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異世界での過ごし方  作者: 太郎
異世界
37/130

35

翌朝、野生の雌鹿亭で朝食を食べているクラン達の元へクリスが足早にやって来た。


「いつまで食事してるのよ、さっさと旅の準備をしなさい。出掛けるわよ」


突然の事に、レナとクランは呆けた表情で声の主を見つめた。




「あ~、もう昼過ぎちゃったじゃない。これじゃあ、途中の村に着くの夜ね」


ルイザの街を出た途端クリスが愚痴ると、あんまりな言い草レナとクランは顔を見合わせる。

なにせ朝食を途中で切り上げさせられた上、「早くしなさい!」とクリスにせっつかれ、急いでレナの間に合わせの剣を買い、食料を買い込み、簡単な胸当てを二人分購入させられたのだ。

とりあえず必要なものを揃えた二人が宿に戻ると、イライラした様子で待っていたクリスに更に急かされ、何とか昼前に旅の準備したのだ。どちらかといえばクリスの方に問題があるのだろう。


「そういえば、クランさんの背中に背負ってるの何?」


クランの背中に見慣れないものが鎮座しているのに気付いたクリスが訪ねる。


「リュートです」


クランはレナの剣を買った時、偶然通りかかった楽器屋に置いてあったリュートを購入していた。


「いや、それは見れば分かるわよ。あなた、わたしの事馬鹿にしてるの?」


困ったような表情をしているクランに、クリスが話を続ける。


「わたしは‘魔曲’を使えるのかって聞いているの」


更に困惑したような表情を浮かべたクランに、レナが助け舟を出す。


「クランの住んでいた所は変った所らしくて、一般的な事でも知らない事があるようなんだ。‘魔曲’の事も多分そうなのだと思う」


渡りに船とばかりにクランが大きく頷く。


「どんなところよそれ? いいわ、レナ説明してあげて」


説明が面倒なのか、クリスはクランの相手をレナに丸投げした。

律儀なレナはクランに‘魔曲’について説明する。


‘魔曲’とは、運と芸術の女神ノウに曲を捧げることによって発動する魔法だ。

通常の魔法のように瞬時に効果が現れることもなく、その効果も決して強力ではないため、習得しようとする冒険者の数は多くなかった。

だが、必要とする魔力が少なく、精神に働きかける魔法もあるため、使い方によっては十分武器になる。


レナから説明を受けたクランは、クリスに保留となっていた問いの返事をする。


「すみません。僕は‘魔曲’は使えません」


「そうでしょうね、知らないものは使えないものね。じゃあ、ただの趣味で持って来たの?」


「そうですね、もっとも‘リュート’を弾いた事は無いですけど」


クランの答えに、クリスは心底呆れたような顔をする。


「これから覚えるの? ご苦労様。でも、邪魔にならないようにしてよ」


そう言うと、クリスは興味を失ったように歩き続けた。




「なんとか間に合ったわね」


今日の目的地である村の、小さな宿屋の食堂でクリス人心地をつく。


「クリス、お前が急かすからこんな強行軍になったんだ。その上、あり得ない事に私達は何処に向かっているかも知らない。いい加減教えろ」


ここまでほとんど休み無しで歩かされたレナが、疲れた表情でクリスに問う。


「もう疲れたの? なまったんじゃないのレナ。そんなんじゃクランさんに先輩面出来ないわよ」


さっそく頼んだエールで喉を潤しながらクリスがレナをからかう。

レナは不機嫌そうにクリスを一瞥すると自分の分のエールを口にする。


「わたし達の目的地はそこ」


遅い夕食を口に運びながら、クリスはクランの剣を指差す。


「……ドワーフの里を目指すのか? でも、閉鎖的な彼らと対話できるあてはあるのか?」


レナの言葉にクリスは食事の手を止めて答える。


「何とかなると思うわよ。だってその剣の柄に彫られた紋章は、‘鉄の王’の紋章だもの」


レナは思わず息を呑む。


「‘鉄の王’…… ヴィルヘルムか!」


二人の間に流れる空気の意味が分からず、クランは落ち着かない様子で夕食をつついていた。



鉄の王ヴィルヘルム。

それはドワーフ達の中で、最も新しい英雄と語り継がれる人物だ。

彼の打つ武器は最高の武器と呼ばれ、彼自身も最高の戦士だった。

だが数年前、ヘリオン帝国の計略に掛かり、彼を慕って集まった同胞達を逃すため、最後まで戦い抜き命を落とすことになる。

それ以降、彼を慕い集まったドワーフ達は、ある者達は人と関わることを避けるために過酷な土地に移り住み、ある者達は王の敵を討つために戦い続け、そしてある者達は、自分達の誇りのため武器を作り続けた。


「現在のドワーフとの関係はこんな感じになるわね」


ピンと来ないクランの為に説明したクリスの言葉を、レナが沈黙で肯定するとクランは息を飲む。


「……なんか、最悪の状況に聞こえるんですけど……」


クランの考えと同意見なのだろう、レナも勝算があるのかとクリスを見る。


「大丈夫よ、こっちには紋章入りの剣があるんだもの。あとは、丸め込めばいいだけだから簡単よ」


余裕のある笑みを浮かべながら口にしたクリスの倫理観の無い言葉に、クランとレナは顔を見合わせる。


「そもそもドワーフ達に会ってどうするんだ?」


「そうね~、あなた達だったら言っても…… 嘘よ、やっぱりヒ ミ ツ」


からかう様にクリスが答えた。



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