第95話 再生怪人のお約束
南ブロックのサブコントロールルームに向かう最中、カケルがエクステラに話しかける。
「北ブロックの方は大丈夫なのかな?」
「あら? 人の心配するより、自分たちの心配をした方が良いんじゃないかしら?」
セーラー服姿のエクステラがノソノソと近づいてきたメタルザウルスを両断していく。銃弾がまともに通りにくい上に距離を取れない屋内となれば、EX-01をコピーさせた方がまだ戦えるからだ。
「それはそうなんだけど……」
「こういうときは楽しいことを考えた方が良いのさ」
「例えば?」
「この戦いが終わったら皆でクリスマスパーティーを開くとかね」
「おう、そういうことなら俺様がウマイ飯を作ってやる」
「オーク肉とか言わないでしょうね」
「クリスマスと言えば鶏肉だろ。コカトリスを狙いに行くか」
「クリスマスと言えばシャケじゃなかった?」
「おいおい、何言っているんだ、エクステラ。日本にクリスマスにシャケを食う文化なんてないぜ」
「シャケ、美味しいのに」
この世界に農林水産省まで進出したあの鮭怪人はいなかったのかと寂しく思いながらも、立ちふさがる敵を倒していく。北ブロックに向かったメンバーからのコメントは今はない。コメントが出来ぬほどの窮地に陥っていないことを祈りつつ、扉を開ける。
「ティアマト!?」
「侵入者ヲ発見。排除シマス」
「……見るも耐えない姿ね。願いを託した貴女の為にも、私の手で葬ってあげるわ」
「そうは言っても倒せる手段あるの? たしかあの時は――」
「今とあのときとでは状況が違うわ。ところで、倦怠感は無いのかしら?」
「そういえば……」
「なんともねえよな」
「エナジードレインはティアマトが生命体の母という概念があったからこそ、地球上に住む全生命体からエナジードレインできたけど、堕天使が復活させたゾンビティアマトにはその概念が無いわ。よしんば、その概念があったとしても、なれの果てに生前と同じだけの概念を保つことはできない以上、エナジードレインの効果はほぼなくなっていると考えられるってわけ」
「なるほど、別個体扱いってわけね」
「小難しいことは分からねえが、要するにアレをぶっ倒せばいいってことだろ!」
ゴンゾーが息を荒げながら前に出ると、ティアマトが反応するかのようにアンデッド化したゴブリンやミノタウロス、ドラゴンゾンビなどを生み出してくる。
「まずは彼女の生み出したモンスターを倒さないと、不死の概念が剥がれない可能性があるわ」
「マジかよ。じゃあ南雀の時みたいに何百体って生み出されてもしたら……」
「もしそれだけの数を生み出せるなら、外にゾンビティアマトのモンスターが居てもおかしくはないはず」
「でも、この部屋に入るまではそれらしいモンスターはいなかった。つまり、彼女の生み出せるモンスターは生み出せる数に限りがある。もしくは外に出られない事情があるってわけだね」
「そうよ、ナルシー。堕天使のことだから、自我を取り戻して反逆されないように縛りを付けたか、再生怪人を作る際に縛りを付けざるを得なかった可能性がある。どちらにしても、部屋の容量という限界がある以上、出せるモンスターには限りがあるわ」
「ギュウギュウタコ詰めになったら身動きが取れないものね」
「いい加減、御託を並べるよりもまずは数を減らすぞ。一番槍はこのゴンゾー様だ!チャージ・トレイン!」
敵陣の中央、ティアマトを巻き込むように残像を作るほどの猛スピードで一直線に突進する。ティアマトの下半身に風穴を開けるほどの突破力を示すも、じゅくじゅくと音を立てながらその傷口は塞がっていく。それに負けじとナルシーが薔薇のツタでアンデッドたちの下半身を拘束、身動きが取れない相手にカケルたちの攻撃が続いていく。
「モンスターは倒せるけど……」
「やっぱキリがねえぜ!どうするんだよ、エクステラ」
「私の爆弾で一掃しちゃう?」
「この乱戦の最中でそんなことしたら、皆を巻き込むでしょう。ナルシー、モンスターを1か所、できれば直線状に並べられる?」
「僕一人だけだと厳しいね。サキちゃん、手伝ってもらえるかい?」
「はい」
「ゴンゾーさんは体躯の大きいドラゴンゾンビの対処。リスポーン地点はティアマトの右隣だから、あそこにモンスターを誘導しよう。それで良いかい、エクステラ?」
「OKよ。邪魔が入らないようにリョウとアスカはティアマトの足止め。私の砲撃で敵を一掃した後、カケルとみみみでトドメを」
「うん。分かった」
「任せておいて」
「そういうことなら行くよ、タロ。ブラスト・ハウリング!」
「「Wローズウィップ!」」
タロが大きく吠えて衝撃波を部屋中に響き渡らせる。それにより、敵が一瞬だけひるんだ隙を逃さず、二人の操る無数の茨のムチがゴブリンゾンビたちとゾンビミノタウロスを拘束し、ティアマトの右側に投げ飛ばす。
「チャージ完了!ライノ・MAX・チャージ!」
灼熱に輝くゴンゾーのタックルがいち早く体勢を立て直し、毒のブレス攻撃を放とうとしているドラゴンゾンビを貫く。すかさず、ティアマトがドラゴンゾンビを生み出すも、その近くには投げ飛ばされたゴブリンゾンビたちが地面に這いつくばっている。
「貴女が託した願いの為にも……星の救済を!」
幾重にも重なった魔法陣でブーストしたエクステラの砲撃がモンスターを一瞬にして消し去っていく。ティアマトが次にモンスターを生み出すまでの僅かな時間、その間だけは不死性は失われる。
「秘剣・星霜の太刀!」
「一点集中……クラスターボム!」
