30.二度目のプロポーズと穏やかで幸せな生活
突然、シルヴァン様が私の前に跪いた。
びっくりしていると、私の前に指輪を差し出して
「アンネリーナ様、私は何があってもあなたを愛しています。生まれてくる子供も、アンネリーナ様も必ず幸せにします。どうか私と結婚してくれませんか?」
1年2ヶ月前の記憶が蘇る。
シルヴァン様は同じように私にプロポーズをしてくれた。
その時、私は幸せすぎて泣きながら『はい、もちろん。私もシルヴァン様を愛しています。』と答えた。
シルヴァン様を愛していて、リオ様に無理矢理引き裂かれた時は、シルヴァン様と離れるのが辛かった、シルヴァン様と会いたかった。
涙が出てくる。
悲しいのか。
嬉しいのか。
1年2ヶ月前はこんな事になるだなんて思っていなかった。
お腹の子供に父親の事を考えると、シルヴァン様が父親になってもらった方が絶対にいいと分かってる。
でも、そんな打算的な考えでシルヴァン様と結婚してしまっていいのだろうか。
リオ様と結婚してシルヴァン様への気持ちを忘れられたように、シルヴァン様と結婚すればリオ様への気持ちを忘れられるのだろうか。
今も私の事を愛してくれているシルヴァン様の気持ちが凄く嬉しいのに、私がシルヴァン様を1年2ヶ月前のように愛していない事に罪悪感を感じる。
「実は、アンネリーナ様が今も私を想ってくださっていたらプロポーズをして、想ってくださっていなかったら、また私に振り向いていただけるように努力してからプロポーズしようと思っていたのです。」
なかなか言葉の出ない私に代わって、シルヴァン様が話を始めた。
「お会いして、アンネリーナ様の心が今はもう私には無い事は分かってはいます。今、アンネリーナ様が愛しているのはリオネル王太子殿下であることも。だから、今プロポーズをするのはアンネリーナ様の事を困らせてしまうから諦めようと思いました。」
「でも」とシルヴァン様は続ける。
「アンネリーナ様のお腹に子供がいる知り、私がアンネリーナ様のお腹の子供の父親になりたいと強く思いました。アンネリーナ様が私と結婚するのがお嫌なら、夫婦のふりだけでも良いのです。私はアンネリーナ様とお腹の子供を守りたい、アンネリーナ様の気持ちが私に向くまでは、あなたに手を出さないと誓いましょう。」
「そんな、シルヴァン様の気持ちを利用して、私だけに都合のいい事など。。」
「いいえ、私にとってはアンネリーナ様と一緒にいられることが、何より嬉しいのです。その為にお腹の子供を利用してしまうようで申し訳ないくらいです。」
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。シルヴァン様の気持ちがとても嬉しいです。お腹の子供を守りたいと言ってくださった事、心から感謝しています。今の私には、お腹の子供が何より大切です。これからは夫婦として、よろしくお願いします。」
それからは私はシルヴァン様を「モリス」、私の事を「エマ」と偽名で呼んで、夫婦として振る舞うようになった。
口調も平民らしい口調に変えた。
宿のベッドも同じ部屋で最初は緊張はしたけど、シルヴァン様は、とても紳士的に、いつも私の体調を気遣ってくれるので、安心して眠ることができるようになった。
時間が経つにつれて私のつわりも少しずつよくなり、お腹が大きくなってくると、子供への愛おしさが増した。
「あっ、モリス。今、子供がお腹を蹴りましたよ!」
「おーい、僕がパパだよー。あっ、本当だ!蹴った!」
お腹を触りながら、幸せそうに子供に話しかけるシルヴァン様。
そんな日々に、私は幸せを感じるようになった。
馬車を何度も変えて、色々な宿に宿泊しながら移動した。
途中からは自分達で、乗合馬車などを利用して、宿を探し、シルヴァン様と2人きりで移動した。
どんどん祖国から、リオ様のもとから離れて行く。
戻りたい、戻りたく無い、リオ様に申し訳ない、リオ様に会いたい、これで誰も傷付かなくなる、色々な事を考えていた。
こんなに色々な国を旅するのは初めてで、新鮮な気持ちだった。
私が何ヶ国語も話せる事は、旅をする上でとても役に立った。
平民として色々な事を経験する中で、令嬢時代に培った知識を使って商売をしてみたいと考えるようになった。
事業計画をシルヴァン様と練りながら旅を続けた。
目的地も無く、色々な国を転々と半年近くかけて渡り歩いた結果、私達はボーフォート王国から遠く離れたシーモア王国に辿り着き、この地に住む事を決めた。
この地を選んだのは、シーモア王国もボーフォート王国に並ぶ世界でも一位、二位を争う大国で、遠いのに私とシルヴァン様が言葉を話せる国だったと言う事が大きい。
私達は早速、会社を立ち上げる為に、株主になってくれる人を探した。
私はいつ生まれてもおかしくないようなお腹をしていたので、シルヴァン様がたくさんの商会、会合などに出向き、株主とは、配当とは、事業計画を説明して回った。
ボーフォート王国を出てから7ヶ月が経ち、移住して1ヶ月後、私の18歳の誕生日の1ヶ月前、シルヴァン様が20歳になった時にリオ様にそっくりの元気な男の子が生まれた。
私とシルヴァン様は、子供の誕生を心から喜んだ。
こんなに愛おしい存在がある事に驚いて、この子のためなら何でもできる気がした。
