連れてきた
施設の事務所に行くと、捜索の指揮を取っているらしい康弘の姿があった。
駿平にお茶を出してから、慌しくどこかへ連絡を取っている。
「なんで出ないんだよ……」
駿平はこれで計、三回目となる発信ボタンを押す。
瀬名のことは心配だが、康弘の話によると学校の先生方や職員さんなど、全員合わせると三十名以上の人間が動いているという。聞き込みを行った際、事情を話したら近所の方々も探しに出てくれているらしく、駿平が焦って探しに出て行く必要はなさそうだった。
だから、心配だったいろはの件がどうなったのか知ろうと黒鳥へ電話をかけているのだが、まるで繋がらない。
「黒鳥さんのことだから、無茶はしてないと思うけど……」
駿平の知る黒鳥は、決して武力で事態を収めようとするタイプではない。知力と策略で相手を制するタイプの人間だ。
おそらくは、今回もなにかしらの準備や策を持って事に望んでいるはずだ。だから、あまり傷ついたり、ということはないと思う。
でも、そんな考えとは裏腹に、駿平は嫌な予感を拭えずにいた。黒鳥がどんな性格で、どんな策を持っていようと、相手は不良どころか犯罪者集団だ。常識離れした人間に、はたして太刀打ちできるのだろうか。
「……」
ふと、時計を見上げると既に六時を過ぎている。
黒鳥から、いろはがチーム氷牙解散宣言をしたと連絡があってから三時間近く経っている。いくらなんでも遅すぎる。
「駿平君? どうしたんだい?」
背後から声をかけられて、びっくりする。
康弘がいつの間にか後ろに立っていた。
「あ、なんでもないです」
「どこかに電話してたみたいだけど?」
「あー、えと、学校の友達にちょっと……」
康弘は黒鳥が現在どこで、なにをしているのかまるで知らないはずだ。
頼まれたわけではないが、黒鳥も親に今回の件が知られてしまうのはよく思わないはずだ。駿平はしどろもどろになりながらも嘘をついた。
「そうか? まあそれはともかく、駿平君には先に話しておくよ」
流してくれて良かったと思う反面、なんだろうと思う。
「今、こうしていろいろな人が探しに出てくれているけれど、もしも夜遅くなっても見つからなかったら、人数は大分減るよ。それは分かってもらえるよね?」
「……はい」
それは、しょうがない。
俊也が来てくれるとなった時にも考えたことだが、職員さんや先生方には通常の業務があるのだ。協力してもらえるのはありがたいが、瀬名を探して夜遅くまで動いていたから他のところでミスがあった、なんてなったら申し訳ない。
「たぶん、この人数で動けるのは八時くらいまでだ。それを過ぎたら一旦集合してもらって、帰らなければならない方には帰ってもらって良いことにする。それでいいかな?」
「はい。構いません」
康弘は頷くと、また事務室の奥へと引っ込む。
トゥルルル……
と、駿平が座っている目の前の電話が鳴り始めた。
奥にある電話も同じように鳴っていたのだろう。康弘か誰かが電話を取ったらしい。すぐに着信音が消える。
「……」
自分には関係ないだろうと思いつつ、なんとなく耳をそばだてていると、
「響子が!?」
ぎょっとした。
康弘の驚く声が聞こえてきた。その後、康弘は声を潜めてしまい、どんな話が交わされているのか分からない。
このタイミングでかかってくるということはおそらく、駿平も無関係ではない話題のはずだ。気になって立ち上がり、奥へ様子を見に行こうとすると、
「駿平君!」
今度はなんだと思う。
施設の自動ドアが開き、大慌てて青いティーシャツを着た職員さんらしき人が駆け込んでくる。
「今、そこになんか不良っぽい集団がっ!」
聞いた瞬間、駿平は駆け出した。
職員さんは施設の目の前を指差していた。どんな事態になっているのかは分からないが、黒鳥がもしやなにか失敗してしまったのではないかと思ったからだ。
黒鳥が康弘や駿平がいるここのことをバラすとは思わないが、相手が相手だ。もしここの職員さんに迷惑がかかるようなことがあったらどう謝れば良いのか分からない。
自動ドアの開きが遅いことに苛立ちつつ、開いたと同時にダッシュで外に出る。
そして、目の前の光景に唖然とする。
「ごめん、駿平。迷惑かなと思ったんだけど、連れてきた」
総勢二十名近くはいる。
いろはを筆頭に、どう見ても人が良さそうとは思えない人間たちがそこにいた。髪の毛が黒い人間などいない。中には緑っぽい色に着色された髪の毛も見える。
しかも、どこからそんなものを調達してきたのか、木刀やらなにやらで武装している人間までいる。どころか、まだ免許が取れる年齢じゃないだろうにバイクと思しき物体にまたがっている人もいる。
「ええと、いろは、だよな? これ、どういうこと?」
いつでも逃げられるよう、少し距離を取りつつ、先頭に立っている金髪の幼馴染に聞く。
すると、
「瀬名さんがいなくなったんでしょ? 協力するよ」
昔を変わらない笑顔を浮かべて、浅井いろはがそう言った。




