第十話
屋敷の中心に造られた庭園。天井は無く正方形、四つの角にはそれぞれ別の花が植えられ花を咲かしている。その他の部分は芝生になっており、太陽の光を浴びながら寝そべれば気持ちいいこと間違いなし。
「よろしくお願いします」「よろしく、せんせ♪」
案内されたアイシャとメーパの二人を出迎えたのは二人の子供。丁寧な挨拶をした方は黒髪の少年で、纏っている雰囲気や既視感から察せられるのは、レオンの血族だということ。もう一人の愉快そうな少女は、桃色の髪のポニーテール。黒髪の少年は礼装を纏っていたが、桃色の少女の方は庶民が来ていそうなラフな格好だった。
二人共アイシャより若そうな見た目だが、成人はしていそうである。(この世界では成人は十五歳)。
それにメーパという例外がすぐそこにいるため、所詮見た目と言い切った方が楽かもしれない。
「弟子よ、こ奴らが?」
二人の子供に聞こえないようにレオンへ確認と取るメーパ。
「そうです、師匠……お前達、改めて自己紹介をしろ」
前半は師匠であるメーパへ、後半は二人の子供へ対して。
黒髪の少年が一歩前に出て優雅に一例を行った。
「お初にお目にかかります。ユリウス=オドリエルと申します。よろしくお願いします」
ユリウス=オドリエル。レオン=オドリエルの御子息で次期当主候補の一人。正妻の子供であり長男、本人の意思は兎も角、最低限の才があれば酋長となるのは目に見えていることだ。
自己紹介が終わり定位置に戻るユリウスと合わせるように、もう一人の少女が前へ踏み出した。
「ナッティ=ギルギエル。ナッティでいいよ。私、せんせーと会える日を楽しみにしてたんだ♪」
『せんせー』という彼女の視線が向いた先には銀髪の少女がいた。察するにアイシャのことをせんせーと呼んでいるのだろうが、アイシャはこのナッティという少女の記憶を持ち合わせてはいない。
ナッティ=ギルギエル。酋長の一家、ギルギエル家の御息女。ユリウスとは小さい頃からの付き合いで、今回の話も二人の間柄と、オドリエル家とギルギエル家の友好関係から成り立ったものだ。
楽しみという言い方や、醸し出す嫌や雰囲気、ナッティの自己紹介を受けて、嫌そうな顔を隠さずアイシャは自己紹介を行った。
「アイシャよ。精々死なないように頑張ってね坊や達」
「煽るではない……気持ちは分かるがのう」
どうやらメーパも同じことを考えていたらしい。
「アイシャの助手をしているメギストリスじゃ。よろしく頼むぞ? 若人」
「は? 今何てーー」
聞き捨てならないことが聞こえた。今メーパはアイシャの助手だとか何とか。
問いただそうとするアイシャだったが、見越したかのように、アイシャの脳に聞き覚えがある声が鳴る。
『言うのを忘れていたが、今回わしはお主の弟子メギストリスとして参加するからのう』
『ッ! ……いきなり念話するの辞めてもらえる!? しかもパスを無理やりつなげたせいで頭が痛いんだけどッ!』
顔には出さない。アイシャのポーカーフェイスに関心するメーパことメギストリス。
「若人って、せんせーも歳そんな変わらないでしょ?」
『しかも何でそーゆう面倒臭いことを言わないの? もう少し不快だったら剣抜いていたから』
『何でって、お主は分かっているだろう?』
第七章、念話。対象を指定し、魔力のパスを繋げることで、口に出さずに会話が出来る魔法だ。
『やっぱり手出していい? 後戻り出来ないようにする為って相当タチが悪いと思うんだけど?』
「どうかしたの!? せ、せんせー♪」
無視され続けたことで癪に障ったのか、声を荒げて軽蔑に近い目線で訴えるナッティ。
ようやく存在に気が付いたアイシャこと先生。リアルに忘れていただけなのだが、まるでわざと無視していたかのように取り繕う。
『お主の手を出す条件を把握せねばなぁ』
「どうもしないわ。強いて言えば貴方の装いに不快感を抱ていることくらいかしら」
『勘違いしているかもしれないけど、私は物事に託けて殺傷したいサディスティックじゃないの。人間が思う殴りたい、殺したいという感情を我慢しないだけよ。特に人を天使とか悪魔とか言われたらね』
「へ、へぇー……」
思うところがあるのだろう。顔を隠してプルプルと震えだすナッティに対し、これ以上この場で声をかける者はいなかった。
『結び付けられるのが嫌ということか。ではこの娘のせんせーとかいうのはいいのか?』
『天使悪魔は虚像よ。先生は行為を行うことで実像へとなる』
『天使と悪魔は違うと?』
『天使と悪魔に限らないけど、捉え方で善悪が決まるようなモノを押し付けられると特に腹がたつわ。勇者とか英雄も同じよ』
『勇者は世界が決めることであろう?』
これ以上勇者という単語を聞きたくない。
メーパの問いを無視し、アイシャは取り残されたユリウスの方を向く。
「貴方は何か言いたいことある? 息子さん」
「そうですね……こんな綺麗な方々と一緒に居られるなんて感激です。力仕事があれば僕に頼ってください」
「貴方も気持ち悪いわね」