違うよ
◆
駿平は、待つ。
ひたすら、待ち続ける。
ある一人の少女を、ずっと待ち続ける。
「ったく、親御さんも心配してるだろうに……」
現在、午後十一時を回ったところである。
大浦家に泊り込み、家事全般を習い始めてから既に三日が過ぎている。
黒鳥からだけでなく、黒鳥の両親からも「酷いものだな」と思いっきりダメだしされた。特に、康弘はグループホームで料理や洗濯、たたみ物をこなしているせいか、速さと正確さが段違いだった。それを初めて目にした時は、自分の生活力のなさに大層へこんだものである。
ただ、そんな駿平でも、大浦家の皆さんは本当の家族のように接してくれていた。康弘は宣言通り、瀬名と駿平のことをいつも気にしてくれて、毎日瀬名の様子がどうだとか、報告をしてくれる。女性陣も女性陣で、駿平を散々こき使いながらもできないところはさりげなくフォローしてくれるし、温かく見守ってくれている。昨日、俊也から「大丈夫そうか?」とメールが着たが、「大丈夫だと思う」と返信できた。
「遅い……」
月明かりと、街灯を頼りに辺りを見回すが、目的の人物はまだ現れない。
大浦家の生活になれたとはとても言いがたいが、少しだけ心に余裕ができたのは確かだった。そこで駿平は、瀬名の現状をいろはに伝えることにした。黒鳥が以前したように、浅井家の前に陣取っていろはを待っている。
浅井家の母親とは、昔から面識があるため、許可もとっている。
「あんの不良娘……」
あと数日でゴールデンウィークという時期だが、夜に出歩くにはまだ肌寒い。
腕をさすりながら待つこと数十分。
「お、やっと帰還か」
まだ少し距離はあるが、蛍光灯の光に照らされる金色の髪の毛はいろはのものだ。
「ん?」
近くまで来ると、いろはもこちらに気付き、いつだったかと同じく嫌そうな表情を浮かべる。
「どけ」
いろはから見たら、駿平は家の前で立ちふさがる門番だろう。
睨み付けられる。
「どかないよ」
「あ?」
恐いです。この幼馴染恐いです。
「この前、これ以上あたしに近付くなって言っただろ?」
「言われたね」
イライラしていることを隠そうともしない。
「だったら、どけ」
「どかないよ」
「うっぜえな。また様子見かなにかか?」
やれやれという感じでいろはが問うてくる。
「違うよ」
「あ?」
今度の「あ?」はイライラではなく、戸惑いからくるものだった。毎回、様子見で来たとしか言っていないから、予想外だったのだろう。
「じゃあなんだよ? ケンカの相手ならしてやるぞ?」
物騒なことを言うな。
「伝えたいことがあったから来ただけだよ」
「伝えたいこと?」
「そう」
駿平は、なにも隠さず、単刀直入に言った。
「姉ちゃんが、認知症って診断された」




