友達のところへ
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その電話は、寝耳に水だった。
ゴールデンウィークということで、九時過ぎまで布団の中でごろごろしていたら、突然電話がかかってきたのだ。しかも、その相手はルイ。先輩とはいえ女の子から電話がかかってくるということ自体珍しかったし、駿平は少なからず驚いた。
けれど、駿平は必要以上に動揺することはなかった。ルイとはもう友達感覚で話ができる。おそらく、黒花関連のことでなにか良い案が思いついたとかそういうことではないだろうか。
そんなことを思って電話を取ったら、
「黒花が朝早くに友達のところへ行くと出て行ったんだが、君は知ってるか?」
と言われた。
ルイにしては珍しく、本当に焦っているような口調だったが、一瞬「それがどうかしましたか?」と思った。黒花だって友達のところへ行くことくらいあるだろう。別に気にする必要はないのではないか。
ほんの数秒、そんなことを考えて、
「え?」
その異様な事態に気付く。
嫌な予感を出来るだけ遠ざけようとルイに質問をする。
「ええと、いろはのところへは?」
「さっき電話した。もし、誘うとすれば駿平君より彼女の方が確率が高そうだからな。だが、知らないと言われた」
動揺が頭を駆け巡る。
あり得ない。
黒花が、ルイでも駿平でも、いろはでもない人間を友達と呼び、休日に出かけるなど、そんなことはあり得るわけがない。
「その友達、一体、誰ですか?」
「それが分からないから電話してるんだ」
「あいつに俺ら以外の友達なんて、いるんですか?」
「いないはずだ。家でもそんなことは一言も話していないし、そもそも彼女が転校してきたのはほんの数日前だ。それも月曜日と火曜日の二日間は私たちが彼女とべったり一緒にいた。他の誰かが仲良くなる時間などない」
そう、そのはずなのだ。
黒花が、休日に友達のところへ出て行くなど、明らかにおかしい。
ならば、
「嘘、ですか?」
「その可能性もあると私も踏んでいる。連日のように勉強しようと黒花を拘束していたからな。嫌気が差したのかもしれん」
「だとしたら――」
「だが!」
「――え?」
「いくら黒花でも、そんな分かりやすい嘘をつくと思うか? 確かに黒花はマンホールに平気で飛び込むような、我々の常識とはまるで違う感覚の持ち主だ。しかし、今回はマンホールに飛び込んだ時とは状況が違う」
「……」
少し考え、
「黒花自身が望んで出て行った?」
答えを出す。
「そうだ。マンホールの時は誰かの指図があり、それが目的と合致していると黒花自身が判断したことが大きかった」
「でも今回は違う。黒花自身が考えて、嫌だと思ったから出て行った。そうなると――」
「ああ。自分で考え、最善の判断を下すはずだ。つまり、本当に逃げたいだけなら、簡単にバレるような嘘はつかない」
ごくりと唾を飲む。
黒花のことだ。考えた上でやはりそんな嘘しか思いつかなかったということも十分あり得る。ルイも、その可能性はあると否定しなかった。
だが、小学生ではないのだ。
ただ逃げたいだけなら、「欲しいものがあるから買い物に行ってくる」でも、「散歩がてらぶらぶらしてくる」でも、なんでもいい。というか、本音を隠してこれから実行することをそのまま伝えれば良いだけだ。隠すだけで、嘘をつく必要などない。
なのに、黒花は明らかに不自然な言葉を残して家を出て行った。
それが示す回答は、その不自然な言葉が真実であるということ。




