第51話 虎西での特訓 part2
戦闘が始まるや否や、信二が銃弾を放つも後ろにいたタコハチの触手でペチンと弾かれてしまう。
「生半可な攻撃なんてウチのタコハチに効かんで。しかも、特殊なコーティング液であんさんの銃弾はコーティング液で滑る。仮に魔力弾に切り替えたとしても直接触れるわけやないから、異能対策も完璧ちゅうわけや」
「(【接続】で引っ張れる様子はないか) そのようだな。ならば、これならどうだ」
マシンガンに切り替え、銃弾をばら撒いていく。それらをタコハチの触手が防ごうと発明の前で触手を組み、壁となって防ぐ。大量の銃弾でも滑り続け、アトラクションのあちらこちらに流れていく。
「無駄無駄無駄無駄~ウチのタコハチは無敵や」
銃撃が止み、触手の壁をほどくと信二の姿は無い。どうやら銃撃の間にアスレチックの影に隠れたようだ。
「アスレチックだけに逃げ場所は多いわな。せやかて、ウチがそんなことも対策してないと思ったら大間違いや」
タコハチが熱源レーダーで辺りを見渡す。その感知能力の広さと精度はAクラスの探索者に匹敵する。すぐにタイヤの影に隠れていた信二を見つけ、口から砲弾を放つとタイヤを貫通する。
「あとは飛び出したとこをこのレーザー銃で撃つだけや」
たまらず飛び出した信二をバンバンと撃ってみるが、信二もまた牽制のために銃弾を放ちながら、反対側にあった土管の陰に隠れる。互いに銃撃は当たらず、地面を穿つだけ。状況は振出しに戻る。いや、隠れ場所がはっきりとわかっている以上、信二の方が分が悪いかもしれない。
(ウチの狙撃能力やと当たらんな。いつもタコハチに撃たせているけど、特殊コーティングのせいでモノ持てへんし……)
策士策に溺れる。向こうの手は封じても、自分たちの決め手も封じてしまったら意味がない。
(それでも奴の攻撃は全て封じとるはずや。疲れ知らずのタコハチで追いかけまわせばスタミナ切れを起こす。そこを突けば勝ちや)
タコハチの砲撃で土管やタイヤを吹き飛ばし、信二が隠れる場所を一つずつ削っていく。少しでも足を止めようと思うなら触手がムチのしなりながら、叩きつけ攻撃を加えていく。それに対し、信二がしているのは単発的な銃撃。しかも、牽制程度で撃っているのか発明に当たらず、ジャングルジムや滑り台と言った遊具に当たる始末。脅威にならない。
「もう逃げ場が無くなるで~」
「そろそろか」
信二が【接続】を発動させると、巨大ジャングルジムが発明の足元にある銃弾に引っ張られて襲い掛かる。しかも、【接続】の強さを変えたことで、ジャングルジムの骨格となって鉄骨がバラバラに分解されている。発明に逃げ場はない!
「弾をばら撒いたのはこのためやったんか。せやけど、これくらいならタコハチで守れる!」
タコハチが触手で主人を守るも、そのわずか数秒、信二から目をそらすことになる。
(観察した限り、お前の触手はそのぬめぬめのせいで物を掴んだり、投げ飛ばすことは出来ない。ならば、お前の取る手は一つ。触手を壁にせざるを得ない)
フリーになった信二が走った先にあるシーソーを駆け上がり、跳ぶ。その銃口の先にはタコハチの本体が捉えられていた。
「この角度、狙いは外さん!」
放たれた銃弾がタコハチの頭部を滑り、触手の壁の内側に反射する。反射された弾丸も触手の壁を滑り、反射。その先には発明の弱点部位がくっきりと捉えられていた。
「なっ……!?( 今まで無駄弾撃っていたのは反射角を調べるためでもあったんか!?)」
「気づいてももう遅い!跳弾による狙撃を喰らえ!」
弱点部位を不意打ちでくらったことにより、一撃死判定が下される。あまりにも早い幕切れに発明がしばし言葉を失うも、すぐに再起動する。
「すごいやんけ!ウチの完敗や。生徒会長が目つけとるだけのことあるわ」
「但木生徒会長が?」
「せや。昨晩、この子らの中で一番強いのは?って聞いたら信二はんの名が挙がってな。たかがCランク、ほんまか?って思ったさかい、一番最初に戦ったってわけや」
「お眼鏡にかなったかな」
「あたりまえやろ。今回はちょいっと失敗したけど、こう見えてもニアSランクのAランク探索者やで。発明能力を買われての評価やけど、それを完封って。あんさん、ほんまCランクかと思ったわ」
「……どれくらいが適正なんだ? イマイチぱっとしない異能だからよくわからん」
