ぬいぐるみ
大学の門をくぐる前から、今までとは違う視線を感じる。
女の子たちがこっちをちらちら見てる。
もちろん、和樹を見てるのは分かっている。
かっこよく成長したもんねぇ。そういえば、小学校のころからバレンタインにはチョコもらって帰ってきてたし。
あれ?中学はどうだっけ?
高校の時はバレンタインにチョコもらってきてないよね?なんで?
受験生で浮かれた行事は断ってたって言う可能性はあったとしても、高1のときももらってなかったのでは?
貰ってたよね?家族には見られないように恥ずかしくて隠してた?それとも、断ってた?
断るのはなんで?……もしかして、彼女とかいた?私に彼氏ができないから同情してかくしてた?
くっ。
その可能性が一番高い!
「あれ?あの子、肩に煙……って、そんなわけないか……」
「え?どれ?どこの子?」
私のつぶやきに和樹が大きく反応した。
「ん、ほら、あの赤いスカートをはいた子の肩の上に、煙みたいな塊が見えるでしょ?なんだろうね、あれ。さっき、事故に遭いそうになった人の足元に煙が見えたからそう見えるだけだよね。ぬいぐるみ?」
ぬいぐるみを肩に乗せて歩いているのも変わってるけど、いないことはない。ぬいぐるみみたいな鞄を持っている子もいるし。大きなぬいぐるみを鞄にぶら下げている子もいるし。
そうそう、今だと新入生勧誘のために、頭に爬虫類のぬいぐるみの帽子かぶって歩いてるって言ってたな、ゆきちゃん。
ワニの頭だとか。
「【鑑定】」
和樹がポケットに手を突っ込んで、まるで鑑定魔法を使うかのようにかっこよくつぶやいた。
っていうか、本当に魔法を使ったかもしれないんだった。
だけど……ふふ。こんなことに鑑定魔法を使うなんて、平和だよね、日本って。
「ふふ、和樹、何だった?ぬいぐるみ?」
「煙羅……?」
「何?えんら?」
「いや、なんでもない。それより、他にも見えるの?煙みたいなやつ」
ん?
きょろきょろしてみるけど、他に同じような煙みたいに見えるぬいぐるみを持った人の姿はない。
「ううん。流行ってるわけじゃないのかな」
「あんなのが流行ったら困る」
和樹が嫌そうな顔をした。
まぁ、遠目だったけどそんなに可愛い感じはしなかった。正面から見たらかわいいのかな?
「じゃあ、授業後ね」
和樹と手を振って別れると、サークルの看板を持った人たちが勧誘のために和樹に声をかけている。主に女子学生が。こりゃ大変だなぁ。
っていうか、偽装彼女になっても、かまわずに突撃してくる子とかいたりするんじゃないかな……。なんていうの、私になら勝てる!みたいな子とか。
うう。ごめん。もっと極上の女なら「あんなに素敵な人なら私が勝てるわけないわ」とか蹴散らせたかもしれないのに……。




