43.離縁と旅立ち リオネル視点 フレデリックルート
「申し訳ございません。リオ様。…お願いがあるのです。私と離縁してくださいませ。」
「…は?」
「お願いですから、私と離縁してくださいませ。リオ様。」
驚き過ぎて固まった私に、アンネは頭を下げながらもう一度言う。
意味がわからない。
「何を言っている。そんな事は絶対にさせない。」
「帰国してから1年5ヶ月、リオ様が私との間に子供がいると分かってから1年が経ちました。私はこの一年、必死に耐えて来ましたが、もう限界なのです。」
幸せな私とアンネの生活が、ガラガラと音をたてて崩れていく。
「何を言っている。私とアンネは幸せに暮らして来たではないか。」
「…本気で言っているのですか?子供達を巻き込まない欲しいと何度誰に訴えても、変わらずに子供達にも酷い言葉を浴びせられ続けるこの生活が…リオ様は幸せなのだと言うのですか?」
「…それは、申し訳ないと思っているが…、私からも言っているし、私だって怒っているのだ。これ以上どうすることもできない。私はアンネと、アンネの子供達さえいれば、それだけで幸せだ。」
「私と子供達が辛い生活をリオ様の側でしていても、リオ様は幸せなのですか?」
「…すまない、私はアンネさえいれば、アンネが私の側にいてくれれば、幸せだ。アンネがいないと、幸せなど感じない。愛してるんだ、アンネ。頼むから、離縁するなどと言わないでくれ。私は何があってもアンネを手放さない。」
「リオネルがアンネを手放さないのは分かってたよ。そのために今日は僕が同席させてもらった。」
アンネからの離縁が衝撃的過ぎて、存在を忘れていたが、フレデリックの言葉に怒りが湧いた。
「なぜ、フレデリックが同席してるんだ、アンネ。もしや、浮気していたのか?」
「残念ながら、僕とアンネはそんな関係じゃないけどね。ロランや侍女も証言してくれるよ。常に側に他に人がいて、そんな関係になりようがないけどね。」
「リオ様と2人きりでは冷静な話し合いもできないと思い、私からフレデリック王太子殿下に同席をお願いしたのです。」
「愛するアンネに離縁したいと言われて、冷静でいられる訳ないだろう。こっちに来い。」
立ち上がりアンネの腕を掴もうとすると、フレデリックがアンネとの間に立ちはだかる。
「邪魔だ。どけ。」
「アンネに無体を働くのは許さない。」
「アンネは私の妃だ。お前には関係ない。」
「関係あるよ。アンネは僕に助けを求めてくれたんだ。」
「ふざけんな。」
フレデリックに殴りかかるが、避けられて、「アンネは話し合いを望んでる。」とフレデリックに言われる。
「アンネが望もうとも、離縁は絶対にしない。私は絶対にアンネを離さない。ずっと一緒だと約束しただろう…アンネ。」
「あの時は…幸せでしたね。リオ様。私は、あなたを愛していました。戻れるのなら、あの時に戻りたいって何度思ったことでしょう。」
アンネの涙を見て、私まで涙が出た。
「それなら、戻ろう。アンネ。あの頃の私たちに戻ろう。」
「戻れません。リオ様。ジョエルとレティシアは、ひどく傷ついています。私は子供達を守りたい。もう、王宮にはいられません。」
「ジョエルは私の子供で、第二王子でもある。王宮を離れるなど、許さない。それに…、アンネのお腹には、私の子供がいるかもしれないだろう?私達は今も毎日愛し合っている。昨夜だって、たくさん愛し合っただろう、アンネ。」
「実は…医師から、私の身体の為に、次の妊娠までは1年間空けた方がいいと言われて、妊娠しなくなる薬を飲んでいるのです。産後1ヶ月で、リオ様がまた毎日私と眠るようになってから、私は薬を飲み始めました。」
「そんな。。なぜ言わなかった。」
「言ったら、リオ様から薬を飲まないように言われてしまうかと思ったのです。リオ様が、私との子供を望んでいるのは知っていたのに、申し訳ございません。こんな子供達を守れていない状況で、私はまた子供が欲しいとは思えませんでした。」
「それでも…アンネとは離縁をしない。私とアンネはずっと一緒だ。」
「リオネルが認めなくても、僕がアンネを連れて行くよ。」
「何を言っている。フレデリック。アンネを攫おうとするお前を、捕らえるように命じることもできるのだぞ。ロラン、フレデリックを捕えろ。」
