第11話 暗躍する美少女
その日の深夜、Bランクのダンジョンから戻った信二はステラと話をしていた。
【今後、どうするつもりですか?】
「……まずは武器の確保だな。市販品とはいえ、エクステラと俺が同じ武器を使っていたら怪しまれる可能性がある。その前に一つ確認したいことがある」
【何でしょうか? 私のスリーサイズを知りたいとか? 意外とむっつりだったんですね】
「0、0、0のお前に興味はない。天使を素材にした武器を作れるか? 原作だと虎西のヒロインの力を借りる必要があるのだが……」
【いくら私が天才美少女と言ってもやれることとできることがあるんですよ】
「……できるんだな」
【もちろんです。ただ、天使を素材にするとなるとそれなりの設備は必要ですけどね】
「やはり、原作通り虎西学院の事件を解決してからでないといけないか」
【どんな感じなんです? その事件というのは】
「第3章、時期的には夏休み前半の話になる。2章での活躍でひかりちゃんに興味を持った虎西の生徒会長がカケルたち、部活メンバーを招待する。そこでは、虎西の学区内での戦闘データの提出の代わりに虎西が持つ最先端施設の一部が利用可能になり、武器やアイテムの合成機能がアップデートされるのが序盤のストーリーだな」
【いわゆる合宿回ですね。美少女らしくていいですね。となると、最後は暴走した機械をとめて終了とかそういった感じですかね】
「………………まあ、近いな」
【なんですか、その溜め。いや~な予感しかしないんですけど!また美少女が死ぬとか言わないですよね】
「時期がくればわかると思うぞ」
【いや~、それ、死ぬじゃないですか!美少女は生きているだけで価値があるんですよ】
「美少女以外は?」
【価値あります?】
「やはり、ロクデナシだな。それに【感知】の件もある。【浸食】の有無で色は違えど、エクステラと俺が同じ武器を使っているのはマズイだろう。別の武器を使う必要はある」
【専用武器ですね。それは美少女。さっそく作りましょう】
「そうなると、虎西との協力は必要になる」
【でも、表立っては動けませんよね? 美少女になりますよね? ね?ね??】
「…………ならざるを得ないだろうな、今回は」
【では行きますよ!美少女!】
エクステラが自分の部屋から飛び出ているところを見られないように虎西学院近くの森に転移してから向かうのであった。
「くそ、また失敗か。なぜ目を覚まさないんだ、リンネ」
虎西の生徒会長、但木ツトムは横たわる少女を見ながら床に拳を叩きつける。自分の異能【開発】は自分が開発したいものならば何でも開発できる能力。それまで、数多くの企業の依頼をこなし、彼らのバックアップもあって虎西学院を大きく発展させてきた。
そんな彼も一つだけ開発できない事業があり、それは彼の秘密研究室で行われている。
「何がうまくいかない……いや、分かっている。俺の異能がこの世で発見されている物質を使っても開発できないことを告げているのは!だが、俺には……こいつが必要なんだ…………」
「たとえ天に唾を吐く行為だとしても、それが純粋な願いなら手を貸すのが星の定め」
「だれだ!?」
ここは関係者以外立ち入り禁止エリア。万が一入ってきたとしても、セキュリティーシステムが迎撃し、下手なテロリストなら数歩も動けずに素材に早変わりする。だからこそ、見知らぬ女性の声が聞こえるなどあり得ぬと振り向く。
「エクステラよ」
「エクステラ……少し前に話題になっていたやつか。どうやってここに入ってきた?」
「星は人の営みを見ているもの」
「コレを見ても驚かないあたり、お見通しというわけか。で、俺をどうする? 人道的観点から殺すか? 俺自身の戦闘能力はEだが、実績のおかげでSランクになっている。企業や警察だけでなく自衛隊、いや国防軍もお前を付け回すだろうな」
「野蛮な真似はしないわ。今はね」
「今は……か」
「私が来たのは天からの贈り物を渡すため」
