大いなる旅立ち。3
『しかし秀郷殿、かの様な地に一体何故に起こしなのだ?
其方は下野守、そして宮にお仕えする身ぞ?』
『まあ、色々と有ってな。』
秀郷様は、何かを隠している様だった。
『将門様、この御方は??』
『アヤメ、この御方は近隣の下野の在庁官人であってな。
とても優れたお人柄で、御懇意にしておるお人だ。』
※実際に地方で実務を行う役人。強大な軍事力を持っていた。
秀郷と呼ばれる人は、老年で綺麗な白髭を生やしていて、幾度も戦をしたで有ろう、刀傷が無数に付いていた。
『その娘は??』
『まあ、娘の様な存在です。』
『様な??』
『嫌なに、アヤメは記憶が全く無く、我が下総の地に倒れておったのです。
だが拾うた時に、これは神が引き合わせてくれたのだと思うたのです。
それ以来、娘の様に思うております。』
『記憶が無い……か。』
『それに、自分の故郷には下総の田舎の風景は無いとの事。
なれば都に連れて行けば、記憶も蘇ると思い。』
『確かに、下総と京の都では大違いだ。
記憶を無くした少女か……。』
秀郷様は、私の眼を射抜く様に見つめた。
私も秀郷様の眼を見つめた。
『良い瞳をしているな……。』
『え??』
『ほれ、アヤメ。
秀郷殿にその様な……。』
将門様の言葉を遮る様に、誰かが騒いだ。
『また出たぞぉーー!!』
『まさか、街で噂になってた……。』
秀郷様が太刀に手をやる。
『秀郷殿!?』
『そうだ。
儂がここにおるのも、あの化けムカデを退治するためだ!』
『し、しかし、一人では危険で御座います!』
『任せておけ! 院からの直々の命だ!』
※院、院政。天皇の位を譲って、上皇となり政治の実権を握った者。治天の君。
秀郷様は宿を駆け抜ける様に飛び出して行った。
一人で妖怪ムカデに勝てるの!?
私は秀郷様が心配になった。
『わ、私……。
行って来ます!!』
『お、おい待てっ!!』
私は将門様の静止する声も耳に入らずに、秀郷殿の跡を追った。
©︎2022 山咲 里