覚醒状態のカケルがティアマトの上半身と下半身を一刀両断、さらにみみみの爆風がティアマトの上半身を粉みじんになるまで吹き飛ばしていく。ピリピリと警戒する空気の中、残された下半身も消失し、ティアマトが倒れたことを告げる。
【マジでやりやがった!】
【いくら弱体化しているとはいえ、南雀を地獄絵図に変えたモンスターやぞ】
【じゃあなティアマト、エナジードレインだけの凡夫】
【女だよwww】
【お前は倒せるんかい!】
【いや、俺は1発入れて退場するモブだから】
【一発も入れられねえだろwww】
【ツトム:こちらも戦いが終わったところだ】
「向こうも戦いが終わったようね」
「この部屋のコンピューターも破壊したし、さっさと合流して最後のコントロールルームも制圧しましょう」
「おう、まだ暴れ足りねえぜ」
「と言っても無理は禁物よ。少し休憩してから向かいたいところだけど……セラフィム、援軍の必要はありそう?」
「視聴者さん、コメントはしばらくの間、控えてね」
【ポニ子:こちらはセラフィム様がプロテクトを外していますが、サブコントロールルームからの妨害で予定より遅れています。敵増援と防戦中ですが、今のところは持ちこたえています】
「その言い方だと長引くとマズイ感じかしら?」
【ポニ子:そういうことではありませんのでご安心を。それに3つのサブコントロールルームを制圧してくれたので、妨害が少なくなり、作業速度も上がっています】
「それなら、4つのサブコントロールルームを制圧後、そちらに応援を送ることにするわ」
【このコメントって堕天使に見られていないのか?】
【見られたからと言って、相手さんにできることって増援を送ることと逃げることくらいしかなくねえ?】
【逃げるにしても、ここが敵の本拠地だろ】
【逃げるところ無いわな】
【増援を送られても、こっちがやることは変わらんか】
「そういうこと。それに配信を切って通話をしたとしても、ここが敵の本拠地である以上、それが傍受されている可能性だってあるわ。それなら筒抜けになっていること前提で動いた方が精神的に楽よ」
コメント返信している間のわずかな休憩を終えた一行は、西のサブコントロールルームへと向かっていく。多少の疲れがあろうとも、道中に出てくる天使やメタルザウルスたちでは相手にならない。あっという間に最後のサブコントロールルーム前にたどり着き、他のメンバーとも合流する。
「その様子だと、苦戦しなかったみたいね」
「こっちに居たのは堕天使になる前の智天使級だったからね。俺が事前に対堕天使用の異能を習得していたから苦戦すらしなかったよ」
「自身の複製……自分の肉体の一部を切り離して、他の生命体に寄生することで同個体を複製したのかしら」
「本体は天使そのものではなく、周りに浮かんでいる剣でしたわね。1本くらい切り離しても本体には影響なさそうですわ」
「ほんと剣全部壊さないと倒せないってことでしょう」
「いざとなれば、みみみに爆破してもらうわ」
「任せておいて。あと、サブコントロールルームから妨害があるってことは、この中に堕天使がいるのかな?」
「いや、北のコンピューターを破壊する前に軽く触ってみたが、妨害プログラムが走っているだけで、手動操作している感じはなかった」
「見るからに専門分野って感じじゃないもの、彼女。ここにある既存のプログラムを使っているだけじゃないかしら」
「俺たちから見れば未来の技術だがな。恐らく、この中にいるのも今までと同じく蘇生させられた誰かだろうな」
扉を開けてみると、そこには巨大化する前のメタルT-REXが目を赤く光らせてサブコントロールルームを守護していた。
「虎西をめちゃくちゃにした借り返したるで!イカテン、超高電圧のサンダーウィップや!」
「ついさっき、イカテンに【蓄電】させてもらったからね、手伝わせてもらうよ。最大出力の【放電】!」
「私たちが居るのも忘れたら困るわ、オーバーブースト!」
「【権能】発動!雷よ、我が拳に宿れ!」
4人が放った雷光の一撃がメタルT-REXの回路を焼き切り、為すすべなく倒れる姿を見て、あっけらかんとなるカケルたち。
「僕たち、あんなに苦戦していたのに……」
「同じ相手で、事前にメタを張っていればこうなる。しかも、彼の厄介なところは陽動作戦を練れるだけの策略。その知恵がなければ、蘇らせたところで、再生怪人のお約束にしかならないわ」
「なんだかなぁ……」
「でも、ここにも堕天使が居ないとなると、どこにいるんだろう?」
「それもメインコントロールを制御できれば、ここの監視網を私たちが逆利用できる。艦内がいくら広くても、堕天使に隠れる場所は無いわ」
【本当でござるかぁ~】
【監視カメラ程度なら、死角を利用して映らないように移動するとかできそうだよな】
【あえて監視していない部屋とかありそう】
【地図に無い部屋とかな】
【設計図に無い部屋なんて、ゲームとかだと定番だもんな】
【ゲームならな。現実でそんなことやったら色んな意味で死ぬ】
「例外を言ってもキリが無いわよ。この部屋のコンピューターを壊したら、セラフィムと合流。機械に強いツトムと発明は彼の手伝い。残りは全力で防衛に当たるわ」
「作戦もいよいよ大詰めだな」
「すべての因縁はこの戦いで断ち切るつもりよ。私たちの未来に過去の怨恨なんていらないもの」
4つのサブコントロールルームを破壊した一行は、今なお戦っているセラフィムに合流すべく、駆け足で王宮へと向かっていくのであった。




