煙
と思っていたら、バタバタと音が聞こえた。
煙でよく見えていないけれど、どうやら煙の中の人たちが倒れているようだ。
あ!そうだ、一酸化中毒とか……。
「早く、救急車を!」
「大丈夫か!」
大学の職員が、倒れた人に声をかけようと、煙の中に躊躇せずに入っていった。
そして、倒れる。
「いやぁ!」
講義室は騒然となり、教室から逃げ出す者が出始める。
そして職員のように、無謀にも煙の中へと飛び込む人も後を絶たない。
「なんで……」
ゆきちゃんが私の袖をつかんだ。
「とりあえず、外に出よう。何が原因で突然倒れたか分からないけど……」
「何が原因か分からないって、あの煙だよね?」
「煙?何のこと?」
なんのって。あんなにもくもくと……中にいる人の姿がよく見えないくらい立ち込めているというのに……。
見えて、ない?
「武田先輩は……?」
一番初めに煙に包まれた武田先輩はどうなっているの?
ゆきちゃんが首を横に振った。
「分からない。なんで次々に倒れているのか。とにかく、原因が分からないんだから、まずは逃げるよ!」
ゆきちゃんが鞄を肩にかけて私をせかす。
「テロだ!」
「サリンじゃないか、なら水だ、水で流せばいいはず」
「酸欠ってことはないよな、何が原因だ」
講堂の前方から次々と人は後方の出入り口に向かって押し合いへし合い進んでいく。
スマホで撮影する者、救急車を呼ぶために電話をする者もいる。
「あ……スマホ……」
電源を入れロックを外すと、先ほど検索したままの画面が出ている。
「煙……羅……妖怪……」
ゆきちゃんに腕を引っ張られる。
「スマホは後にして、行くよ」
ゆきちゃんに手を引かれながら尋ねる。
「ねぇ、煙が立ち込めていたりしない?」
ゆきちゃんが振り返った。
「何を言ってるの?煙が立ち込めてたらこんなにみんな訳が分からなくておびえたりしないよ。消火器を持ってくるなり、消防車を呼ぶなり、煙を吸い込まないようにハンカチで手を……」
教室を出て、念のため校舎の外まで進んだところでゆきちゃんが立ち止まった。
「消防車……って言ったよね?」
ゆきちゃんが私を見た。
「結梨、何が見えてるの?」
ああ、ゆきちゃんならきっと私の突拍子もない話を信じてくれる。
「煙が見えるの。もしかしたら……」
スマホの画面をゆきちゃんに見せる。
「煙羅……妖怪?妖怪が結梨には見えてるってこと?」
もし、本当に和樹が鑑定魔法が使っていたとすれば……。煙羅で間違いないのだろう。
「分からないけど、武田先輩が煙に包まれて、それから前に添わっている人たちが煙に包まれ……。どんどん煙が広がって行って、前の席に座っている人たちを包んでいったのが見えたの。そのあともどんどん煙は広がって行って」
ゆきちゃんがうんと頷く。
「倒れていった人の順番と同じだけど……私には煙は見えてなかった。見える人にしか見えない煙なんて……そんなの」
ゆきちゃんが私のスマホを凝視する。
 




