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チェンジリング  作者: 美羽
エルヴィスト魔術学院
7/16

6 :貴方に二回目の名前を呼ばれた

<魔法歴1327年 新春月の八>

【リラ・ヴィルエール】





早朝の学院にはあまり人影はなかった。まだ日の出前なのだから、当然と言えば当然のことではある。むしろ他人がいた方が都合が悪いと言えるのだし、これでいいのかもしれない。

城の時計を見ればもうすぐ午前四時をまわろうかというところか。


「六時前には寮に戻っていなければ、他の三人に怪しまれますね」


勿論ただ外出していただけで少なくともグロウとクラウスに関しては怪しむも何も無いだろうが、流石に何をしていたのかとは聞かれるだろう。言い訳を考えるのも面倒だ。

それにセルスは生い立ち故にこういうことには敏感だろう。軽く聞いた程度ではあるが、あまり不信感を持たれては関係が進まない。


「リラ、お待たせ」


「……いえ、私も今来たところです」


丁度やって来た待ち人に、ともかく話は早めに切り上げてしまおうと意識を集中させた。











今日の授業は魔法史だ。エルヴィストの――という言うよりかはSクラスの、と言った方が正しいかもしれないが、授業で教科書などの類いは一切使用されない。教師であるエヴィもそれらしき物を見ている様子はないのだが、それは彼女が教える内容をすべて覚えているからなのか、はたまた学院での期末試験(学期が前、後期に分けられその終わりに設定されている)や下位魔術師の認定試験用の知識のみをギリギリまで省略して教えているからなのかは分からない。恐らく後者だろうが。

特別設置クラスであるだけあって、他クラスでやるような四角四面な授業は行わないことになっているのだろう。

そういった理由でほぼ荷物のない私は(基本的にノートなどはあまりとらないが、最低限小さなメモ帳とペンだけを持ち歩いている)軽い足取りで教室に入った。食事は四人全員でとるものの、準備の内容などに個人差があるため初日以降寮を出る時間は皆バラバラになっている。もう少し四人の距離が縮まったら揃って登校してもいいかもしれない。


「あ、リラまた最後だね」


席で相変わらずセルスから借りた魔術書を読んでいたらしいクラウスがそう言って微笑む。

入学日から既に一週間が経ち、私達の生活リズムは概ねお互いの知るところになっていた。基本的に一番寮を出るのが早いのがクラウスで、次にグロウ、セルス、そして私の順に教室に着くことが殆どなのだ。私ももう少し早く出ることは出来るが、校内が混む時間を避けたいためギリギリの時間に出るようにしている。


「ゆっくりするのが好きなんです」


本音ではないが取り敢えずそう答えておいた。

席についたタイミングでエヴィが入室してきたため、クラウスからのそれ以上の追求はない。


「皆さんおはようございます。今日も全員揃っているようで何よりですわ」


「こんな少人数で休むやつなかなかいねぇだろ…と、思います」


「あら、わたくしはずる休みのことを言った訳ではありませんわ。

学院に入学して一週間ですもの。他クラスでは何人か風邪に似た症状を訴える方がいるので、皆さんは大丈夫かと。でもまあ……」


エヴィは私達の顔を順繰りに見て苦笑した。


「わたくしのクラスには、あまりそう繊細な方はいないようですから、不要の心配でしたわね」


「失礼すぎだろ」


「でもグロウが繊細じゃない人代表なんだから、そんなこと言う資格はないと思うよ」


「お前も失礼なやつだな!」


横で交わされる言い合いにはそ知らぬ顔をしておいた。

巻き込まれると大変だ。グロウに申し訳ない。


「さて、じゃれあいはこのくらいにしておきましょう。

本日は魔法史の授業ですわ。と言っても魔法史は今日しか行いませんけれど」


「……どういう意味です?」


セルスが初めて口を開いた。今日も朝食を食べてもらったから、しばらくの間最低限しか会話したくないのだろう。段々と食べる量を増やしていきたいため、今の食事量で苦しそうにする様子がなくなったら品数を増やしてもいいかもしれない。