扉の前で護衛をしているロランを呼ぶ。
「申し訳ございません、リオネル王太子殿下。私達騎士は皆、アンネリーナ王太子妃殿下に忠誠を誓っております。アンネリーナ王太子妃殿下と、そのお子様である王子殿下、王女殿下の御為、このまま王宮にアンネリーナ王太子妃殿下を縛りつけるのは、よくないと判断いたしました。」
「何を言ってる。私の命に背くのか、ロラン。」
「リオネル王太子殿下、私は何よりもアンネリーナ王太子妃殿下が大切なのです。アンネリーナ王太子妃殿下の為ならば、私はどんな裁きも受けましょう。」
「僕だって、リオネルに伯爵令嬢との間に子供がいると知れ渡って、アンネが辛い想いをしていた間に、アンネのために努力をして来たんだよ。アンネと子供達がリオネルから逃れられるように、根回しは済んでる。」
「アンネ…私はアンネがいない生活など考えられない。アンネといられるのなら、何でもする。愛してるんだ。ずっと、アンナだけを愛してる。」
「1年前からずっと、リオ様が私を愛している度に、リオ様を疑ってしまう自分が嫌でした。…私は、リオ様のお子様が私ではない人との間にいるのなら、リオ様の口から聞きたかったのです。周りの人から、リオ様が愛しているのは私ではなく伯爵令嬢だと言われる度に辛かった。子供達が傷つけられるのに、守れない自分も嫌でした。」
アンネの涙は止まらない。
「日中だって、リオ様は私に内緒で、伯爵令嬢のもとへ通われているのではないかと、疑心暗鬼になりました。いつか、リオ様に見放されるかもしれないと、考えるのも…、リオ様を責めてしまいそうになるのも、全てが嫌だったのです。」
「いくらでも責めてもらって構わない。ずっと辛い想いをさせて悪かった。もう、こんな想いはさせない。アンネと子供達をここまで傷つけた伯爵令嬢は、北の地へ送ろう。だから、戻って来てくれ、アンネ。」
「リオ様。。」
私の差し出した手を取ろうと、アンネが手を伸ばした時、
「アンネ、リオネルは数えきれない程、アンネを傷つけて来たんだよ。また傷つけられるよ。」
フレデリックの声でアンネの手が止まる。
「邪魔をするな、フレデリック。」
「アンネがまた辛い想いをするのに、黙って見ているだなんて出来るわけがないよね。僕だったらアンネに、こんな辛い想いを一度たりともさせない。絶対にアンネを幸せにする。」
「アンネはフレデリックといる事を望んでいない。」
「そうだとしても、アンネに振り向いてもらえるまで何度でも愛を乞い続けるよ。僕はリオネルに、アンネを守れないのなら、アンネは僕がもらうと言った。リオネルは僕に、そんなことにはならないから安心しろと言ったのに、その結果がこれだ。シーモア王国にアンネを迎えに来た時も、二度とアンネを傷つけないと誓ったリオネルが、何度もアンネを傷つけた。」
「それは。。」
「僕はもう二度と遠慮なんかしないよ。アンネが例え僕の事を想ってくれなかったとしても、シーモア王国で幸せにするよ。シーモア王国にいた時のアンネはいつも幸せそうだった。こんなに辛そうな表情をしていた事など無かった。」
「…。。」
「僕の妃になって欲しいという想いはずっと変わらないけど、アンネが望まないなら妃にだってならなくていい。僕と一緒に、シーモア王国へ行こう。そうしたら、子供達と一緒にまた幸せに暮らせる。…シルヴァンも、アンネとまた一緒に暮らしたいと言ってるんだ。あのみんなが幸せな生活に戻れるんだよ、アンネ。」
「リオ様、申し訳ございません。フレデリック王太子殿下…、私、シーモア王国に帰りたいです。」
「ダメだ。そんな事は許さない、アンネ。」
「シーモア王国へ行っても、ボーフォート王国で進行中の事業のことで、こちらに来る機会も多いです。その時に子供達も全員連れて来ますので、お会いしましょう、リオ様。」
「シーモア王国へは行かせないと言っているだろう。アンネ。何があっても、アンネを閉じ込めてでも、私の側から離さない。」
「私と子供達を想うのであれば、お願いですから、離縁してください。私も明日で23歳です。リオ様。初めて会った時は15歳でしたのに、今まで本当に色々なことがありましたね。リオ様を愛されて、愛して、幸せだった日々も、辛かった日々も。」
