第76話 アリシア、最悪のシナリオについてシミュレーションする
「冒険者や貴族の私兵の人たち――まあここでは国に直接雇われていない一般の戦闘系職業に就いている人って括っちゃっても良いかな。スミナルド陛下は、その人たちにはめっぽう受けが良くない、と」
まあ、理由もなんとなくわかるけれどねー。
「聞き込みを行った先が、王立ギルドのロビーに集まっていらっしゃった冒険者の方々でしたので、余計に反発が大きかったのかもしれません……」
ステファンが目を伏せる。
「うん、それはどうしてか一応理由を聞いておこうかな」
「現在、王都に近い領地から順に、私軍の解散命令が出始めています。そのため、一部領地では治安が悪化し、その沈静化のために、王立ギルドに所属の冒険者たちが駆り出されているのだそうです」
ま、予想通りの展開かー。
「解雇された側ではなくて、その対応に当たっている人たちの話ってことね。大変そう……。大きな街には王立ギルドの支部があるところも多いとは思うけれど、まあ、それだけで回るわけないよね。少なくとも各貴族のお屋敷がある街にはそれなりの数の兵隊さんたちがいたはずだからね」
あんまりそういうことに積極的ではなさそうなセドリック=ガーランド伯爵でさえも、私軍を率いていたし。貴族領経営には、最低限の軍事力というのは必要なんでしょうね。
「しっかし、そのギルド所属の冒険者たちも、魔物相手じゃなくて人間相手に駆り出されて、尻ぬぐいばかりさせられていたら、ヘイトも溜まるだろうねぇ」
「はい。不満が出るわ出るわで、聞くに堪えない言葉も多く……」
「それはお疲れさまだよ……」
人の悪意って、たとえ自分に向けられていなくても、ずっと聞いているとしんどくなるよね。あとで良い精神安定ポーションをあげるからねー。報告が終わったらまたお眠りなさいよー。
「ついでにギルド側の新法についての話もしてしまいますが、もちろん、みなさん口をそろえて反対を唱えていらっしゃいましたね……」
「みんながもっとも怒っているのは新法のあたりだろうからね。どう考えても悪法だよねぇ」
「お話を聴いていると、何人か暗殺計画について口にされる方がいらっしゃいました。秘密裏に計画されているというよりは、もうかなりオープンに、という状態なのかもしれません……」
ステファンは、とても気まずそうにスレッドリーの顔色をうかがっていた。
「そうか。それなら、兄上の耳に入っていないとも思えないのだが……」
「そこよねー。十中八九、暗殺計画のことはご存じでしょうね。やっぱりもう暗殺ではなくてクーデター。このままだと、大規模な内乱に発展するかもしれない……」
お互いに軍備増強を行ってまともに正面からぶつかる。
そんな状態になれば王都はたちまち火の海になってしまう……。
「もしかして、それがスミナルド陛下の望みなのかな……」
ホントにやりたかったことってなんだろう。
反乱分子を正面から叩き潰して、直接戦力を削ぐことなの?
「私軍を取り上げられて治安が悪化して苦労している貴族たち。その尻拭いをさせられて困っている王立ギルド所属の冒険者たち。そして仕事を失った元私軍の人たち。さらに暗殺集団などの影の組織が1つになりつつある」
それがスミナルド陛下を信じて疑わない正規軍とぶつかることになる。
どう考えても最悪のシナリオだよね……。
「俺がやらなければいけないことがはっきりとわかったよ」
スレッドリーが深く頷く。
「兄上の真意を聞き出す。そしてそれが国民のためにならないものだとしたら、俺が正さなければいけない」
うん。
1つはそれで良いと思う。
だけど――。
「もし、スミナルド陛下のお考えが、実は国民のためになることだったら……スレッドリーはどうするの?」
わたしたちや、スミナルド陛下に反旗を翻そうとしている面々には見えていない何かがないとも言えない。
もしそれが、納得のいく理由だった場合。
納得してしまった場合……。
スレッドリーはどうするつもりなの?
「もしそれが国民のためになるのだとしたら……」
スレッドリーは、うな垂れたまま黙り込んでしまった。
すべての想いを聴いて、それでもなおスミナルド陛下に義があるとしたら、どうするのが正しいんだろうね。
スミナルド陛下の側に付いて、反乱軍と戦う?
スミナルド陛下の正しさを説明をして回る?
どうしたらみんな納得できるんだろうね。
ストラルド様が崩御された時、国が1つになって哀悼の意を示したよね。
あの時はみんなが国の未来のことを考え、静かに祈ったと思う。
それがどうしてこうなってしまったんだろう。
わたしに……わたしたちにできることって何かないのかな……。