それとも昼食の量を増やすべきだろうか。今のところ手渡しているのは毎日飴玉三個のみ。恐らくセルスはそれ以外は全く口にしていないはずだ。昼に何かを口に入れることには慣れてきただろうし、今度はもう少ししっかりしたものを渡してみようか。


「本日中に二年分の範囲を終わらせようかと思いまして。

まあまずはいつも通り、基本からさらっていきましょうか」


「………」


「ではまず魔法のおこりから。魔法が初めて確認されたのはいつからか、グロウ、答えてくださいませ」


「えっ。えーっとえーっと…魔法歴1年?」


「その通りですが、もう少し詳細な説明が必要でしてよ」


「あー、管理者が自分が魔法使えるって気づいた時?か?」


つらつらと考えている間に授業が進んでいく。

魔法歴はその名の通り、魔法の存在が確認されたとされている年から数えられる。グロウの言う管理者というのは【魔の管理者】で、管理者は生まれた瞬間に自らの理の力を自覚するため、魔の管理者が生まれた瞬間が魔法歴の始まりだった。


「まあよしと致しましょう。魔の管理者である【ノア・ルージュ】。彼女が生まれ、その魔の理の力を自覚したことによって管理者すべてが自らの持つ魔力、そして魔法の技能について正確な把握が出来るようになったと言われていますわ。

それまでも正確には魔法を扱っていた管理者は存在していたようですが、それが何なのか分からないまま使用されていたようです」


「無意識的に使っていたって事なんでしょうか?

僕達は意識しないと魔術を使えませんけど、管理者の人達は無意識下でも魔法が使えるんですか?」


「いいえ、わたくし達も意識してでなければ魔法は使えませんわ。

言ってしまえばその技術に魔法という名前がついていなかっただけですわね。それが何なのか分からずとも、どうやって扱うのか、それによってどのような結果が得られるのかは理解していた。そこへ魔の管理者が生まれたことでその力の名前が魔法だと理解した、というようなものでしょう」


「へぇぇぇ」


クラウスは少々興奮した様子でメモをとっている。

義務教育過程中から気になっていたことなのかもしれない。義務教育過程では間違っても管理者が教鞭をとることはないし、日常生活でもまず管理者に出会うことはないためこの機会に色々と聞いておきたいのだろう。


「そのような過程で魔法歴は始まりました。

その後の数百年は魔の管理者のもと、様々な魔法が発明されたと言われていますわ。

さて、ではその後、魔法歴において大きな事件が起こります。セルス、説明をしてくださいませ」


「……魔法歴574年、魔術が誕生しました」


「その切っ掛けは何だったでしょうか?」


「魔の管理者と【始まりの魔術師】の出会い。

ノア・ルージュの城に客人として【ザード・アインスフェル】が訪れた。

魔法に強い関心を持っていたザードはノア・ルージュと共同で魔術を開発し、それを教え広めました。それが現在の魔術学院の前身です」


「うふふ、よろしいですわ。ではここで課題を出します。

内容は魔法歴1年から今日この日までの魔法、魔術についてをレポートにまとめること。歴史的観点から見てまとめても構いませんし、経年的に見たものであれば内容を魔術の種類ごとにしぼっても構いませんわ。