ジョエルと名付けたリオ様の子供は、すくすくと元気に成長した。
シルヴァン様とそんな日々を送る間に、私はまた少しずつシルヴァン様に心惹かれるようになった。
リオ様のように激しい恋ではなく、シルヴァン様は穏やかな恋。
激しく求め合うよりも、優しく包み込まれる愛。
シルヴァン様は周りの注目を集めるほどのイケメンだから、いつもついつい見惚れてしまう。
たくさんの女性から言い寄られても、一途に私の事を愛してくれる。
私がたくさんの男性から言い寄られても、夫として守ってくれる。
日中は子供の面倒を見てくれるベビーシッターを雇い、シルヴァン様と2人で株主になってくれる出資者を募った。
ボーフォート王国を出てから1年が経ち、半年間出資者を募った結果、多くの資金も集まり、私とシルヴァン様は会社を設立した。
会社は株主を発行して資金を集め利益に応じて配当金を配る、シーモア王国で初めての組織だ。
「モリスのおかげでついに会社を立ち上げる事ができました。いつもジョエルのお世話もしてくれて、株主集めに尽力していただき、ありがとうございます。」
「エマとジョエルの為なら、なんだって頑張るよ。こちらこそ、こんなに可愛い子供を産んでくれてありがとう。会社は始まったばかりだけど、2人で立派な会社に成長させよう。」
「ありがとうございます。まさか、こんなに穏やかで幸せな生活を送れるとは思いませんでした。全てはモリスのお陰です。」
「それを言うのは僕の方だよ。こんなに幸せな生活を送れるだなんて、思ってもいなかった。ありがとう。」
「私、モリスが好きです。」
シルヴァン様は驚いた顔でこちらを見ている。
「私たち…本当の夫婦になりませんか?」
「凄く嬉しい。」
シルヴァン様が笑う。
2年半前も私はシルヴァン様の笑顔が大好きだった。
婚約前にシルヴァン様が誘ってくれたデートで、いつもすごいイケメンなのに、笑った顔はすごく可愛いだなんてと、ついつい見惚れていた事を思い出す。
その時の私は、私の前だと今のようによく笑うシルヴァン様の笑顔に恋に落ちた。
私はまた、シルヴァン様と恋に落ちる。
シルヴァン様の顔が少しずつ近づいてきて、目を閉じると、触れるだけのキスをされた。
シルヴァン様と初めてのキス。
幸せを感じる。
もっとキスをしたくて、今度は私からキスをした。
そして、お互いにキスをしながら、深いキスに変わっていく。
ベッドに押し倒されて…と言う時に、ジョエルが起きて泣き出したので、慌てて抱っこして2人で苦笑いする、そんなやり取りさえ愛おしかった。
2人でジョエルのお世話をしてから、寝かしつけて、寝ようとすると、ベッドの上でシルヴァン様にキスをされた。
そのまま深まるキス。
シルヴァン様は私を見つめて「このまましてもいい?僕はエマを…アンネリーナを抱きたいです。」と言った。
「私も…シルヴァン様と一つになりたいです。」
「愛しています、アンネリーナ。」
「私も愛しています、シルヴァン様。」
シルヴァン様で満たされていく。
その夜、私達は初めて結ばれた。
ボーフォート王国を出てから2年半が経ち、私の20歳の誕生日の2ヶ月前、シルヴァン様の22歳の誕生日1ヶ月前に、私とシルヴァン様に女の子が生まれ、レティシアと名付けた。
シルヴァン様と同じ茶色い髪に、私と同じ緑の目。
愛おしい存在がまた1人増えた事を、私たちは心から喜んだ。
愛する家族と過ごす日々は、忙しいけれどこれ以上なく幸せで穏やかな日々だった。
シルヴァン様は2人の子供を平等に愛してくれた。
リオ様の功績は、遠く離れたこの国でも聞くけれど、私がリオ様にお会いできる事は二度とないだろう。
遠く離れた雲の上のような人だ。
自分から逃げたのに、リオ様と過ごした1年2ヶ月を思い出して、また会いたい、愛していると思ってしまう。
それでも、私は愛する子供達、愛する夫と過ごす日々に満足していた。
ボーフォート王国を出てからもう少しで4年、会社を立ち上げて3年が経った。
会社はすごい勢いで成長し、工場の建設、大型船の建設など、大規模な事業をするようになっていた。
技術開発にも資金を投入して、経済が活性化して、多くの雇用を産んだ。
社員の労働条件を、しっかりとした休暇がとれるように管理し、適正な給与を払えるようにした。
女性も活躍できるように、託児所を作り、私の子供も託児所に預けて働いた。
最近は慈善事業も始めて、それも高く評価してもらってる。
最初は女だからと認められなかった私も、会社を目覚ましい発展を遂げさせたとして、高く評価されるようになってきていた。
今では誰でも株を購入してもらえるように、証券会社というものも立ち上げて、更に資金が集まるようになった。
シルヴァン様のサポート無しでは、会社がこんなに大きくなる事は無かっただろう。
民家から、屋敷に移り住み、メイド達も雇って、家族でもっと快適に過ごせるようにした。
そんな時だった、リオ様が私のもとを訪れたのは。
ボーフォート王国を出てから4年が経ち、私が21歳、シルヴァン様、リオ様が23歳、アレクシ第一王子が4歳3ヶ月、ジョエルが3歳5ヶ月、レティシアが1歳6ヶ月になっていた。
穏やかで幸せな生活を、私は一瞬にして壊してしまった。




