第64話 スタンピードpart5
影から影へと移って、メガソーラー施設まで来たエクステラたち。普段なら見かける作業員も警備員も、この緊急時では誰も無い。
「ここでござるな」
「電子ロックだけなら、ステラが解除してくれるわ」
「長居できぬ身ゆえ、これにて御免」
「ええ、助かったわ。子守も大変ね」
「仕える主を選べぬ身ゆえ、致し方なし。これしきの手助けで此度の騒動を解決できるのであれば、敵に回したくないでござるな」
ドロンと消え、エクステラだけが取り残される。電子ロックを解除し、セキュリティが沈黙した発電所内を走り回り、地下の制御室にたどり着く。そこのコントロールパネルにステラが入っているEXギアを置き、【接続】も発動する。
【本当にうまくいくんですかねえ】
(やってみないと分からん。だが、【接続】と【浸食】は人の魂、概念的なものに干渉できている。ならば、目に見えない電気にも干渉できる可能性は高い)
【では、ここで発電した電気エネルギーに浸食し、撃った砲撃に接続する準備を整えましょう】
発電所のコントロールを掌握したエクステラは建屋の外に出て、炎天下のもとメタルT-REXがやってくるのを静かに待つのであった。
エクステラが準備を整えていく中、ダンジョン内で散り散りになっていた探索者たちと合流したリョウコたちは地上に帰還する。虎西の凄惨な光景から目をそらしたくなるが、現状の問題はメタルT-REXが虎西の地から興味を無くし、学園都市から出ていこうとしていることである。被害が増えるのは当然だが、何よりエクステラの待つ発電所とは逆方向だからだ。
「まずはウチらで気を引き付けるで!ブルー、グリーン、イエロー、準備はええか!」
「いつでも」
「ええに決まっているやろ」
「同じく」
「火よ、水よ、風よ、雷よ、森羅万象の理を示せ!冥土一刀流、最終奥義!花鳥風月!」
4人の力を一本の刀に集約し、大きく振りかぶると不死鳥がメタルT-REXに向かって飛翔していく。Sランクのモンスターだろうと葬ってきたレッド、いや冥土隊最大の切り札がメタルT-REXを燃やしていく。ただそれほどの攻撃でさえ、表面を溶かす程度で機械の内部までダメージを与えているかは怪しい。
「これで決まれば話は早かったんやけどなぁ」
「やはり、彼女に賭けるしかありませんね」
「せやな。幸い、こっちを振り向く程度にはダメージを与えたみたいや。ここからが本番やで」
ヘイトを奪った冥土隊が先行し、その脇を自衛隊員が固める。ただ逃げているだけでは、再び学園都市から出ていきかねないので、『逃走』ではなく『距離を取る』『時間を稼いでいる』と認識させなければならない。つまり、自分たちはまだこの戦いをあきらめていないことを示す必要がある。
「火力だけなら負けないんだから、クラスターボム!」
自己修復中の装甲に向けて放たれる幾重にもわたる爆裂によって、その一部がはじけ飛ぶ。
「ようやった。みんなであの箇所に向かって攻撃や。よそもんに良いところ奪われたらあかんで」
虎西生が手にした電気銃でみみみが作った小さな隙間に電気を叩きこむ。さすがに弱点攻撃なだけあって、メタルT-REXからのミサイルや機銃、ビーム攻撃がより一層激しくなるも、自衛隊の幾重にも張られたプロテクションによってなんとか防ぎきっている。
「最短距離なら、チヨ婆のとこ突っ切った方が早いで」
「今はマンションになっていますけどね」
「細かい所はええやろ」
元・地元民による地の利を生かし、さすがにじらされ続けてきたせいか、メタルT-REXが口元に巨大なエネルギーを蓄え始め、この一撃をもって吹き飛ばすつもりなのだろう。それを見た森野が近くにいた守をひょいっとつかむ。
「出番だぜ、守」
「嫌な予感しかしないっす!?」
「漢の一撃、キャノンボール!」
「やっぱりそうなるんすね!?」
守を思いっきり投げつけ、自衛隊のプロテクションを貫通してきた極太ビームを蓄えさせる。吹き飛んだ守を空を飛んでいた赤羽がキャッチ。そのままメタルT-REXの鼻面にダンクシュートを決め、蓄えていたエネルギーを爆発させる。バウンドした守を再びキャッチした赤羽が役割を終えた守を地上に降ろす。
