない。

 落ち着いて、考えてみる。

 あの珍妙な髪の毛をした少女、奏黒花は、駿平の認識では不思議な女の子ということになる。幽霊のような、といったら本人は怒るだろうが、実際そんな雰囲気だ。ぼぅっとしていて、なにを考え、感じているのか全く分からない。その割りに、そこにいるということをやたら自己主張してくる奇妙な存在感を持っている。一緒に居て楽しいかと問われれば楽しいと答える。あのわけの分からないノリは世話が焼けるが面白くもある。

 が、彼女にしたいとか、そういう気持ちを抱いたことはない。

 断じて、ない。

 見事なほどに、ない。

 あんな摩訶不思議な人間が彼女とか、考えただけで疲れる。まだ認知症の人を相手にしていた方が楽な気がするくらい、きっと疲れる。

「……」

 駿平はそれからさらに、数十秒かかって考え込み、答えを出す。

「さあね」

「……」

「答えは出たけど、いろはには教えない」

「……」

 目を細くして睨んでくるが、ここは黙秘権を行使させてもらおう。

 それよりも、

「明日はどうする?」

 曲がり角にさしかかったところで駿平が聞く。

 駿平といろはの家は歩いて五分ほどの距離にあるが、曲がり角を挟んでいる。今日のところはここでお別れだった。

「駿平は?」

 まだ納得していない様子だったが、諦めたのだろう。

 逆に聞き返してくる。

「俺か? 俺は……そうだな、黒花に構うのもいいけど、姉ちゃんのとこにも顔出さないとだな。特に、この時期は不安定になるからさ」

「不安定?」

 一度聞き返してから、いろはは「あっ」と表情をする。

「そっか。もうこの時期だね……」

「おう」

「ていうか、今気付いたけどこの間言ってた脱走事件とかいうのってもしかして?」

「まあな、入所して一年目だったし、お前は知らないかもしれないけどそういうことだよ」

 いろはは「なるほどね」と言ったあと、すぐに明日の方針を決めた。

「一緒にグループホームに行こう。瀬名さんに会おうよ。準備もあるんでしょ?」

「そうだな。あるっちゃあるかな?」

「人手は多い方がいいでしょ?」

「そりゃそうだ」

「じゃあ、手伝うよ」

「了解。よろしく頼むよ」

 今までの沈んだ空気はどこへやら。

 いろははにっこり笑って「引き受けた!」と元気はつらつ。

 そのまま輝く金髪を振って走って行く。

「行動力だけに限れば、会長にも負けず劣らずって感じだからな。あいつ」

 逆方向へ歩を進めつつ、一人、呟く。

「全部、上手くいけばいいんだけどな……」


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