「せやな……火力不足は痛いからAランクはなさそうやけど、頭の回転込みでBランク上位でも通じるんちゃうか。ニアAランクってところや」
「やはり、当面の課題は火力不足になるな。昼間の件だが――」
「わかっとる。バズーカやロケランみたいな高火力武器が欲しいんやろ。任せておき」
「助かる。相手は恐竜だからな。豆鉄砲では太刀打ちできん」
「さてと、ウチは他の子らと戦いに行くわ」
手をひらひらと振って部屋から出ていった発明と入れ違いに今度はメイド服を着た長身の女性が入ってくる。両腰には拳銃が入ったホルスターがあり、自分と同じ銃使いであることがすぐにわかる。
「初めまして、御主人様。わたくし、【白鷺戦姫隊】傘下のギルド【日本橋冥土隊】のメイドブラックと言います。この度はOGということで、呼びかけに応じ参上しました」
「日本橋?……日本橋ではなく?」
「……日本橋が同じサブカルの街、秋葉原と比べて影が薄いのは分かるけどな、日本橋と日本橋を間違えるんじゃねえぞ!日本橋にメイド喫茶があるんかぁ、ワレェ!」
「す、すまん……関西はあまり知らないんだ」
「こほん。失礼しました。日本橋を馬鹿にされるとすぐ血が登ってしまい……」
(つまり、あれが素ということか)
【美少女度がそれほど高くないのはそのためですか】
(美少女と言うより美女よりだと思うが?)
【女心わかっていませんね。女の子はいつまでも美少女で居たいんですよ】
ステラの言葉にそういうもなのかと思いつつ、今度はブラックと一緒にステージ内に入る。バトルフィールドは発明と戦った時と同じアスレチックステージ。相手はゲームには登場しない全く知らない相手。まずは相手がどう動くかを見ようと身構える。
そして、開始のブザーが鳴り響くと同時にブラックの姿が消えると同時に、自分の目の前に現れる。その右手には固く握られた拳がある。
(速い! いや、転移魔法か。腰の拳銃はブラフ。ステゴロのインファイターか?)
だが、短距離転移を使った戦術はエクステラのときに使用している。すぐさま、弱点部位を狙ったハートブレイクショットを強化した腕で防ぐ。初手の奇襲を防がれたブラックは少し驚きつつも、距離を取り、二丁拳銃で信二に向かって銃弾を放つ。それを障害物の影に隠れてやり過ごす。
(奇襲が失敗しても、攻撃を畳みかけることで相手に主導権を渡さないようにする。厄介だな)
【でも狙いは的外れですよ】
(それを補うための二丁拳銃だろうな。そして、俺が彼女と同じ立場であれば――)
探査魔法の精度を高めていた信二が背後から転移した銃弾を避けようと、身を隠していた土管から飛び出す。手数が多い代わりに1発1発の射撃精度が低い二丁拳銃の弱点を転移魔法で補う。消費する魔力は大きいが、そこは個人の力量やチームプレーでカバーするのだろうと推測する。
その一方で、ブラックも信二を攻めあぐねていた。必殺の奇襲は防がれ、得意とする戦術もまるで見知っているかのようにギリギリで躱してくる。
「ここまで長引くのは想定外ですね。可愛らしいお顔を傷つけたくはありませんが……」
たとえ短距離の転移だとしても、消費する魔力量は大きい。自分の魔力量がAランクでも上位に入るからこそできる戦術。それが格下に破られているのであれば、焦りもするし、頭に血が登る。それゆえか、特訓では使わないと決めていた必殺技を解禁することにする。
(!? 空気が変わった……?)
「魔力解放!吹きすさべ、STORM BULLET!!」
二丁拳銃から多数の銃弾が発射され、それらが一斉に転移し、四方八方から襲い掛かる。いくら感知範囲を広げようと、いくら肉体強化をしていようと、無に帰する弾丸の嵐。今の信二に躱す手段も防ぐ手段も無く、弱点部位ごと撃たれるのであった。
「申し訳ございません、御主人様!この技を使うつもりはなかったのですが、つい……」
「謝られても困るが……」
「いえ、すぐ冷静さを見失ってしまうわたくしが悪いのです。お詫びとして、この10%割引券を受け取ってください。【日本橋冥土隊】が経営するメイドカフェで使用できます」
「う、うむ……(有効期限が書かれていないが、そもそも関西に行く機会あるのか?)」
【美少女が多そうですし、行ってみたいですね】
行けたらなと心の中で応えながら、日が暮れるまでブラックとの特訓を続けるのであった。