「そんな、これで終わりみたいな事を言わないでくれ、アンネ。これからだって、ずっと一緒だ。」
「いいえ、リオ様。これ以上、子供達を巻き込む事など、できません。この一年で怯えて、大人の顔色をうかがってばかりいる子供達にしてしまったのは、私達の責任だと思っております。」
アンネが私の方に近づいてきた。
アンネを強く抱きしめる。
「嫌だ、嫌だ、アンネ。私はアンネ以外何もいらない。愛してる、アンネ。」
「愛してます、リオ様。でも、もう終わりにしましょう。」
アンネが涙を流しながら、私の頬に手を当てて儚げに微笑む。
私の瞳からも涙が流れる。
アンネにキスをすると、アンネは瞳を閉じて私のキスを受け入れる。
アンネが私に愛してると言ってくれたのは、伯爵令嬢に子供がいるとアンネに知られて以来初めてだ。
アンネが人前でキスをしてくれたのは、結婚式以来初めてだ。
アンネとのキスは、とても甘美で、そして悲しかった。
「リオ様、私はこらから子供達3人と私の、家族4人で暮らしたいと思います。私の望みは愛する子供達と幸せに暮らす事です。」
「…シルヴァンと暮らすのでは無いのか?」
「…私はリオ様を愛してます。そんな私がシルヴァン様と暮らす事はできません。それに…、今の私は夫がいなくても子供達にシーモア王国で、何も不自由の無い暮らしをさせてあげられると思うのです。シルヴァン様も、侯爵家の跡取りです。シーモア王国で住んでいただくのは申し訳ないです。」
「…そうか。。本当に、私達はやり直せないのか?」
「申し訳ございません、リオ様。私は、これ以上、子供達と王宮には住めません。しばらくはシーモア王国とボーフォート王国を行ったり来たりする生活になるかと思いますが。」
「アンネがシーモア王国へ行くのなら、私もシーモア王国へ行きたい。アンネが王宮を出るのであれば、私も屋敷を購入して王宮では無く屋敷に住む。それではダメか?私は何があっても、アンネと共にありたい。」
「リオ様は王太子殿下です。。」
「フレデリックだって王太子だろ。王太子でも、ボーフォート王国にいる。アンネを苦しめる王宮ならば、私はこの王宮を出て行く。」
「リオ様。」
「アンネの側にいられなくなるなど、私には考えられない。二度とアンネを傷つけない。だから…」
「リオ様、ごめんなさい。私はこれ以上リオ様のお側にはいられません。もう、私の気持ちは変わらないのです。シーモア王国へ出立する準備をします。」
「待て、アンネ。」
「さようなら、リオ様。今、請け負ってる政務は、全て片付けてから出立しますね。」
アンネが遠ざかって行く。
王宮に帰ると、アンネの部屋から荷物が運び出されて行く。
アンネは事前に屋敷を借りていたようで、そちらへ荷物を運んでいるようだ。
その日のうちに、アンネは王宮を出て行った。
翌日はアンネの誕生日だったけれど、私の側妃にも関わらず、誕生日パーティーも無かった。
アンネも誕生日パーティーを自分で企画もしないし、周りも言い出すこともなく、ボーフォート王国でアンネが冷遇されているのが分かる。
執務室に来て政務をするアンネに誕生日おめでとうと伝えると、「ありがとうございます。」とアンネは微笑む。
今までと変わらない日常なはずなのに、本当に行ってしまうのか?と聞いても、アンネの気持ちは変わらなかった。
1週間後、政務の引き継ぎが終わったアンネは、ロランとフレデリックと共にシーモア王国へ旅立った。
私はアンネのいない王宮に住むのが嫌になり、屋敷へ移り住んだ。
第三王子を産んだ伯爵令嬢などの関わりたくない貴族と会う機会が無くなり、煩わしい人間関係から解放されて、アンネのいない王宮よりも屋敷での生活は快適だった。
特に私の寵愛を得ようとする令嬢から逃れられたのが、とてもいいことだった。
アンネは半年に一回、1ヶ月ほど、ボーフォート王国へ滞在し、私も半年に1回の頻度で、シーモア王国へ1ヶ月ほど滞在し、アンネと子供達と交流を続けた。
4年間会えなかった歳月を思うと、手紙のやり取りもできて、アンネに会えることは嬉しく感じた。
アンネに会う時は、常にぴったりとフレデリックが寄り添い、私に対する警戒心をありありと感じた。