提出期限は明日の朝までといたしますから、これから皆さん丸一日頑張って下さいませ」


「………へ?」


シンとした教室内にグロウの小さな声がやけに響いた。

それに説明が足りないとでも思ったのか、エヴィが付け足すようにもう一度口を開く。


「レポート用紙十枚以上でまとめて下さいませ。

その評価がそのまま魔法史の授業評価として扱われますわ」


「先生、僕達が聞きたいのはそういうことじゃないんですけど…」


「あら、皆さんSクラスに選ばれた優秀な方々ですもの。この程度の課題、どうということではないとわたくし理解しておりますわ。

ではわたくしはこれにて。明日レポートを持っていつも通りの朝九時にここに集合してくださいませね。明日は魔術薬学について基礎からやっていくつもりですので」


そう言ってエヴィは後は知らないとばかりに去っていく。どうやら本当にこれで魔法史の授業そのものが終わりらしい。

レポート課題の内容を魔法歴元年から現代まで、としたのはレポートをさせることで魔法史を学ばせるためだろうか。試験でも魔法史の範囲は大きな歴史的出来事ばかりが出題されることが多いらしい。だからこそこうした大雑把とも言える授業内容でもそれほど問題は無いだろうが……ここまで授業時間を削って、代わりに一体何をさせる気なのだろう。

入学前に書類で見た内容なので確実な数字は覚えていないが、魔法史は一年目と二年目で二単位程度はとられていたはずだ。恐らく実技授業を嵩増しするのだろう。……憂鬱だ。


「どうしましょうか」


ただその重い気持ちは振り払っておく。ある意味これはチャンスとも言えた。

普段の授業ではあまり私達の間のコミュニケーションは多くない。どうしても教師であるエヴィ主体のものになってしまうからだ。従ってクラスメイト同士の交流が持たれるのは主に授業の合間の休み時間か、授業終わりから夕食までの間。夕食後は基本的に個人の時間になっていて、誰かしら部屋にこもることが多い。勿論その主たる存在はセルスだが。

だがこうして授業時間がまるまる潰され課題に充てられた。課題内容もそれなりのもので、恐らくセルスであってもしばらく時間がかかるだろう。ならこれを利用しない手はない。


「まあどうするも何も、課題だしやるしかないんじゃないかな?」


「うっへぇ、マジかよ…」


「そうなると……取り敢えずは図書館に向かわないといけませんね。資料を探さないと…」


「そうだね。年代ごとに必要だからかなりの量になりそう…」


思惑通りの会話の運びについ微笑む。

同時にセルスの服の裾を捉えるのも忘れない。


「じゃあ皆でやりましょう!」


「………離せ。大人数でやりたいのならあなた方はそうすればいい。俺は一人でやる」


そう言うと思っていましたよ。


「でも皆でやった方がセルスも助かると思いますよ?」


「俺が他人の手を必要とするとでも?」


帰ってきた言葉と視線はどこまでも凍えていた。

そうだろう。彼はここまでたった一人で、誰の手も借りずに生きてきたのだから。――少なくとも、彼の主観としては。


「ふふっ、でもたくさんの本を借りるのだから、人手はあった方がいいでしょう?

それに必要な本が被ってしまうかもしれません。ならめぼしい物を全て私達で借りてしまって、寮の談話室でレポートを片付けてしまった方が色々と楽ですよ?」


「おお、確かに!しかも助けてもらえるしな、お前らに!」


「貴方は自力で学力を向上させた方がいい」


折角賛同してくれたグロウに、セルスはやはり冷たく言い放つ。

反論の言葉もないのか、グロウは一気に何も言えなくなった。

まあこの場合完全にグロウにとって分が悪いので仕方がないだろう。


「まあまあセルス。あ、じゃあさ。

僕これでも結構図書館に通ってるから、色んな分野ごとにこれはって感じの本があること知ってるんだよね。僕達と一緒に本探しした方がよくないかな?」


「………」


おや。何となく意外に思えてついクラウスを見つめる。まさかここで彼が混ざってくるとは思わなかった。

茶化したりはしただろうが、私と共にセルスを説得する側に回るとは。

視線に気づいたらしいクラウスはウインクを返してくる。


「まあ、僕もセルスに本の解説とかしてもらえたら嬉しいなーって思ってるし」


「貴方までそんな考えを……」


「ふふっ、私も驚きました。でもセルスとしてもあまり悪い話じゃない様ですし、行きましょうか?」


長く話していても結論は変わらない。

四人でやると決めたのだから、私はその意見を覆す気はなかった。











他のクラスはまだ授業時間であるため、図書館内の人影はまばらだった。今いるのは私達と図書館の職員、あとは認定試験の受験勉強のために二年目以降も学院に残った【残留組】だろう。

