㊳
王都には朝一で出発したおかげで陽が暮れてすぐくらいの時間には帰ってこれた。
駅馬車から降りていつも通り道中の目立たない場所で変身を行なって商業ギルドに併設されている解体部屋へと向かう。
「お、今日も素材の査定か?」
「あぁ、頼む」
いつもの要領で素材を取り出して査定の依頼をする。
「今回は河床のダンジョンか?またたくさん持ち込んで来やがって。ちょっと待ってな」
そしてしばらく待つと査定が終わったのかおっさんが声をかけてくる。
「待たせたな。まとめて銀貨742枚分ってところだがどうする?」
「それで大丈夫だ。いつもまとめてやってもらって悪いな」
「へっ、俺もこれが仕事だから気にすんな。じゃあこれを持っていってくれ」
おっさんから札を受け取って別れを告げる。
そのまま受付へと向かって札を手渡す。
「いらっしゃいませ。…はい、銀貨742枚ですね。金貨なども混ぜますか?」
「頼む」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そのまま後ろに向かい、お盆に貨幣を乗せて戻ってくる。
「こちら大金貨7枚と小金貨1枚、銀貨17枚になります。お間違いはありませんか?」
「大丈夫だ。ありがとう」
そのまま受け取って収納しておく。
商業ギルドを後にして雑貨屋へと向かって使ったポーションなどの補充をした後に隣の羊亭へと向かう。
入り口をくぐるとシーナと女将さんが忙しくしている。
「イーライくんおかえりなさい!空いてる席に座っててね」
時間的なこともあるだろうがいつも以上にお客さんが多い様に見受けられる。おそらく建国祭が近づいている為に観光客も多く来ているのだろう。そんな忙しい中でもシーナが俺のことをすぐに認識してくれて嬉しく思う。
空いているカウンター席に座って少し待っているとシーナがグラスを片手に駆け寄ってきてくれる。
「改めてイーライくん、おかえりなさい!今回も大丈夫でしたか?」
「あぁ、大丈夫。ちゃんと約束通り戻ってきたよ。今日もオススメで頼む」
腕を飛ばされたりしたがもう完治しており、鎧も自動修復機能で元に戻っているために変に心配をかけることもなさそうだ。
「ちゃんと元気に戻ってきてくれて嬉しいです!今日はコカトリスがたくさん入ったからコカトリス料理でも大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「はーい!じゃあこれはサービスなのでちょっと待っていてください!」
そう言って持っていたグラスをテーブルの上に置いて厨房に戻っていく。
他のお客さんのところに持っていくものと思っていたためにビックリするも好意に甘えることにする。どうやらエールの様でグラスに水滴がついてることからもわかるとおりとても冷えているのが見てとれる。
感謝して飲みながら待つことにする。ぼーっと数分エールを飲みながら店内を見回して待っているとお店の一角から忘れるはずのない聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「意外とうまいじゃねーか」
「そっすよね!ここの料理美味いんすよ!」
「最初はあんなに文句垂れてた癖に厳禁な奴よね〜」
咄嗟に振り向くとクリスと他にガタイの良さそうな少年と獣人の少女の3人がいる。
その光景に思わず襲いかかろうとした時、近くから声がかかる。
「いらっしゃいませ!すぐにお伺いしますのでそこの席に座ってお待ちください!……お待たせしました!コカトリスのトマト煮込みです!」
タイミングよくシーナが料理を持ってきてくれた。その声に出鼻を挫かれたがおかげで飛びかからずに済んで冷静になることができた。
(落ち着け。冷静になれ。流石に一対一なら今のレベルでも遅れをとるようなことはないはずだ。だが向こうは今3人いる。パーティーを組んでいるなら3人とも同レベル帯だろうから流石に歯が立たない。仮にパーティーメンバーじゃないにしても装備品からそこそこ以上の実力はあるはずだ。やるにしても今じゃない。ここは気配を殺して聞き耳を立てて情報を得る方がいいはずだ)
「イーライくん、大丈夫ですか?顔色が良くないようですが……」
なんとか唇をかみしめて我慢しているとシーナが下からフードの中を覗き込んで声を掛けてくる。なるべく笑顔を作るように意識して応える。
「大丈夫だよ。今日は忙しそうだし明日の朝にも来るからその時に約束の件について話さないか?」
「気を遣ってもらってすいません……イーライくんもあまり無理はしないでくださいね?」
「大丈夫だよ、じゃあシーナも仕事頑張ってな」
「はい!ありがとうございます!」
他のお客さんに呼ばれてシーナは離れていく。その後ろ姿を見送ってからクリスたちに意識を向けつつ料理を食べる。
しばらく聞き耳を立ててみるがクリスたちはある程度酔いが回っているようで陽気に今日の昼間に行ったダンジョンの話をしており、これと言った収穫はないままコカトリスのトマト煮込みを食べ終えてしまう。ほとんど意識をクリスたちに向けていたためにほとんど味を覚えていない。その後もちびちびとエールを飲みながら聞き耳を立てていると話題は建国祭の話になっていく。
「そういえば先輩は明後日の武術大会出るんっすよね?」
「おうよ!俺にかかれば優勝間違いなしよ!だからお前らも俺に賭けろよ?稼がせてやっから」
「えー?でも今回の大会はダン様も出るんでしょ〜?ダン様の方がカッコいいし私はダン様に賭ける〜♡」
知ってる名前が出てきたかと思えば様付けで呼ばれていることに吹き出しそうになる。隣の客に変な目を向けられたが気にせずにそのまま話を聞く。
「あんな毛むくじゃらな奴のどこがかっこいいのやら。俺の方がカッコいいよな?」
「そっすよ!先輩の方が何倍もカッコいいっす!」
「そんなことないよ!ダン様の方が何倍も逞しくてあの髭もかっこいいじゃない!」
「か〜、獣人のセンスはやっぱりわかんねぇ〜わ……なぁ、嬢ちゃん!嬢ちゃんも俺のことかっこいいと思うよな?」
「んー、そうですね〜。かっこいいと思いますよ?」
そこに運悪く通りかかったシーナがクリスに絡まれる。
「だよな〜、嬢ちゃんは見る目あるぜ!てかよく見りゃ美人じゃねーか。今晩上で俺の相手しろや」
「すみません。ウチは普通の宿でそういうのはやってないんです」
上から下まで値踏みするように見た後に腕を掴もうとするがシーナもサラッと避けてそのまま奥へと戻っていく。
「ちっ!逃げやがって。でもあの女どこかで見たような気がするんだよな……」
「まーたそうやってすぐ手を出そうとする〜。前もそれで出禁になったの覚えてないの?」
「そっすよ!それに流石に今は時期的にまずいっすよ」
「わかってるよ……今回は無理矢理襲ったりしねーよ。今のだって本気で腕を掴みに行ってなかっただろ?」
「ならいいけど問題起こさないでよー?この間だって一人で変な依頼受けて遠くの村まで行った時に問題起こして「わかったわかった!悪かったよ!ほら、飯も食い終わったしそろそろ宿に帰ろうぜ」って待ちなさいよ!まだ話は終わってないんだからね!」
そのまま獣人の少女を宥めながらクリスたち3人はお店を後にする。
そして3人が出て行った少ししてから会計を済ませて俺も外へと出る。
クリスたちは出すつもりなかったんですが思いつきでの登場です。
おかげで終わり方を大幅修正しないと……いらんことしてくれやがってクリスの野郎……




