偽装彼氏
「ちょっ、同情するにしても、その提案はないよっ!」
和樹がちょっと傷ついた顔をして立ち上がった。
顔を手で覆っている。
「なんだよ。ないって……。モテるって言っただろ……」
「だから、余計でしょっ!彼氏ができない平凡な容姿の姉が、思い余ってモテる弟に偽装彼氏をさせているなんて、痛すぎて、絶対無理だし、ないでしょうっ!」
和樹が顔を覆っていた手をはずして、ちょっとふらつきながら椅子に座る。
「もう、突っ込むところが多すぎ」
え?
「どこに突っ込むところが?」
首をかしげると、机に肘をついて顔を載せた和樹が私を見る。
「まず、結梨は平凡じゃない。飛び切りかわいい」
ぶっ。
私のブラコンは自覚があるけど……もしかして和樹は無自覚ブラコンか?
「どの目がそう見えてるの?そんなに可愛ければ、とっくに彼氏の一人や二人できてますっ!」
「排除した虫は10や20じゃないけどなぁ」
ぼそりと和樹が何かつぶやいた。
「え?何?とにかく、偽装彼氏を弟にさせるなんて、偽装彼氏を作る中でも痛すぎるでしょ?頼める男友達の一人もいないってさらにダメな感じがするじゃない?偽装彼氏にするなら、せめて、ほら、プライベートアクター?なんか結婚式に親族のフリしてもらうとか、そういうのあるよね。あれに頼むよっ!」
いくらくらいかかるのかなぁ。頑張ってお金貯めないと……って、ちがーう!
頑張る方向性が違う。彼氏を見つけるよ!見つからなくても、別に偽装してまで彼氏いますって主張したりしないよ!
「偽装彼氏ねぇ……」
深いため息をついて、本棚に並ぶ小説をちらりと見て、もう一度小さなため息をついた。
「異世界物の次は、偽装結婚、偽装婚約ブーム到来中?」
あっ!
「べ、別に、偽装を頼んだ人と恋に落ちるとか夢見てるほど馬鹿じゃないからね?た、単にその……」
和樹がにやりと笑う。
「ふぅーん。偽装から始まる恋、かぁ」
完全に馬鹿にしてる?
「本当に違うからね?最近は、えっと、ほら、大学に顔を出す日も少なくなってきて異世界同好会で話をする機会も減ってるし……」
というのは半分嘘。
和樹が本当に魔法が使えちゃうようになったから、うっかり口を滑らせないようにあえてあまり話をしないように距離を置いている。
「異世界同好会には全然行ってないの?入ろうかと思ってたけど、結梨がいないなら辞めるか」
「え?和樹は異世界同好会に入るつもりだったの?そういえば、武田先輩と意気投合してたもんね」
あのころ、私は和樹は中二病だと思ってたけど、和樹にとっては本当に魔法が使えたときの記憶があったんだよね。それでも大丈夫だったなら、別に大丈夫なのかな?
あれ?もしかして、私がもし口を滑らせたとしても、誰も本気で信じない?
むしろ異世界同好会のメンバーであれば「架空の話」として「痛い人間」に見られずに相手をしてもらえるのでは?かつての和樹の話を面白いと言っていた武田先輩と同じように。




