第12話 悪意のダンジョン
入学から1週間が経ち、授業も本格的にスタートしていた。そんなある日の昼下がりの魔法の授業、先生の板書の手が止まる。
「――であるから、魔法というのはEXギアという機械を通じて、これまで異能と呼ばれていた力を一般人でも扱えるようにしたものと言える。この異能とは何か説明しろ、森山」
「はい。1920年代、世界中の新生児が何もないところから火や水を出したり、物を浮かしたりと魔法や超能力とも呼べる特殊な力を持っていたことが異能の始まりです。この異能の発現理由については諸説ありますが、最も有力な説として同時期に発生したダンジョンから発生する特殊な電磁波が母子に何かしらの影響を及ぼしているのではないかというのがあります。その根拠の一つとして、世界有数のダンジョン数を誇る日本で異能を持っている人間が多く出生しているからです」
「うむ。よく勉強しているな。座って良いぞ」
「ありがとうございます」
「この異能というのは強弱に関わらず20歳をピークに伸びしろが無くなる。これは強大になる異能に脳の処理が追い付かなくなるのではないかと言われているが、定かではない。この異能を一般化したEXギアが発売されたのが1957年。その当時はウェポン型だ。では、このウェポン型は武器にしか使えない代わりに耐久性・整備性・量産性に優れており、当時の主流となっていた。ダンジョン第1号が発見されてから実に40年の月日が流れて、人類はダンジョンを制する力を得たというわけだ」
そこから書き連なるのは魔法の歴史。自分たちが使っている力を自覚せずに使えば、どれだけの惨事を引き起こすのか負の遺産を伝える。異能社会となっている日本で生きるためには、その背景を理解しないといけないからだ。とはいえ、信二が周りを見るとそれをつまらなさそうに聞く生徒もいる。彼らにとっては座学より実践なのかもしれない。だが、一番気になるのは空席の一つ。
(今日はサキが来ていない……第1章が始まったか)
【こうしている間にも、美少女が改造手術を受けているわけですね】
(新武器が間にあっていたら強襲するプランも考えていたが、こうなってしまえば賭けにでるしかあるまい)
そんなことを思いながら授業を受けるのであった。
「こ、ここは……?」
みんなが授業を受けている中、サキは目を覚ました。頭がぼーっとしてまるで眠らされたかのような倦怠感。体を動かそうにも手足ががっちりと拘束されている。頭が回らなくてもわかる。誘拐されたのだと。
「お目覚めかね。大村サキ君」
声の主を見ると、そこには白衣を着た少女。年は自分たちと同じ高校生か、もしかすると中学生かもしれない。なぜ、ここにと聞きたいところだが、白衣に着いた赤黒く染まった返り血がその問いへの答えなのかもしれない。
「貴方は一体……」
「ワシのことをどうしても呼びたいならドクターとでも呼ぶと言い。ひひひ」
年齢に合わない不気味な笑い声。目の前の人物がただものではないのは一目でわかる。なんとかして抜け出したいところだが、EXギアもなく、異能も使えないサキにどうすることもできない。今は会話して抜け出す機会を探るしかなかった。
「私をどうするつもりですか」
「インフォームドコンセントとかいうやつじゃな。まあ、どうせ後で記憶を消すから話しても構わんじゃろ」
「記憶を……消す?」
そのような方法聞いたことはない。もしかすると、この少女の異能なのだろうかと思いつつ、彼女の話を聞くことにした。そして、彼女が白衣のポケットから緑色の液体の入った注射器を見せる。
「これは天使という上位存在から得ることができるエキス。これを体内に入れることで、人はさらに上のステージに立つことができる。まあ、貧弱な人間では拒絶反応が出て死ぬんじゃがな」
「死――!?」
言葉にならない声を上げ、手足をばたつかせても拘束が解かれる様子はない。少しずつ迫ってくる少女におびえ、助けを求めても意味はない。腕にプスリと注射器の針が刺され、みるみるうちに液体がサキの体内に侵入する。
「あ、ああああ、ああああああああああああああ!!」
サキの絶叫が響く中、腕がボコボコと波立ち、それが胴体、足、顔へと波及していく。それらが収まる数時間、マジックミラーで中の様子を見ていた科学者たちが被検体の様子を見て意見を交わし合う。
「ひ、ひひひ……」
「素晴らしい。時間がかかったとはいえ、実験は成功じゃ」
「では彼女はSランクに?」
「天使の力がなじむまでまだ時間がかかる。1か月は様子を見るべきじゃろう」
「分かりました。では、彼女の記憶を消し、元の生活に戻しておきます」
「うむ。馴染めば馴染むほど実験体の能力は向上する。くれぐれも目を離すではないぞ」
