偽装彼女
合格おめでとうみたいなこと言われたってことかな?ありがとうってことは。
……会ったりしてないけど、メッセージアプリでやり取りはしてたのかな?だって、合格したこととか話をしてないよね?でもご無沙汰って言ってるし。分からない。
それにしても、大学に通いだしてからは、結梨呼びだったのが、武田先輩との電話では「姉」だって。うん。やっぱり家族って感じがしていいよね。ほっとする。
……そんな風に考えるのは、血がつながっていないからなのかな……。
血がつながっていれば、どんな呼ばれ方しても、家族っぽいとか家族っぽくないとか思わなくて済むのかな……。
今更家族じゃないなんて言われたら……どんな気持ちになるんだろう。
私は、ずっと和樹と家族でいたい。たとえ別々に暮らすことになっても、父さんと母さんが離婚してしまっても……。和樹とのつながりを失いたくないよ……。
ふぅ。たかが呼び方一つで考えすぎかな。むしろ和樹は、なんて読んだって家族だって思っているから、姉さんって言わないんだろうし。
フルフルと小さく頭を振る。
今のうちに、コーヒーでも入れてくるか。
立ち上がって部屋を出る。
コーヒー2杯。両方ともミルクと砂糖入り。和樹はある時期、ブラックコーヒーを無理して飲もうとしてたけどね。勉強するには頭を使うのに当分はいるからと言い聞かせ、胃が荒れるからミルクも入れろと言い聞かせて、ブラックコーヒーを飲むのを阻止した。
だって、美味しいと感じないものを無理して飲んでるのを見るの辛いんだよ?
和樹には美味しいって顔で飲んで欲しいもん。
自分の部屋だけど、ノックしてから入る。
積もる話もあって、まだ電話しているかと思ったら和樹はすでにスマホを机に置いていた。
「コーヒー飲むよね」
声をかけると、すぐに私の手からカップを2つともとって机の上に置いた。
「結梨、頼む!彼女になってくれ!」
ぶぶーっ。って。コーヒー飲んでたらめちゃくちゃ噴き出すこと言い出した!
いや、それを見越して、和樹は私の分のカップも取り上げて机の上に置いたのか!
「ちょっと、まだその話?っていうか、いったい武田先輩となんの相談してたのよっ!」
和樹は、自分のカップを持ち上げると、コーヒーをごくりと飲む。
「武田先輩、今の会社で女性トラブル回避するために『彼女がいる』って言ってるんだってさ」
「武田先輩彼女できたんだ。きっと素敵な人だろうなぁ……」
「いや。彼女はいないって」
ん?
「だから、彼女はいないけど『彼女がいる』って言ってるらしい」
あ、そういうことか。
ぽんっと手を打つ。
「和樹は私に偽装彼女になってほしいってことね?女よけのために」
なぁんだ。そういうことか。
カップに手をのばしてフーフー息を吹きかける。私は猫舌なんだよなぁ。和樹は平気みたいだけど。
血がつながってないから似てないのかなと思うと少し寂しい気持ちになる。まだ、なんだか引きずってる。
 




