Avvy 軽音部①
風が吹く。
校門の横の木が揺れた。
「いい先生だよね」
アムネがぽつりと言う。
「うん」
スイが頷く。
「さわら先生、なんだかんだちゃんと見てるし」
「ゆうき先生も優しいしね」
「たまに優しすぎるけど」
「わかる」
二人が笑う。
そのまま向きを変える。
校舎の方。
軽音室のある棟。
昨日と同じ道。
だけど。
足取りは少し軽い。
階段を上る。
廊下を進む。
遠くから音が聞こえてくる。
ドラム。
少し遅れてベース。
ギター。
昨日より分かる。
誰が鳴らしている音なのか。
「やってるね」
スイが言う。
「やってるね」
アムネも続く。
自然と足が速くなる。
「お」
アムネが横を見る。
「今早くなった」
「なってない」
「なった」
「なったね」
スイまで乗る。
「……気のせい」
二人が笑う。
軽音室の前。
昨日より緊張はない。
コン。
軽くノックする。
中から音は止まらない。
聞こえていないらしい。
「入る?」
アムネが聞く。
その瞬間。
ガチャ。
扉が開く。
「あ」
紅だった。
目が合う。
一秒。
二秒。
三秒。
「え」
固まる。
「え」
もう一回。
「ええええええええええっ!?」
廊下に響いた。
「来たぁぁぁぁぁ!!」
勢いよく振り返る。
「来ましたぁぁぁ!!」
誰に向かって言っているのか分からない。
でも中から反応が返る。
「えっ!?」
ゆるり。
「ほんとに?」
すまきゃ。
「お」
Rizz。
「何?」
グレイ。
紅がその場で跳ねる。
「来ました来ました来ました!!」
「落ち着いて」
スイが言う。
「無理です!」
即答。
「来ないと思ってたんです!」
「なんで」
アムネが笑う。
「なんとなくです!」
元気だった。
紅が扉を大きく開く。
「どうぞ!!」
「店なの?」
アムネが突っ込む。
中へ入る。
昨日と同じ軽音室。
アンプ。
ケーブル。
譜面。
少し暑い空気。
昨日よりも居心地が悪くない。
「おー!」
ゆるりが手を振る。
「来てくれたじゃん!」
「来たね」
Rizzが椅子に座ったまま言う。
すまきゃも少し笑う。
「いらっしゃい」
落ち着いた声。
そして。
ギターを肩に掛けたグレイがこちらを見る。
一瞬。
目が合う。
「再び現れたか、旅人よ」
いつもの調子。
アムネが即座に反応する。
「レイ、それ普通におかえりでよくない?」
「それでは趣がない」
真顔。
「趣って何」
「浪漫だ」
「何言ってるか分かんない」
「理解されぬのもまた運命」
「レイってずっとこうなの?」
アムネが聞く。
「ずっとこう」
スイが即答する。
「筋金入りなんだ」
「筋金入りだよ」
その会話を聞いていたグレイが頷く。
「誇らしいな」
「褒めてない」
アムネ。
「何故だ」
グレイ。
会話になっているような。
なっていないような。
そんな空気。
気付けば。
昨日より自然に笑っていた。
その様子を見て。
ゆるりがニヤニヤし始める。
「ねぇねぇ」
「何」
アムネが警戒する。
「アビィさ」
嫌な予感がする顔。
「昨日の演奏どうだった?」
「急だね」
スイが笑う。
「気になるじゃん!」
ゆるりが言う。
「誰が一番良かった!?」
「お前それ聞くのか」
Rizzが笑う。
「聞く!」
即答。
紅まで身を乗り出す。
「私も気になります!」
すまきゃが苦笑する。
「また始まった」
全員の視線が集まる。
少し考える。
昨日の音。
頭に浮かぶ。
そして。
自然に出た。
「レイのギター」
一瞬。
軽音室が静かになる。
グレイも止まる。
「……何?」
アムネが聞く。
「一番印象に残った」
そう答える。
沈黙。
二秒。
三秒。
グレイがゆっくりこちらを見る。
「待て」
「何」
アムネ。
「待て」
もう一回。
「何」
「その情報を今出すな」
真顔。
「なんで」
「心の準備が」
途中で止まる。
全員止まる。
「心の準備?」
Rizz。
「今言った?」
ゆるり。
「言いましたね」
紅。
スイが吹き出す。
グレイが固まる。
「待て」
「うん」
「今のは忘れろ」
「無理」
アムネ。
「全員聞いた」
Rizz。
「記録したい」
ゆるり。
「やめろ」
すると。
紅がぽつりと言う。
「レイ先輩、ちょっと可愛いですね」
静寂。
一秒。
二秒。
グレイが振り向く。
「は?」
そして。
「全然可愛くなくてぇぇぇ!?」
軽音室に響く。
全員吹き出した。