エクステラがEXギアから倒した天使の残骸を取り出す。それを見た瞬間、ツトムの【開発】が発動し、軽い頭痛と新たな開発ツリーが生まれてくる。その中に彼が望むものがあるかはまだ分からない。だが、少なくとも、現状の0%よりかは可能性がある未知の素材が目の前にある。喉から手が出るほど欲しい素材にごくりと喉を鳴らす。
「こいつは一体……」
「これは異界より現れし天使。その遺物。私の依頼を飲み込むのであれば、渡しても構わないわ」
目の前の女性が何を考えているかは分からない。だが、もう彼には時間が残されていない。今は普段の素行はどうであれア、貴重なSランクという名目で膨大な予算を潤沢に使えるが、卒業してしまえば、こんな贅沢はできない。残り1年もない彼にはエクステラの提案を飲むしかない。
「私の依頼はこの天使を使った私専用の武器、あらゆる状況に対応できる最高の一品を秘密裏に無償で作ること。その道中で得られたデータ、余った素材は全て自由に使っていいわ」
「そんなことで良いのか。むしろ、こちらから大金を投資してでも手に入れたい素材だ」
「なら良かったわ。1か月以内にできるかしら?」
「1か月? 1週間で仕上げてやる」
「心強いわね。邪魔にならないように退散しておくわ」
エクステラの姿が消え、残ったのは天使の残骸とツトムのみ。ツトムはさっそく天使の残骸、そのデータ取りにとりかかる。
「リンネ、必ずお前を死神の魔の手から救い出して見せる!」
秘密研究所のある山中から自室へと転移した信二が今日は寝ようとしたとき、ステラに呼び止められる。
「なんだ?」
【あの美少女は……?】
「2年前、探索者のパーティーが壊滅した事件が発生。これだけなら今時珍しい事故で片づけられたが、その後の調査で海外の大手EXギア製造メーカーが仕様書に無いコストカットによる緊急脱出装置の不具合を隠蔽、改ざんして発売していたことが分かり、1億台以上のリコール、莫大な賠償金を払えず破産。連日、ニュースになっていたほどだ」
【では、その時の被害者が……】
「但木リンネ。生徒会長の妹だ。当時、Bランクになったばかりの期待の新人だったらしい。そして、兄のツトムは妹を蘇生しようと狂っていき……というのが3章のバックボーンになる」
【人間の蘇生、そんなの私でもできませんよ】
「…………だが、リョウやサキを失ったカケルには甘い誘惑となる。正規ルートではその誘惑を断り、ボス戦になる」
【断らなかったら?】
「短いストーリーと滅んだ学園都市の中で笑うカケルと背後にいるうつろな目をしたサキとリョウの1枚絵で終わる。いわゆるBAD ENDだな」
【…………私だったら、そんな世界滅ぼしますよ】
「…………」
【『滅ぼして何の意味がある』『復讐なんて意味がない』とは言わないんですね】
「言ってほしいのか?」
【それは……】
「司法の手を借りて犯人を捕まえる。これも遠回しではあるが犯人への復讐と言っても良い。ならば、ステラ、お前の求めている答えは『人はなぜ復讐するのか』という問いへの答えに等しいだろう」
【その答えを持っているのですか?】
「二十数年しか生きていない俺が持つ答えでいいのであればな」
【それは?】
「前へ進むためだ。手段はどうであれ今の自分の気持ちに決着をつけ、過去と別れ、未来へと進むためだ。そういう意味では葬式の意義と同じなのかもしれん」
【復讐と葬式と同一視するのは罰当たりですね】
「かもしれんな。だからこそ、『滅ぼした後どうするつもりだ』と聞き返そう」
【それは……】
「その後のヴィジョンが無いならそれは復讐ではない。ただの自棄だ」
【自棄ですか】
「ああ。もし、お前が自棄を起こそうとするのであれば、俺が止める。必ずな」
【それって殺し文句っていう奴ですか】
「ふっ、お前らしさが戻って来たな。今日はもう遅い。寝るぞ」
電気を消し、瞼を閉じた信二は眠気に誘われるまま就寝に着くのであった。寝静まったのを見てステラは一人ごちる。
【私を止める……もし、あのとき、貴方がいれば別の結末があったのでしょうか?】




