7:皆が一緒にいるのは楽しい
<魔法歴1327年 新春月の八>
【リラ・ヴィルエール】
カラカラとカートを押す音だけがシンとした図書館内に響く。
魔法史は元々認定試験でも配点がかなり少なく、この辺りの本が使われるのは試験前か私達のように課題が出た時しかないため、三階にいるのは恐らく私達四人だけなのだろう。
「静かですね」
「そうだな。俺としては好ましい限りだ」
「セルスは静かな場所が好きですからね」
いつも彼が日中の息抜きの場所として使っているのも、人気のない校舎裏の大木の下だ。あそこは彼以外めったに人が立ち入らない。大抵の人は一人になりたい時は寮の自室を選ぶからだ。
だが彼の場合、他人に与えられた密室はあまり落ち着かないのだろう。
「貴女に一日一度は邪魔をされるが」
「邪魔をしているつもりはないのですが……」
セルスは無言で片眉を上げた。
無言の抵抗と言うか、どうしてそう思うのかと少し呆れてさえいる表情だ。
「セルスがお昼に何も食べなかったり、夕食をすっぽかそうとするので。それを放っておくわけにはいかないでしょう?」
「貴女には関係のないことだと思うが」
「関係あります。皆で食事を楽しみたいですから。
それに私が声をかけに行かなくても、たぶん夕食の時にセルスがいなかったらグロウもクラウスも探しに行くでしょう。そう考えたらそうなる前に私が貴方を連れて行った方が色々と効率的でしょう?」
「………貴女の考えていることがわからない。
感情論を振りかざすかと思えば利害の一致による交渉を持ちかけて、自らの我を通すわりに効率を考える」
そうだろうか。あまり自覚はしていなかった。
「案外簡単なことしか考えていなかったりするんですが。私はただ、貴方と仲良くなりたいだけですよセルス」
「馬鹿と天才は紙一重と言うが、貴女ほどこの言葉が似合う人間はいないな」
「照れてしまいますね」
「褒めていない。――この本棚か」
どうやら話している間に目的の本棚に着いたようだ。三階の端、魔法歴元年についての書物が集められた棚に。
今頃この反対側の端ではグロウとクラウスが同じように色々と話しながら本を集めているのだろうか。
「クラウスのテーマだと、大体百年ごとくらいのペースで纏められている本を順番に借りていけば大丈夫そうですね」
「そうだな。俺と貴女のテーマについては本人がいるんだ、自分でめぼしい物を見つけ出せばいい。問題は彼か……」
「グロウはまだテーマが決まっていませんからね。取り敢えず、それぞれ気になる本があったらそれを持っていく、ということでいいでしょうか?グロウがテーマを決めたときにまた追加で本が必要になったら、もう一度来ればいいですし」
「……それしかないな。そもそも彼の事だ、あまり深い内容まで手に取ることはないだろう」
「それ、グロウに聞いたら怒られるのでは?」
つまりあまり難しいことをグロウはやらないだろう、と言っているようなものなのだから。
「彼の場合、貶されていることにも気づかないだろう」
「………そうかもしれません」
むしろその通り、簡単なやつだけでいいや!と同意さえしそうだ。
的を射ていそうなセルスの言葉に頷きつつ、それからしばらくは本集めに集中した。
セルスはやはり頭がいいから作業の効率がいい。予想していたよりもずった早く初期の本棚を終えることができた。
「これでもカート半分は埋まりますね」
「二十冊くらいか。それより中期の方に行こう。現代に近い程発案された魔術の数も、それに関する魔術書も多くなる。俺達が中期を終わらせた辺りでようやく向こうと合流できるはずだ」
「そうですね。それに私とセルスのテーマの場合、他の階にもいくつか取りに行かないといけない本がありそうです」
クラウスが魔法史の流れをまとめようとしているのに対して、私とセルスはそこに魔術や魔法の内容も取り入れてレポートを書くつもりでいる。その分必要になる本は彼より多くなるだろうし、主に魔法史について書かれているこの階層の本だけではレポートの完成には不十分だ。