基本的に学院が授業を行うのは最初の二年間のみである。それが魔術議会が魔術師となる者に定めた義務教育期間だからだ。

二年間の間は学費はほぼ免除と言っていいくらいしかかからないし、寮や朝昼晩の食事も提供される。しかし三年目からはそれなりの学費(これは一定の条件下では免除される場合もあるが)もかかるし、寮には住めず宿泊施設かアパートメントを借りて学院に通わなければならない。当然食事も自らで用意しなければならず、それらすべての費用をあわせればそれなりの額になるため、残留組は職を持ちながら学院で学ぶことが殆どだ。

それを考慮して学院側も残留組の授業は月に数回だとか夜間に数時間のみにするだとか、それぞれの生活に配慮した時間割を作成するようになっている。今ここにいる残留組であろう者達は仕事の休みを使って自学をしているか授業の一環で図書室を利用しているかのどちらかだろう。


「へー、ここが図書室か。初めて中入ったな」


「エヴィ先生の最初の案内だと扉の前まででしたからね」


恐らくその後グロウは一切この場所に近づかなかったのだろう。

あまりにも予想通りすぎて少し笑ってしまいそうになる。


「貴方は少々本を読む習慣を身に着けた方がいいだろうな」


強引に引っ張られたことを少し根に持っているのか、セルスが冷たく睨み据えた。

ただグロウにあまり堪えた様子は見られなかった。


「仕方ねぇだろ、難しい文字読んでると眠くなるんだから。

むしろお前らみてぇなのが普通じゃないんだっての」


「まあまあ。それより本を探しに行こうよ」


「クラウスの言う通りですね。年代ごとにいくつか借りなければいけないから……かなりの冊数になりそうです。皆テーマはもう決めていますか?」


テーマが決まっているのなら借りる本もいくらか絞り込める。


「僕は基本的なところはさらっておきたいから、魔法史の流れを大まかにまとめていくつもり」


「俺は魔法と魔術を発案者メインに調べていくつもりだ。貴女は?」


「そうですか……。私は属性ごとに当時主流となった魔法、魔術の変遷とその背景にします。

皆で内容が被らない方が後々他の人のものを見た時楽しそうです。レポートが完成してエヴィ先生から返却されたら見せ合いっこしましょう?」


「あ、いいねそれ。皆のテーマ、すごく勉強になりそうだし何より面白そうだもん」


「おいお前ら……俺を置いていくなよ」


そこで私達は我に返った。そう言えばグロウがずっと無言だった気がする。


「ごめんなさいグロウ。貴方は何をテーマにするつもりですか?」


「んなモン決まってるか!!」


「しーーっ!グロウ静かに。ここ図書室なんだから」


「あ、悪い…」


慌てたクラウスに注意されてグロウも声のトーンを落とす。

初めて来たグロウは知らないかもしれないが、この場所はかなり騒音にうるさいのだ。一定以上のボリュームで話すと、問答無用で魔人形に追い出される仕組みになっている。しかもその後三日間図書室への入室が制限されてしまうのだ。

課題の提出期限前にうっかりその制裁にあってしまった生徒の悲痛な叫びはドア越しにも図書室内まで響く程で、恐らくその場にいた者達は絶対に図書室内で大声を出さないことを誓っただろう。クラウスが必死でグロウを静かにさせたということは、彼も似たような現場を目撃したのかもしれない。


「まあ今テーマが決まってなくても問題ないと思うよ。僕達三人が決めてる内容だけでそれなりに本の質的には網羅できるはずだし、借りてからこうしようって決めたって全然問題ないしね。

