第23話 反省会
転移したエクステラはツトムのところに行き、事情を話していた。
「で、俺のところに厄介ごとを持ち込んだわけだ」
「ほとぼりが冷めたら返すわよ」
「お兄ちゃんは誰?」
「……俺の知っている奴じゃないな。ツトムだ。但木ツトム」
面喰いながらも、しゃがんで目線を合わせて自己紹介するツトム。そんな彼をほほえましく見るエクステラとサキを見て、バツの悪そうな顔をする。
「なんだ?」
「子供好きなんですね」
「リンネ……妹がいたからな。そんなことよりも、お前の検査結果が出たから話すぞ」
ごくりと二人はつばを飲み込み、ツトムの検査結果を聞く。
「結論から言うと、黒側に近いグレーだな」
「つまり、私、またモンスターになるってことですか?」
「可能性はある。詳しく話すぞ。まず、これを見てくれ。右が獣タイプ天使の血液データ、左が狼タイプのモンスターの血液データだ。これらのデータはとある一点を除き、酷似した成分を持っていることが分かる。俺はこの数値をANG値と名付けた」
「ANG値……それはなんですか?」
「これは俺の仮説にすぎないが、天使というのはウイルスや細菌、寄生虫のように原生生物に取り付き、体を変貌させているんじゃないかと考えている。折れの知る限り、そんな生物は存在しない。まさに未確認生命体だ。連中が天使と名付けていたのも頷ける」
(宿主の体を変貌させる生物、それはまるで……)
【…………………………】
(無言を貫くか。簡単に口を割るようなタイプではないし、今は聞くべき時ではないのかもしれんが、いずれは……)
「宿主に寄生した際、地球上に存在しない物質が血液中に溶け込む。これがANG値の正体だ」
「そのANG値が高いとどうなるんですか?」
「規定量を超えたらモンスターになるんじゃないかとは思っているが、どこまでがセーフティーラインなのか、こればかりは俺にも分からん。そして、お前のANG値は天使よりかは低いがはっきりと検出されている。あとは長期的に検査をして、減少傾向があれば、モンスター化の影響と断言できるが、現状は再発の可能性があるとだけ言っておく」
「じゃあ、私はまだお家には……」
「……ただし、お前の証言を見る限り、予兆が複数回起こってからモンスターになっている。そして、予兆が起こるのは決まってダンジョン内。つまり、ダンジョンコアの発する膨大な魔力が天使に何かしらの影響を与え、ANG値を向上させている可能性がある」
「ってことは日常生活を送る上では何の支障もないってことね」
「ああ、探索者生命は終わるだろうがな。別の道を歩むのがベストだろうが、それでもあきらめたくないというなら、半年、いや3か月後に再検査してやる。それまでダンジョンに一切入らないという条件付きなら家に帰っても良いぞ」
「えっ~と、このことはカケル君たちに話しても」
「この際、この事件の関係者なら構わん。だが、俺の名を伏せるのと部外者に話したなら消す」
「わかりました。エクステラさん、ツトムさん、ありがとうございます」
サキがペコリと頭を下げて、礼を言う。だが、問題が一つ片付いただけでまだまだ問題は山積みなのだ。
「さて、この小娘――」
「小娘じゃないよ。美海だよ」
「……美海はしばらく預かっておく。とはいえ、ずっと置いておくわけにもいかん。開発の邪魔だ。俺の方からできるかぎり罪が軽くなるよう、裏に圧力をかけるとしよう」
「あら、良いの?」
「マスコミに流せない実験データ、保存液に入った多数の天使サンプル、こちらが貰った利益が大きすぎるからな。それくらいしないと割に合わん。まあ、お前の協力者は未成年かつ初犯ということを考えれば、何もしなくても執行猶予くらいの判決にはなるだろうが、こちらはな。お前のあの一手がなかったら、スケープゴートにされていただろう」
「だけど、大暴露した今の状況でそれをやったら、2,3回は政権が倒れるわ。もう公な組織には手出しできない」
「しつも~ん」
「なんだ?」
「ツトムお兄ちゃんってエクステラお姉ちゃんと付き合っているの?」
「付き合っていないわ」
「ビジネスパートナーだが?」
「お似合いの二人だと思うんだけど」
「「ねー」」
「「どこが!」」
二人がハモリながらツッコムあたり、彼らの相性は良いと思いながら女子二人は笑うのであった。
翌日、違法研究所の発覚とその襲撃は日本全体を震撼させる大事件となっていた。何しろ、関係者リストには政治家、警察や自衛隊、国防軍に経済界の重鎮たちの名前がずらりと書き記されており、関係各所はその事実確認と国民からの苦情に追われる羽目となった。
また、今回の事件の主犯であるエクステラには3000万という膨大な懸賞金が掛けられたのだが、国民の感情を逆なでするような行為であり、反感を喰らうこととなるのであった。
そして、証言に多少の矛盾があろうと凶悪犯に脅されやむなく従わされたと判断され、不自然なほどに早く釈放されたカケルたちはカケルの家に集まり、みみみとはオンラインで話していた。
「それにしても、お前たちが捕まったときは俺も焦ったぞ。なんたって連絡員だったからな」