二階や五階、六階にも足を運ぶ必要があるだろう。
「さっさと中期も集めるか」
そう言うセルスをつい見つめる。視線に気づいた彼は嫌そうに視線をそらした。
「……何だ」
「セルスと一緒に作業していて、楽しいなと思いまして」
座学は勿論だが、実技授業も初回以来グロウと組んでいるため実は初めてなのではないだろうか。
「作業も何も、ただお互い本を集めているだけだろう」
「それでも進歩です。少なくとも私にとっては」
「嫌味か?」
「え?何がですか?」
「………何でもない。貴女の言葉の裏を読もうとした俺が愚かだった」
疲れたように息を吐いて、いくつか取った本をカートに乗せる。
そのまま本棚の裏側に行くようで、カートの持ち手を手に取った。
「私が押しますよ?」
さっきまで実際そうしていたのだし、話に夢中でこの棚はあまり本を探していなかった。
それでカートまで押されてしまっては申し訳ない。
「いい。もうそれなりに本も溜まったし、貴女に押させたら時間がかかる」
「カートが重くなったから代わってくれるんですか?ふふっ、やっぱりセルスは優しいですね」
「は!?」
セルスのこんなに驚いた顔を見るのは初めてかもしれない。珍しい表情をついまじまじと見つめてしまう。
それが気に障ったのか、彼は急いで顔を背けた。
見つめすぎは厳禁らしい。相手の目を見て話した方が何かと良い、と助言を受けたことがあるのだが、セルスには当てはまらないのだろうか。
「どうして、そんな頓珍漢な考えが浮かぶ…」
「だってそういう事でしょう?」
「違う。俺はさっさとこれを片付けたくて…!」
「セルス、本棚を通り過ぎてしまいますよ?」
カァッと彼の頬が薄く染まる。とても綺麗で、美しい色だと思えた。
「………何だ、その顔は」
「私、どんな顔をしていますか?」
「そんなもの、俺は知らない」
「セルスしか見えないんですが……」
そんなにおかしな表情を浮かべてしまっただろうか。
笑顔を作るのはもう完璧だ。お墨付きをもらっている。
首を傾げていれば、もういい、と少々やけくそのような声音を返された。
「いいからさっさと片付けるぞ!」
その後グロウ達とも合流して他の階層にも向かい、寮に戻る頃には百冊近い本を持つことになった。図書館の職員がカートごと貸し出してくれたためにそれほど大変な作業にはならなかったからよかったものの、個人個人で本を借りていたらどうなっていたことか。必要な本が元々図書館に置いていないのか、私達の中の誰かが借りているのか、などと色々混乱していたに違いない。
戻った時間が昼近くだったためまず昼食を食べた私達は(セルスは飲み物とサラダくらいしか口にしなかったが)食器の消えたテーブルに、持ってきた本をひたすら積み上げその分類に勤しんだ。
「これ、全部読むのか……?」
いくつかの山に分けたとは言え、百冊近い本を全て乗せたのだ。テーブルの上はいっぱいに埋まっている。その景色にグロウは絶望的な表情になった。
「全部じゃなくてもいいんですよ。自分の決めたテーマにそった内容の本だけで問題ありません」
「それに実際一冊の中の数ページしか使わない本もあるだろうしね」
「………」
グロウからの反応は薄い。本の数にやる気をかなりそがれてしまったらしかった。
「そうしていても終わらない。貴方は火属性の魔術を得意としているから、それをテーマにしては?」
「それいいかもね。グロウにぴったりなんじゃない?」
「確かにそうですね。そこから更に火属性の攻撃系魔術だけに絞ればもっと読む量は少なくなりますし、グロウにとってもいい勉強になるのでは?」
セルスを皮切りに、私達が出した助け舟にグロウの表情が晴れていく。
彼はこうして目的を見つけてしまえば後はひたすら頑張れる。そのいい証拠だろう。
「お、おぉ……!ありがとなお前ら!特にセルス!!」
そして満面の笑みで言われたセルスは戸惑いも露わに視線を揺らした。
しかしすぐに我に返ってふん、と顔を背ける。