それでも、アンネとよりを戻そうと口説き続けた。
私はもっとアンネと頻繁に会えるようにするために、ボーフォート王国とシーモア王国の間に鉄道を敷くアンネの事業計画を、早く進めようと、鉄道を敷く国々に話をして回った。
アンネも、フレデリックも、鉄道の利便性、ボーフォート王国と、シーモア王国での経済効果を色々な国に行って説明し、鉄道が通る全ての国の同意を得ることに成功した。
アンネがシーモア王国へ移り住み、1年後、アンネの24歳の誕生日にアンネとフレデリックの婚約が発表された。
その半年後、アンネとフレデリックが結婚した。
フレデリックがアンネの気持ちが変わらない間にと結婚を急いだようだ。
私がアンネだけを愛していることには変わらないけど、幸せそうなアンネを見ていると、嫉妬しつつも心の隅でアンネの幸せを喜べている自分がいることに気がつき、驚いた。
アンネの結婚の背中を押したのは、6歳になったジョエルだった。
ジョエルの後押しで、アンネはフレデリックとの結婚を決意したのだ。
ジョエルは聡明で、母親想いの優しい子に成長してくれている。
アンネの花嫁姿は、本当に美しすぎて、涙が出た。
フレデリックとの誓いのキスは、間に入って止めてやりたくなったけど、我慢をした。
アンネの初夜は悶々とした気分で、朝までシルヴァンとロランと朝までやけ酒をした。
シルヴァンも、ずっとロランもアンネを愛していて求婚をしていたから、恋に敗れた男同士飲み潰れた。
フレデリックがアンネに求婚して、アンネは私の妃だと言っていた時と立場が逆になってしまった。
今では、フレデリックの妃になったアンネに、私が求婚を続けてる。
「ダメだよ。リオネル。アンネは、もう僕の妃なんだから。」
「何を言ってる、アンネが私の妃だった時も、リオネルはアンネに求婚していただろ。アンネ、フレデリックが嫌になったら、いつでも私のところに来るんだ。」
フレデリックとアンネの結婚から1年後、アンネとフレデリックが25歳の時に第一王子リュカが誕生した。
シーモア王国は待望の王子誕生に国中でお祭り騒ぎになった。
フレデリックの妃は、側妃であるアンネのみで、他に妃はいらないとフレデリックが言っているのもあり、第一王子を出産したらアンネはフレデリックの強い希望で正妃になった。
その2年後には、シーモア王国とボーフォート王国を繋ぐ鉄道が開通し、人々の暮らしは格段に向上した。
アンネの会社は世界中に進出し、鉄道と蒸気船が世界各国で活躍するようになった。
ボーフォート王国からシーモア王国へ、今まで2ヶ月近くかけて移動していたのを1週間もかからずに移動できるようになり、私のアンネのもとを訪れる頻度が上がった。
同じ年に、私は29歳で60歳の父から王位を継承し、ボーフォート王国の新国王に即位をした。
それと共に、アンネと私の子供の第二王子のジョエルが10歳で王太子になった。
私がジョエルの王位継承を強く望み、ジョエルはとても優秀なのに対し、ジネットの子供のアレクシ第一王子の出来が悪かったことで、ジョエルの立太子はほとんど抵抗も無く受け入れられた。
それから更に8年後、フレデリックが35歳で58歳の父親から王位を継承し、シーモア王国の新国王に即位した。
10歳になった第一王子のリュカが即位し、シーモア王国とボーフォート王国の絆は更に強くなった。
アンネの子供は皆、兄弟仲がよく、私もフレデリックも、アンネの子供全員を自分の子供のように可愛がった。
シルヴァンとアンネの子供のレティシアは、37歳でシルヴァンがモーティマー侯爵家を継いだ際に、15歳からは侯爵令嬢としてモーティマー侯爵家で暮らしながら、私たちが通っていた学園に通うようになった。
後に、レティシアが婿をもらい、婿とレティシアの子供が侯爵家を継いでいくことになった。
最終的に、アンネはフレデリックとの間に王子と王女を2人ずつ出産した。
アンネはボーフォート王国第二王子、第一王女
シーモア王国第一王子、第二王子、第三王子、第一王女、第二王女
モーティマー侯爵令嬢
の8人の子宝に恵まれ、その子供たちも世界経済の発展に大きく貢献していくのだった。




