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Drifter  作者: へるぷみ~
竜の谷
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王の鱗



 動きはあまりに速かった。


 「ハッハァッ!」

 「くっぁ!!」


 クロアのいた地面が一瞬にして陥没し、目の前に現れていたクロアの一撃を椋は奇跡的にも構えていた武器で受け止める。それでも、正面からの一撃を受け止めきるということは出来ず、彼女の身体は吹き飛ばされるというまではいかなくとも、地面を大きく削りながら後退させられた。


 「余所見すんなよッ?」

 「っ、きゃぁ!」


 椋に一撃を与えてからの間はほとんど存在しないままに、次は少し離れていた椛へと肉迫。こちらも単調な一撃ではあろうとも常人には捉え切れないほどの速度。椋ほどの戦闘能力の無い椛にとって受け止めるなどということは出来るわけも無く、どうにかして出来たのは風による壁を創り出すという対処。それでも、クロアから放たれた一撃は椛の想定以上であり、彼女の身体は大きく吹き飛ばされる。


 「どうしたどうした、そんなもんか?」

 「いたた……」

 「普通に反則でしょ、これ……」


 体勢を立て直す椛と椋。

 椋は殴られた際の一撃で少し手が痺れ、引き退かされた際の熱を靴が保っていたが重症ではない。また椛も、大きく宙を舞いはしたが直接的な一撃は受けておらず、地面に着地する際も風を緩衝材にすることで事無きを得た。

 それでも、今の一瞬の間で身を以って知らされた。

 圧倒的であると。

 人間という、手加減をしているようにしか見えない姿でありながら、手加減を加えているとしか思えない一撃。それを受け止めるという行為でさえ、二人には命懸けであった。


 「椋、『視えた』?」

 「辛うじて、かな」

 「『辛うじて』、ね」


 椛の表情は苦虫を噛んだようになっていた。

 そもそも、こと戦闘という行為に関しては椋が最も優れているのだ。純粋な肉体面でも、観察するという点に関しても。その椋が、『辛うじて』という言葉を使ったということは即ち、――椛の見解上は――クロアは人間の状態であっても椋以上に強いということを示していた。

 だから、椛は即座に思考する。彼女の動体視力ではクロアの動きは一寸も見切れなかった。『そこにいる』という想定をしていたから、椛はクロアの一撃が放たれるよりも早く風の壁を張れたのだから。だから、椛が行うのは現在に対する対処ではない。未来に対する大まかな対処と対策だ。クロアに対する動きを少しでも読み間違えれば、一瞬にして全ての対策が泡沫と化し、それが致命的な結果を生むという危険を孕んでいたとしてもやらなければいけない。


 「オレ様が動いていきなり終わりとかつまらない結果はやめてくれよ?」

 「大丈夫よ、つまらない結果はあなたが負けることで作り出されるから」

 「ハッハッハッ! そいつは確かに!

  ……んじゃま、つまらない結果を作られないようにするかねぇ!!」


 クロアの言葉に対して、椛は挑発する。クロアはその言葉に笑いを起こし、一拍の間を置いて跳びだした。狙いは挑発をした張本人である椛。

 クロアのいた地面が抉れ土塊が舞い上がる瞬間には、既に椛の前にクロアはいる。

 だが、この状況は椛は望んで生み出したもの。

 安い挑発でも必ずノってくるであろうクロアの余裕が生み出す行動を、椛は誘導する。


 「だらぁ!」


 次に行われるのは先ほどと同じ、椛の目には捉えきれない速く重い一撃。


 「これ、ならっ!」


 故に、次に起こすべき行動は、風の壁を生み出して一撃を防ぐのが先ほどの再現であっても確実に身を守ることの出来る方法だ。しかし、椛はそれを行わなかった。


 「うおぉ!?」


 その結果もたらされたのは、体勢を崩したクロアの姿であった。そして一撃を見舞われるであろう椛の姿は、クロアの真上にあった。

 椛が行ったことは極めて簡単な原理でありながら、極めて難しいものだった。

 あの瞬間、椛は集めていた空気を圧縮し壁にするのではなく、圧縮することなく自身の全身を包むようにした。次に行ったのは、踏み込むと同時に放たれるであろう一撃を見越して小さく後ろに跳躍。と同時にクロアが眼前に出現し、直線状の一撃が放たれる。

 だから椛は、この鋭い一撃に、自分の身を『沿わせ』、『風に乗る』ことで回避をすることにしたのだ。

 原理は簡単。宙に浮かぶ花びらを無理に掴むことが出来ないように、相手の起こした風に流されることで自身を花びらに見立て、回避したのだ。

 言われてしまえば簡単だ。だが、そんなことを考えたとして、実戦という―それも失敗すれば死もかくやという――場面で行うなど正気で行うなど土台不可能なことだ。

 それでも、椛にとってこの場面でこれを成功させなければクロアとの喧嘩に打ち勝つことなど不可能であり、出来て当たり前なのだ。だからこそ、この場面は椛にとって想定の範囲。そして今この時、クロアは完全に無防備を晒している。故に、椛はその名を叫ぶ。


 「椋! 悼也!」

 「うんっ!」

 「ふッ!」


 椋がその声に応え、クロアの腹部に当たる箇所に向けて棒を突き出す。そして悼也は、椋の影から姿を現すと両手に握った撥を唯一クロアの露出している箇所である延髄へ向けて、振り下ろす。

 隙を突いた上に完成された連携。これを避けたものはいない。故に、二つの攻撃もまた確かに、手ごたえを感じた。

 が、


 「それじゃあ駄目だな」

 「嘘ッ!?」

 「ッ!?」


 椋の突き出した棒はクロアの纏っている布に吸い込まれると同時に、内側から破裂するようにして破砕。悼也の二本の撥にあたっては影を纏わせていたにもかかわらず、クロアのうなじに接触すると同時に、撥がへし折れた。

 椋は木製と金属製、悼也に関しては一から十まで完全な鉄製だった。それが、いとも容易く壊れた。

 もとより椋の棒も悼也の撥も先ほどのクロアの一撃を受け止めた際には大きく負荷が掛かり耐久力は大幅に減ってはいた。それでも、二人の中でこの喧嘩が終わるまで武器は保つだろうと予想していた。しかし、現実はそうではなく、二人の得物の破損という結果であった。


 「人間の造った武器を使うというのが間違ってるんだ。オレ様の、『竜鱗』を通すにはな」


 落ち着いた声でクロアは言う。

 そして、どうして椋と悼也の得物が壊れたのかという原因が明らかになり、悼也がどんなに攻撃をしてもクロアに効かなかった理由が判明する。

 唯一顔以外で見えているクロアの首元が、褐色の肌ではなく黒い光沢を放つ鱗によって、覆われている。

 竜王の持つ最強の『鱗』。それこそが、クロアの余裕の一端であった。



強すぎはしませんかねぇ……。いや、私が考えたのが原因なんですが。


とりあえずは、一気に区切りをつけるよりは多少話が伸びても細かく更新してみようと思います。(まぁそんなことをすればこの戦闘もあと二~三話つdゲフンゲフン

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