「別に……貴方の愚痴が煩わしかっただけだ」
「おう!頑張るぜ!」
「………」
「ふふっ、それじゃあ皆テーマも決まったことですし、始めましょうか」
取り敢えずは他の三人と被らない本から読み進めていった方がいいだろう。
クラウスはベーシックに初期の魔法史についての本、グロウは現代の魔術書から読み始めている。クラウスはともかくグロウに関しては現代から遡るのはむしろ難しいのではないかと思うが……過去に遡れば遡る程内容も小難しくなっていくから、むしろ彼としては読解が簡単な方からやっていきたいのかもしれない。
セルスはまず魔法からまとめていくらしい。彼の場合は私と少し内容が被る部分もあるし、どちらも魔法と魔術、両方の分野で調べていかなければならない。
彼が魔法から始めるなら、私は魔術から始めていった方が無難だろう。そう結論づけて、私も一冊の本に手を伸ばした。
そもそも魔術というのはその時々で必要に応じて改良がなされ、魔法をもとに新たに作られてきたものである。
時代の流れ、利便性を求める世の中の声、ある個人の興味。
その中で最も大きな新魔術発明の切っ掛けは、やはり戦争だろう。
昔、まだ世界に魔術議会という組織がなかった時代。
その頃は国が魔術師を独占していて、国同士の争いに魔術師は必須だった。どれだけ多くの魔術師を有しているか、その魔力量がどれだけのものかが国力を決めていたと言ってもいい。勿論その頃から魔力持ちの数は今と変わらないくらいではあったが、魔術師ではない者達が戦うにしても魔具が使用されたし、その魔具を作成するのは当然魔術師だ。どの国も我先にと魔力を持つ者をかき集め、国のために使っていったと伝えられている。
その過程で各国が魔術の開発に力を入れたのは当然のことと言えるだろう。
だから戦争があった時代は、魔術が増える。
そんな荒れた世界を憂いたのは神か、管理者か、それとも魔術師自身か。
様々な仮説が立てられているのみで真実はわからないが、何人かの管理者と魔術師によって魔術議会が設立された。人間の戦争には不干渉を保っていた管理者が表舞台に立ったことで、やはり世界は荒れた。国に使役される魔術師と兵士、そして国の支配から逃れ議会に所属する魔術師が血で血を洗うような争いを繰り広げたのだ。
その時世界人口は争いが始まる前の約半数まで減り、そうした中でようやく現状に気づいた数ヵ国が停戦協定を結んだ。それが今現在国として残っている六大国家で、【光の国】、【森の国】、【海の国】、【砂の国】、【雨の国】、【氷の国】になっている。それ以外の国は六大国家の連合軍と魔術議会によって解体され、現在は国としての形を持たないただの土地として世界地図に存在してるのみ。
その後六大国家が以前と同じ過ちを犯さないための監視役、そして強い力を持つが故、国によって支配され続けた魔術師達の憎しみの歯止め役として、魔術議会は魔力を持たない者の魔術師への不可侵を各国に要求。議会は世界でも独立した存在となり、以前から存在していた魔術学院の運営権限を国から取り上げ、完全に魔術師を国から独立した存在にすることに成功した。勿論そうして多大な権力を持つ分、議会もそれ相応の縛りがあるが――
「リラ、そこにある本は既に読み終えているか?」
いけない、つい集中しすぎてしまったらしい。
一度読んだことがある本だというのに、レポートテーマに関係のない部分まで読み進めてしまった。
「……ええ、大丈夫です。どうぞ。セルスの本も借りてもいいですか?」
「ああ。もう読み終えた」
セルスがこちらの本に手を出してきたということは、魔法に関する内容は既に頭に入れたのだろう。
私も魔術についての内容はこれくらいにして、魔法についての本を読んでおこうか。
もう少し読み進めてもいいが、あまりやるとレポート用紙が足りなくなってしまう。十枚以上、という制限しか告げられていないが、そこまでのやる気を見せようとは思わなかった。
「二人とも読むの早いね」
「俺は必要な部分しか読んでいない」
