武田先輩のブイサイン
もちろん、どれも子供に人気のある話ばかりだ。だから不思議に思わなかったけれど……。
時々デジャブを感じるんだ。魔法だったり、不思議な生き物だったり。それくらい近いところに異世界があるような感覚がある。おとぎ話じゃなくて……。
「だからね、和樹がいつか姉ちゃんもいい大人なんだからいつまで異世界なんて馬鹿なこと言ってるんだって言われるんじゃないかって思って。一緒にいつまでも話ができたらうれしいのになぁって……」
和樹がふっと笑う。
「姉ちゃん、まかせとけよ。俺、一生をかけて、少しずつ姉ちゃんに異世界の……前世の話聞かせてやるから」
おふっ。
和樹の手が頭の上に乗った。
うごご、さっきのお返しにわしゃわしゃされるっ!
せっかくさっきとかしたばかりなのに!と身構えたら、和樹の手が「ポンポン」と頭の上ではねてすぐになくなった。
あ、れ?
やり返さないの?
首をかしげて和樹を見る。
「で、そいつのこと、姉ちゃん好きなの?」
「そいつ?」
和樹が不機嫌な声を出す。
「異世界部の先輩とかいうやつだよっ!イケメンなんだろっ!」
「武田先輩のこと?別に好きとか嫌いとかじゃないよ!あ、どちらかというと好きかなぁ」
「はぁ?」
「だって、和樹のことほめてたもん」
「ばっ、ばっかじゃねーの!」
和樹が顔を赤くしてそっぽを向く。
褒められて照れるなんてかわいい奴め。
「で、その武田先輩が、魔素の代わりに静電気が使えるんじゃないかって。体にたまった静電気を操れるようになれば……」
「静電気ねぇ……。パチッっていうやつを意識的に起こせるようになれば、確かに電撃魔法とは言わないけれど、多少はそれっぽい感じになるか?」
「電気で、火もつけられるでしょう?それに雷は光るし!あと、先輩が言うには水も静電気で動かすことができそうだって!」
和樹が何やら考え込み始めた。
「でね、和樹」
あ、集中しすぎて、もう私の声が届いてないな。
この周りのことが見えなくなるくらいの集中力があるから、和樹は勉強もよくできるんだろうなぁ……。
いくら、コツをつかんでも、これだけ集中できなきゃ、私に東大は無理だったろうな……。
まだ、底に少しだけコーヒーの残っているカップを持って部屋を後にする。
あっという間に夏休みになった。
「あ、武田先輩!お久しぶりです!」
夏休みの間、異世界同好会の活動場所は学生の少ない食堂の片隅に移る。
何のことはない、プレハブの部室は、クーラーをフルパワーにしても熱いからだ。
暑いを通り越して熱い。
で、夏休みも同好会の集まりがあるのは、8月のお盆にある同人誌即売会に向けての準備を進めるためだ。
なんと、異世界同好会は毎年夏コミ冬コミにサークル参加しているらしい!スペースが取れればだけれど。
「異世界系作品リスト」だの「異世界における魔法の種類分析」だのをまとめた同人誌を売るのだ。
今年は、魔石についての考察という本を作るらしい。
異世界小説に出てくる魔石、魔法石、それからモンスターから出てくる核など何かしら力を持った石というか塊について調べ上げてまとめるのだ。
異世界同好会のメンバーは1年生が女子3名男子4名。2年生が女子4名男子4名。3年生は女子は痛ヒロインさん含め3名男子6名。4年生はもうほとんど参加しないけれど、女子1名男子は武田先輩をはじめ5名。
合計30名。集まりには10~15人くらいの出席率だ。バイトのシフトなどで予定が合わない人とかもいるからね。
「ブイッ!」
武田先輩がブイサインをしてテーブルに着く。
「内定出た!」
ガタッと、腰を浮かす異世界同好会メンバー。
「おめでとうございます!」
一斉に立ち上がり拍手っ!
「ありがとう!これで、同人誌づくりに心置きなく参加できる!」
にこやかな顔の武田先輩。
あ、そうだ!




