二人目の勇者(1)
結論、私は負けた。
セナの武器は私の物より二回りは大きく重い、なのに振りの間隔がほぼ一緒だった。
重心移動がうまいのか膂力に秀でているのか、その両方か。
当然の帰結として、私は質量に押し負けた。
「じゃあ試しに今呼んでみて、セナ姉って」
「あの、やっぱり恥ずかしいんですが」
「だめ、最初に決めたことなんだから」
セナは楽しそうに笑った。
「もう気づいてると思うけど、この寮、人が少ないでしょ」
「だから仲良くしたいの。フランちゃんちょっと堅いし」
確かに私は堅い、自覚はある。だからこそ渋ってるのだ。
「…姐さんとかで何とかなりませんか」
「レトロな不良みたいで嫌だなぁ」
「じゃあ先輩とか」
「うーん、でも多少ましか」
剣を置いた私たちはしばらく座り込んで息を整えていた。
脈打つ心臓の音だけが聞こえる、少しは打ち解けられた気がした。
「フラン、お前の剣の師匠はハインツか?」
壁にもたれ静観していたガレウスが口を開いた。
「そうです。知り合いですか?」
「お前の親父の元パーティーメンバーだ、当然知ってる。…魔術も誰かに師事しているのか」
「10歳からエルミナさんに」
彼女はハインツさんの友人で、同じく勇者パーティの一人だったらしい。
優しく頼れる人だった。魔術に関しても彼女以上の人を見たことが無い。
「それぞれ剣士と魔術士の最高峰だ、どれだけ恵まれているか分かるか?」
「分かっています。あの人たちがすごい事は」
彼らは、それぞれの技術を伝えるだけでなく、母の説得を手伝ったり、機密に触れない範囲でいろいろ教えたりしてくれた。
「私の恩人で、憧れの人たちです」
私の言葉にガレウスはため息をついた
何か間違えただろうか、顔を窺ったが、人狼の顔からはいまいち感情が読み取れない。
「…まって、フランちゃんって何者?その二人って簡単に会える人じゃないよね」
セナが目を細めた。
「【豊穣の勇者】の娘だ、…聞いてなかったのか?」
「素性に関しては何も、まさか勇者の娘とは。それも、豊穣の…」
トーンの落ちたセナの言葉には慈愛があった。
自分を姉と呼ぶように迫るだけの説得力を感じた、ただ私はそれが苦手だった。
父の事を知った人たちは《《私達》》の前で声を潜める、今のセナと同じように。
唐突に訓練場の壁が叩かれた。
「セナ姉っ、その子連れてきてよ、話終わったんでしょ!」壁越しに少女の声が聞こえる。
呼びかけられたセナはなぜか面食らった顔をしていた。
「ここにいるという事は勇者ですか?」
「うん、そう。フランちゃんと同じ15歳の」
彼女はぽつりと、「向こうから話しかけてくるなんて…」と付け加えた。
「どういう意味ですか?」
「あの子、歴史が好きなの。逆にそれ以外は無関心で、この1週間は隣の資料室に籠ってた。多分私たちの会話を聞いてたんじゃないかな」
「あぁ、なるほど」
ハインツさんと父は間違いなく歴史に残るだろう、だから私は偉人の娘であり弟子でもあるのだ。
「ミリア、フランは資料室に入れないの。あなたがここに来なさい」
セナがそう言うと、ミリアと呼ばれた子は嫌そうな唸り声を上げた。
ただ従う以外にないと悟ったのか、どたどたと動き出した。
「久しぶり!あと初めまして!」
勢いよくドアが開けられた。
小柄な女の子だった、締め付けの緩い部屋着で手にノートとペンを持っている。
銀糸を編み込んだような柔らかい髪と、透き通るような瞳。
落ち着きのない動きが小動物のようで可愛らしい。
ガレウスが鼻をひくひくとさせた。露骨に顔をしかめる。
「お前臭いぞ、風呂入ってから来い」
ノートがガレウスの顔に飛んでいった。