「私もそうですよ?」
私はそうではない、というような響きに首を傾げる。
恐らくクラウスもキリのいいところまで読んだのだろう。息抜き代わりに会話したいのかもしれない。
「俺が見た限り、貴女はほぼ一冊まるまる読んでいるようだったが?」
「……でもセルスはメモを取ったりしているので、実際読むのにかかる時間は大差ないと思います」
「貴女が俺を褒めようと思っているのか貶そうと思っているのか、判断に苦しむ」
「確かにね。たぶんリラのことだから褒めようと思って言ってるんだろうけど」
セルスには渋い顔をされ、クラウスからは苦笑された。
どういう意味なのか答えを求めてグロウの方を見れば、彼は机に突っ伏して夢の世界に旅立っている。
一体いつから寝てしまっていたのだろう。時計を見るともう三時近くで、始めてからそれなりに時間が経過していることがわかるが…
「リラは一切読んでる本の内容をメモしたりしないけど、忘れないの?」
「たまに忘れてしまいますが、そうしたらまた読み返せばいいだけですから。文字を書くのがあまり好きじゃないんです。できるなら最低限にしたくて」
昔から自分の文字があまり好きではなかった。
何が切っ掛けでそうなのかは分からない。
「それよりグロウが寝ていますが、いつからです?起こした方がいいのでは……?」
「放っておいていいだろう。困るのは彼自身だ」
「セルス、それは流石にかわいそうすぎるよ……」
無表情で言うセルスだからこそ冗談に聞こえないのだろう。
そもそもセルスはほぼ本気で言っている気がする。
「じゃあちょうど三時なので、お茶でも飲飲みませんか?一緒にグロウも起こせば眠気ざましにもなると思います」
「いいね。じゃあ僕、部屋にお菓子あるから持ってくるよ」
「いいんですか?」
「勿論。皆で食べようと思ってこの間の週末に買ってきたものだしね」
なるほど、寮で姿を見ないと思っていたら街におりていたらしい。
一月が三十日なので、学院の授業は基本的に四日間連続で行われ、その後一日休み、というのが繰り返されるような授業形態になっている。
授業のない休息日は寮で休んだり学院内で予習復習をしたり、学院の外に出て島の商業施設をりようしたりして休日を過ごすのがここの学院生の一般的な生活スタイルだ。
「じゃあクラウスの分のお茶を用意しておきますね。何がいいですか?」
「僕はラテ。アイスでお願いしていい?」
「わかりました」
頷いて談話室を出ていくクラウスを見送る。
眠っているグロウは果物のジュースでいいだろうか。
普段ここで私が勉強を見ている時は大抵それを飲んでいるし。
「セルスはいつも通りコーヒーでいいですか?」
「ああ。俺も手伝う。貴女は何にする?」
「では今日はアイスティーにします」
談話室にはいつでも軽食がとれるように、簡易キッチンが設置されている。そこにある棚や保冷庫には様々な種類の飲み物やパン、ジャムなどが用意されているのだ。
私は基本的に部屋よりも談話室にいることが多いから、そうなると必然的に飲み物を取りに来た誰かと鉢合わせる。それによって分かったのはグロウとセルスは基本的に同じものを飲むことが多いこと。果物のジュースとコーヒーだ。グロウは暑がりらしく、年中温暖な気候を保つエルヴィスト島で温かい飲み物を飲むのはあまり好きではないとのこと。セルスは朝はホット、それ以外は基本的にアイスでコーヒーを飲む。
私とクラウスは逆に、その日によって飲むものをよく変えるから飲み物を用意する前の確認は必須だ。
「私がお湯を沸かすので、カップを用意してもらっていいですか?」
「わかった。ミルクも出しておく」
「ありがとうございます」
私の言葉にセルスはちょっと変な顔をした。
首を傾げれば何でもないとでも言うように顔を背ける。
「お待たせー」
「んあ……?」
ちょうどクラウスが戻ってきたタイミングでグロウも目を覚ましたようだった。
寝起きで混乱しているらしいグロウの前にジュースを注いだカップを置く。