「死ぬかと思ったっす。あれ以上の攻撃は無理っすよ」
「そのおかげで、結構効いているみたいだ」
減衰させる必要があるとはいえ、見事なカウンターを決められた以上、下手なビーム攻撃は命取りになりかねない。ならばと、メタルT-REXが背中のバーニアを吹かして、接近戦に持ち込もうとする。
「地上に降りてくるなら、殴れるな」
「ぎりぎりまで引き付け、時を止めるぞ」
「亀北の生徒会長さん、ツタでアスカちゃんたちと繋ぎとめておきます」
「分かった……今だ!」
氷に映し出されるかのように反転する白黒の世界を、体に巻き付いたツタでつながっているアスカらと一緒に氷で作ったアーチを駆け抜ける。その先にはメタルT-REXの羽の付け根があった。
「喰らええええええ!!」
こちらを認識できないメタルT-REXに強烈な一撃を叩きこみ、すぐさま撤退する。そして、時が動き出した瞬間に叩き込まれた衝撃が一気に流し込まれ、メタルT-REXの片翼が破損し、姿勢を崩して墜落する。そこに追い打ちを掛けていき、逆上してきたメタルT-REXを誘導していく。
探索者たちの懸命の攻撃をスコープ越しで見ているエクステラは自身の持つ銃を砲撃モードに切り替えて、その時を今か今かと待ち構えていた。
(誘導は順調。後は俺が外さないだけか)
目標はみみみが爆ぜさせた装甲の無い箇所。だが、まだ遠い。有効射程まで。いや、電撃を纏わせる以上、より近い方が好ましい。だが、気が付かれたら逃げる可能性もある。いや、むしろ、先に始末しようとエクステラに攻撃を仕掛けてくる可能性の方が高いかもしれない。そうなればシャドウの居ない今、防ぐ手段は無い。どこまで耐えることができるかのチキンレース。
(この引き金は1回しか引けない。楽になりたいからと言って軽く引けるものじゃない)
息を大きく吐いて、震える指を抑える。メタルT-REXのダメージを見るに、どれだけ多くの探索者が苦心してきたのかが分かる。この一撃は一人で作り上げたものではない。
(あと500……300……100……………今だ!)
巨大な砲身に練り上げられた魔力が解き放たれると同時に【接続】した電気が纏わりつく。限界を超えて電気を発電させたことにより、広大なソーラーパネルのあちらこちらから火が吹く。だが、そんなことを気にせず、砲撃の制御だけに頭を回す。
「ぐおおおおおおおおおお!!」
周りに気を取られ、地上に居たエクステラに気づくのが遅れたメタルT-REXにエクステラの砲撃が突き刺さる。砲撃が内部にまで到達した瞬間、【接続】した電気を解除。解き放たれた電気がメタルT-REXの体内に駆け巡る。止める手段は無い。電気に焼き尽くされていく精密な回路。
(馬鹿な、狭き箱庭を支配したこの吾輩が……あの女に誘われたとはいえ、無限の大地を手に入れるはずの吾輩が……こんなところで!)
もはや叶わぬ野望を抱きながら、メタルT-REXは目の前にいるエクステラだけでも道連れにしようと口からのビームを発射しようとするも、時すでに遅し。仰向けになって倒れていくメタルT-REXのビームは、断末魔のように空に消えていくのであった。
「やったのかしら」
【敵性反応ありません。倒したかと】
「それなら良い。後始末は自衛隊に任せるわ」
燃え盛るメガソーラー施設を見ながら、エクステラは転移する。到着した自衛隊員も、彼女を追いかける暇も無く、延焼を防ぐために水魔法で消火活動に移る。それを見た探索者も手伝い始め、被害の拡大は食い止められそうだ。
「礼を言う前に消えよったな、アイツ」
「緊急時とはいえ、これだけのことをすれば捕まりますからね」
「しゃーない、今度会った時に30%引きのクーポン券渡したろ」
「いつになるか分かりませんがね」
「というより、師匠、お金取るんですか」
「商売やからな。手当貰ったとしてもこっちの装備はボロボロやし、しばらくは副業に専念せんとな」
折れた二本の刀を見せる。残った1本も最終奥義を放ったときに折れてしまい、本業復帰までには時間がかかるようだ。
かくして、虎西で発生したダンジョン崩壊現象とそれに伴うスタンピード事件は、探索者に多数の死傷者を出しながらも幕を閉じるのであった。