「最近、エクステラのこともあって自衛隊の眼も厳しい。尻尾を出すわけにはいきませんからね」
「EX-06か。あれはEX-00の居場所を常に感知するのに必要な機体じゃったからな。ワシでもジャミングさせるのは難しいわい。ガハハハッ」
「笑っている場合ですか。そのせいでこちらは政治的に動きづらい状況を作るのにどれほど苦心していることか。おかげで、死体や失敗作を放り込むダンジョンを確保していたというのに無駄になりましたよ」
「最初から失敗すると思われていたのは心外じゃが、そのダンジョン、ランクはいくつじゃ?」
「Aランクですが、現在はジャマーでCランクに誤認させています。ランク差のあるダンジョンは稀にありますから、ごまかしは容易です」
「万が一があっても緊急脱出装置は使えんということじゃな。なら、この身体の姉が蠅のように飛び交って困っておる」
「確か唯一の肉親だとか」
「あのとき、姉の方はダンジョンに潜っていたからのう。両親と共に殺せなかったのがワシの唯一の過ちじゃ」
「ハエ駆除ということですね。わかりました。情報をリークして向かわせるようにしましょう」
失禁したサキを気に掛ける様子はなく、ただならぬ悪意が学園都市を覆いつくさんとしていた。
翌日、サキが何事もなく登校する様子をみて一安心するクラスメートたち。だが、この先の未来を知っている信二だけはいつ爆弾が爆発しないかと内心ひやひやしていた。
「サキ、昨日、どうしたの? 急に休むなんて」
「昨日、体調くずしちゃったみたいで丸一日寝ちゃった。ちょっと胸のあたりが痛いような気もするけど、昨日よりかはマシ」
「大丈夫? 病院に行った方が良いんじゃない?」
「う~ん、でも、それくらいしか悪いところないし……2、3日寝たら治ると思うよ?」
「カケルは心配性だな」
「みんなもそうは思わないの?」
「生まれてこの方、体調崩したことないし。はしかもかかったこと無いわよ」
「なんとかは風邪ひかないもんな」
「リョウ!鉄になりなさい。ぶん殴るから!!」
「シャレにならねえからやめろって!」
「相変わらず仲いいですね」
「「良くない!」」
そんな他愛のない会話を遮るかのように予鈴が鳴り、他にしゃべっていた生徒たちも席に着き始めるのであった。
その日の夜、エクステラに変身した信二は虎西学院の秘密研究所へと向かう。向こうが提示した日は今日。ステラにハッキングを任せて、期待に胸を膨らませながら研究所の最奥部へと向かうと、相変わらず何に使うのか見当もつかない装置がごちゃごちゃに置かれている。
「約束通り来たわよ」
「調整は終わっている。こいつらだ」
エクステラに手渡されたのは銃型のウェポン型EXギア。普段使っている拳銃型よりも大きく、少し身体強化に力を回さないと取り回しが悪そうだ。
「ずいぶんと大きいわね」
「銃身から魔力弾だけでなく、魔力剣を出力できるようにしているマルチプルタイプだからな。だが、既製品よりも魔力の通りが良い。お前の膨大な魔力なら鋭く切断することはおろか、銃身を強化すれば盾代りにも使える」
「なるほどね。約束通り、余った天使の素材は好きに使っていいわ」
「当然だ……ところで、一つ見てもらいたいものがある」
ツトムが手元のパネルを操作すると、大型スクリーンに地図が表記され、赤い丸印がある。そこは龍東学園の学区内にある場所だ。
「つい先日現れたCランクのダンジョンだが、奇妙な反応を示している」
「奇妙?」
「ランク判定はダンジョンから発せられる特殊な電磁波で判定される。間違いなく数値はその範囲内を指し示しているが、妙に安定しない。範囲内に収まっているとはいえ、下限と上限を行き来している」
「不安定なダンジョンということかしら」
「出来たばかりで、高ランクのダンジョンが多い龍東学園の学区内ならそういうこともありうる。だが、その場合は危険性を考慮して最低でもBランクをつけるのが決まりになっている。気になってドローンをこっそりと飛ばしたが、返答がない」
「モンスターに壊されたのね」
「いや、説明不足だった。ドローンがダンジョンに入った瞬間、通信途絶だ。つまり、何らかの通信妨害を受けている可能性がある」
「龍東学園が独り占めにしたいから妨害……いえ、Cランクに誤魔化す必要はないわね」
「その通りだ。堂々とBランク、いや、俺の見立てではAランクと名乗ればいい」
「その理由を調べて欲しいということね」
「ああ。報酬は……ここの施設を俺の眼が届く範囲であれば、自由に使っても構わん。前報酬にはなるが、このカードキーを渡そう。毎回、ハッキングさせられても困る」
「それもそうね。貴方からのミッション、承ったわ」
エクステラは転移し、現場へと直行するのであった。




