グループホームかみくさ
「お疲れさん、っと」
選抜クラスの前を通ると、ちょうどいろはが質問に答えているところらしく、彼女の声が聞こえてきた。
駿平が通う上草第一高校は入学後に学力テストが行われる。
その結果を元に、一クラスだけ学力選抜クラスが作られる。駿平は見事に落ちていたが、いろはは見事に受かっていた。
選抜クラスは月、水、金の三日間、通常クラスより授業が一つ多く、内容も難しいものになっている。基本的に行動を共にしているいろはと駿平だが、放課後だけは違う。一度屋上に集まるのは暗黙の了解となっているが、それ以外は別々だ。
声は届かないだろうが、頑張れよ、と一言声援を送ってから玄関へ向かう。
「そんじゃ、行きますか」
玄関で靴を履き替え、家とは逆の方向へ歩き出す。
上草第一高校に入学してからもう三週間が経っている。あと一週間もすればゴールデンウィークだ。
駿平たちが住む上草市は周囲を山に囲まれた小さな町で、お世辞にも栄えているとは言えない。他の市町村からここへ来ようとすると二時間以上かかる上に、なにか特産物があるわけでもない。そんな、どが付くくらいの田舎町だ。
しかし、それとは別に、人口が減少することがない町でもある。少子化の影響で少しずつ減ってはいるが、若者が都会へ流出することがほとんどないのだ。
「あれ? またなんか出来るのか?」
駿平は空き地に大きな建物が建てられているのを見て足を止める。
看板には『デイサービス』という文字がある。
上草市は数年前から国が大々的に援助し、福祉事業の最先端地域となっているのだ。高齢者や障がい者の住みやすい地域を目指して社会福祉法人等が活発に活動している。
その結果として、就職先には困らないし、高齢者や障がい者でなくても住みやすい環境になっている。
「姉ちゃん、どうしてるかな……」
駿平が向かっている先もまさにその一部だ。
グループホームと呼ばれる、高齢者が暮らしている施設へ歩を進めている。
上草高校のすぐ脇の川を渡って、十分くらいのところにある、赤茶色の大きな建物だ。グループホーム自体は非常に小さいが、他の施設も中にあるため、高齢者施設としては大きい方だ。
「到着っと」
駿平は正面玄関から入り、もうすっかり顔なじみとなった事務所にいる職員さんにあいさつする。
「こんにちは~」
「ああ、いらっしゃい」
職員さんも、にこやかに対応してくれる。
施設へ入って右へ曲がるとエレベーターがある。
それに乗り込み、最上階である五のボタンを押す。
「……」
ものの数秒で五階に着く。
エレベーターのドアが背後で閉まるのを確認して、今度は左へ。すると、すぐに『グループホームかみくさ』という文字が目に飛び込んでくる。
ドアのロックは電子錠だ。文字盤に触れると一から九までの数字と、EとFの文字が浮かぶ。それを慣れた手つきでピッピッピっと押してやると、ガチャっという音と共にロックが解除される。
「お邪魔しま~す」
ドアをきっちりと閉め、再び鍵がかかったことを確認してから中へ歩を進める。
「お、シスコンのホープが来たな。こんにちは」
「その呼び方は冗談でもやめてください。こんにちは」
入ってすぐ出迎えてくれたのは、グループホームかみくさの管理者、大浦康弘。百八十センチを越える、がっしりとした身体つきが特徴的な男性だ。年齢は四十過ぎくらいだと以前聞いた。非常に気さくで優しい人だ。駿平が初めてここへ来た時からずっと管理者をやっている。
「瀬名さんは今、居室にいるよ」
「ありがとうございます」
用件を知っている康弘は駿平が聞く前に答えを教えてくれる。
頭をさげてから、目的の場所へ向かう。
目的地はただ一つ。姉が暮らしている部屋だ。
いつもと同じようにグループホームの奥へ進んで行くと――
「この戦いが終わったら、結婚しようね」
なにやらおかしな人間に遭遇した。