「本当に大変だったんだよ。自衛隊の人たちに助けを呼びに行ったのは良かったんだけど」
「速攻で手錠をガシャンだもんな」
「もう二度とこんなことしたくないわ」
「ところで、サキちゃんの検査はどうなったの?」
「おう、俺もそれが気になって寝れなかったぜ」
「ああ、今朝方、エクステラから連絡が来てな。検査結果はあまり芳しくなかったが、日常生活を送る上では問題ないということだ。詳しいことはサキ本人から聞くと良い。今頃、ご両親と再会していると思うぞ」
「良かった~」
【美海!美海は!】
「こちらも検査しているが、怖いくらいには元気だそうだ。この状況下で美海一人に全責任を被せることはできないだろうから、検査の結果が良好であれば明日にでも帰ってくるとは思うぞ」
【良かった】
「信二以外に前歴がついちゃったこと以外は丸く収まったわけね」
「それは仕方ないよ。不法侵入しちゃったし……」
「むしろ、捕まって退学にさせられなかっただけマシだぜ」
「1か月の自宅謹慎くらいで済んだだけだもの」
「板書のノートと宿題のプリントは持ってきてやるから安心しろ」
「そういえば、みみみって南雀の生徒なんでしょう? お嬢様学校だから厳しい処分くらったんじゃない?」
【みみみはこの度、南雀を追い出される羽目となりました】
「あちゃ~」
「やっぱり」
【というわけで、中黄高校のみなさん、これからもよろしくお願いします】
「えっ、それはどういうこと?」
「まさかだとは思うけど……」
【事情が事情だけに今回の件で退学や除籍させたら、南雀に非難轟轟でしょう。そういうこともあって、一身上の都合で転校したという形で追い出したいそうです】
「ということはナルシスト先輩と同じ2年になるってわけね」
【え~っと、実は留年してて……まだ1年なんですよ。次、大きな問題を起こしたら退学と言われてはいたんですけど……】
「起こした大きな問題がクラスター爆弾だったわけね」
【はい。来月から年上の同級生としてお願いします(涙目)】
「その点について同情はしないが」
【ひどい。エクステラさんのやさしさ見習って】
(俺がそのエクステラなんだが……)
みみみたちがワイワイと座談会をしている中、評議会のメンバーは亀北にある拠点で顔を合わせていた。
「ドクターめ、余計なことをペラペラと喋りおって」
「こんなこともあろうかと念のため、我らに繋がる証拠は消しておいて正解でしたね」
「捕まるのは表の人間だけ。我らが無事であればいくらでも替えはきく」
「ただ今回の件で野党が勢いつけたのはマズイですね。民民党の代表は文字通り腹に一物を抱えています」
「この件を表に出しても難癖にしか思われんだろうな。いっそのこと暗殺でもするか」
「これだから老人は。今の時代にそんなことできるわけないでしょう」
「冗談じゃよ。ワシも本気でそんなことを思っておらん。じゃが、『天魔計画』のこと、バラしたのはお主であるまいな?」
「まさか。こっちは女生徒たちの手綱を握るので精一杯ですよ。むしろ、私が聞きたいくらいだ」
「さてと、問題はこれからどうするかですよ。EX-01はもはや敵ではないとはいえ、エクステラという最大の障害をね」
老人たちが目を瞑り、うんうんと知恵をひねり出そうとしている中、若い男性はこの老害がと心の中で吐き捨てながらも、能面のような顔を続ける。
「そうじゃな。ここには『Sランク量産計画』の副産物があったはず。あれを餌にエクステラをおびき寄せるのはどうじゃ?」
「確かに、エクステラは『Sランク量産計画』にも言及しておったし、あれらにも興味があるはず」
「では、ここはさらに確実な一手としてSランクとEX-03の応援を呼ぶというのはどうでしょう?」
「悪くないな。我らの収入源が減るのは勿体ないが、エクステラを潰せるのであれば十分じゃろ。では『Sランク量産計画』改め、『エクステラ抹殺計画』を始めるとしよう」
「そして、『天魔計画』を我らの計画の柱に」
評議会が闇でうごめいている中、速水リョウコは上司に呼び出され叱責を受けていた。何しろ、配信中にあれだけの失態をさらけ出し、挙句の果てにはエクステラを捕まえることができなかったのだから仕方ないのだ。
「我々だけではエクステラを捕まえることはできないと判断し、国防軍からも応援を頼むことにした。『大鷲部隊』、君も知っているだろう」
「はい。国防軍の中でも常に最前線に出ている叩き上げの精鋭。何より、人型EXギアの適合者が率いている部隊と存じ上げています」
「君たちには国防軍に出向し、彼らの指揮下に入ってもらい、エクステラの捕縛を命じる。タカ派の国防軍に渡ろうとも、蘇生という人の理に反することができる彼女を野放しにする方がはるかに危険だ。
「ですが、『大鷲部隊』は過去に民間人に被害を出した、敵部隊と取引を持ち掛けたと黒い噂が絶えません」
「これも良い機会と思い、勉強しなさい。良いね」
「はい!」
リョウコは部屋から出ていき、歯がゆい思いをしながらも廊下をスタコサ歩くのであった。