リラがテーマについて聞いてきたのも、借りるのに不備がないようにでしょ?」


「ええ。後々また戻ってくるのも面倒ですし、人手はあるから今何冊借りても問題はないですから。クラウスの言う通り決まってなくても全然問題ありません」


「ならいいけどよ……。ったく、お前らどうやってそんなパパッと決めたんだよ」


「まあ課題を出された時には何となくこうしようかなーって考えてたかな」


「マジか……」


一体何にショックを受けたのかはわからないが、グロウは愕然としていた。

それを黙って見ていたセルスはもう付き合っていられないとばかりにため息を吐く。


「話はもういいか?さっさと本を集めたい」


「あ、そうだね。えーっとじゃあ二手に分かれようか?

魔術史に関する本は三階だから、取りあえずそこから攻めていこう」


エルヴィスト魔術学院の図書館はその蔵書数でも有名だ。そもそも一つの塔の中すべてが図書館として機能していて、全九階層で構成されている。

一階が貸し出し、返却などの受付スペースと、自習や読書のためのテーブル席、本の検索用魔具が用意されている。

二階から六階まではその階ごとに置いてある本が分けられる。

二階は基礎魔術、三階はクラウスの言ったように魔法史、四階に魔術薬学、五階が法陣学で六階が融合魔術と魔物に関する書物がいくつか。

七階以上は下位魔術師以上の位階を持っていないと立ち入ることが出来ない禁書領域になっている。

中でも最上階は高位魔術師でも立ち入れない者がいるのだとか。


「三階の本棚はその本がとりあげている年代ごとに並べられているんですよね。では片方のチームが魔術史初期からで、もう片方が後期から集めていきましょうか」


「そうだね、そうしよっか。

じゃあ僕とグロウは後期からやっていくから、リラはセルスと初期から始めてもらっていいかな?」


「……何故俺が彼女と?」


「またまたセルスってば。誰が一緒でもそういう反応する癖に」


クラウスの返答は的を射ていたらしく、セルスは渋面をつくって黙りこくった。それに笑ったクラウスは話の内容に追いつけずに戸惑っている様子のグロウを連れてさっさと階段をのぼっていく。

と言うかセルスの事よろしくね、と去り際に言ったその意味は、単純に自分ではセルスを制御できないからではないだろうか。セルスは排他的――と言うか、自分は排他的でなくてはならない、そうあるべきだと思っている節がある。だからこそいつどのタイミングで急に傍を離れるかわからない部分がある。私は故意にセルスとの関わりを多く持とうとしていること、何より他の二人より持っている情報量が多いために何となくそのタイミングがわかるし、そういった時どうすればセルスを止められるかわかっているから、セルスと私を組ませたのだろう。

ただそんな私からしたら、セルスがこうして一緒に図書室に来てくれた時点で彼が今更抜けることはないと思っている。そういうところは几帳面と言うか、一度諦めて同意してくれたことは途中で放棄しないのだ、セルスは。だからクラウスの心配はある意味的外れなのだが――私としてはセルスと同じ組になれたことは嬉しいから、その誤りは正さないでおく。恐らくセルスと接していくうちに、彼らもいずれこのことに気が付くだろうから。


「行ってしましましたね」


「そうだな。俺としては心底納得がいかないが……仕方がない。俺達も行こう、リラ。―――何だ、その顔」


「ふふっ。すみません、少し」


心底訳が分からないものを見た、といったようなセルスの表情が更に私の微笑みを深くする。

きっと貴方は全く意識などしていないのだろう。けれど。


「あの日以来、初めて名前を呼ばれたのでつい浮かれてしまいました」


私から逃げるようにさっさと足を進めるセルスに聞こえないように囁く。

そうして先を行こうとする癖に、少ししてこちらの様子を見るように小さく振り返る貴方だから。

―――私は貴方を救いたいと、思うのです。




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