「おはようございます、グロウ」
「おぉ……ん?ま、まさか俺、寝てた…?」
「開始三十分程で机に突っ伏していた」
「起こしてくれよ!」
「皆集中していた」
「お前気づいてたんじゃねぇか!」
「自業自得だろう」
「うぐっ…」
「まあまあ二人とも」
お湯が沸いたのでまずはホットでコーヒーと紅茶を注いでいく。クラウスのカップにはそこに冷えたミルクを入れれば大丈夫だろう。私のものとセルスのものは少し濃いめに入れておいて、そこに氷を。最後に三つのカップを水の魔具で冷やせば完了だ。
「はい。ともかく休憩しましょう?」
そう言えばセルスもグロウも黙って席に座ってくれた。
それぞれが読み終っているもう使わない本をどかしてそのスペースにクラウスのお菓子を置いた。
ドーナッツだ。チョコがかかっていたり果物のソースが使われていたり、色々な味があるようで大きさも普通より少し小さめ。夕食前にはピッタリだろう。
「これはどこで売っていたんですか?」
「商店街の端の方にあるお菓子屋さんだよ。
ドーナッツ以外にも色々あって、クッキーとかケーキとかも美味しそうだったなぁ」
「素敵ですね。私も今度行ってみます」
「じゃあ一緒に行かない?
テラス席もあって、そこで商品を食べることもできるみたいなんだ。でもさすがに一人でそこで食べるのは勇気でなくて…」
クラウスが言うに、店でしか食べることができないメニューもあるらしい。
目を輝かせて語るクラウスは甘いものが本当に好きなようだ。
「私でよければ是非」
「ありがと!二人も一緒にどう?」
「俺も行きたい!」
「俺はいい」
「えー、何でだよ。折角だし四人で行こうぜ?」
即座に自分とは正反対の答えを返したセルスにグロウは不満顔だ。
クラウスはある程度予想していたのか苦笑いでこちらを見つめる。何故ここで私を見るのだろうか。
「でもリラも四人の方が楽しいと思うよね?」
……これはつまり、私にセルスを説得しろと?
「――まあ、確かに人数が多い方が楽しそうです。四人皆で違うものを頼んで、分け合ったりもできますし」
その分色々な味を楽しめるだろう。
セルスは苦々しい表情でこちらを見つめた。私がクラウスに味方するのはある意味セルスにとって予想できたことだろうに。
「でも、無理にとは言いませんよ。
セルスにも用事があるでしょうし、もし都合があえば一緒に行きましょう?」
「………意外だな。無理にでも一緒に来させるものかと思っていたが」
「セルス、私を何だと思っているんです?」
さすがにそこまで無理を遠そうとは思わない。
セルスはまだ警戒しているはずだ。この学院の外に出ることを。
エルヴィスト島内ではあるものの、学院の外は外。セルスが外に出てもいいと思ったタイミングで出てくれればいい。
「まあ……その時俺が暇なら、付き合わないこともない」
「本当ですか?」
「……ただ俺はあなた方とは違ってそれほど暇ではない。必ず同行するとは思うな」
「ありがとうございます、セルス」
「………別に。ただの気紛れだ」
それでも嬉しいものは嬉しかった。
クラウス達も喜んでいるだろうと思い視線を向ければ、何故か彼等は感嘆の眼差しを私の方に向けていた。
「……ふたりともどうしたんですか?」
「やっぱすげぇなお前」
「さすがリラ!」
「えっと…?」
一体その反応は何なのだろうか。
困ってセルスに視線を戻せば、その顔がひきつっているように見える。
先程まではそれほど不機嫌ではなかったのに、今はかなり――色々と気に障っているようだった。
「あなた方の考えはよくわかった。先程の返事は取り消す」
「えっ!待って待ってセルス!」
「そうだよ待てって!悪かったから!な?」
「俺は課題を続ける」
「ごめんってば」
「なーセルスー、行こーぜー?
リラも何とか言ってやってくれよ」
慌てて取り縋る二人と、それに知らないふりを続けるセルス。
水を向けられた私は自分でも自覚するくらいの満面の笑みを浮かべた。
「楽しそうで何よりですね」




