北の国フェルラ
遅ればせながら、新年最初の更新です。
悼也が獣人たちに捕まったということなど露知らず、椛と椋の二人は無事フェルラのギルドまでたどり着いていた。
街に入る際も身分証を見せればあっさりと通され、拠点となる宿を間借りした後に休むことは無くギルドへと向かった。
「ここが北の国のギルドね」
「はいいらっしゃーい!」
「きゃぁ!?」
「っ!」
ギルド前の門。
そこを潜り抜けようとした瞬間、門の影から一人の女性が飛びだしてきた。
飛びだしてきた女性に対して椋は椛を庇うようにして間に身を入れ、さらに右の掌底を繰り出す。
しかし、女性は椋の攻撃などわかっていたかのように左の手で掴む。
「あっぶないわねー」
「誰?」
「え、あたし? そうねぇー、あたしは……あたしはだれしょう?」
警戒する椋の視線に対し、女性はおどけた口調で話す。
女性が椋の手を放すと、椋も警戒を解くことはせずに手を戻した。
「……フェルラのギルドマスター、リーデロッズさんですか?」
「お、あったりー! でも、その名前呼びにくいし、あたしのことはリズって呼んでくれればいいわよ」
「わかりました、リズさん」
リーデロッズの問いかけに答えたのは、落ち着きを取り戻した椛だった。
最初こそ初対面であるからわからなかったが、先ほどの彼女の言動とギルドにいるということ、そして何より椛の知っている限りリーデロッズの纏っている雰囲気の似ている人間を椛は数度確認している。
また、ピメンタを出立する前にビスタートから教えてもらった情報と照らし合わせてみれば合致したからでもある。
「それで一応あたしもあいつから話は聞いてるし、名前も知ってるけど確認のために聞いていいかしら?」
「椛です」
「椋、です」
「よしよし、あってるわねーモミジちゃんにリョウちゃん。それじゃ、改めまして……あたしはこのフェルラのギルドマスターである、リーゼロッズよ。さっきも言った通り、リズって呼んでね。よろしく、二人とも」
こうして、フェルラの国でのギルドマスターとの邂逅を果たした二人であった。
「ふーん、じゃあ今いないトウヤ君は、半人半馬の人?を追っているってわけね」
「そうです」
その後ギルドの中に入り、本来は一緒にいるはずであった悼也がいない理由を椛は話した。
リズは、その話の腰を折ることはせずにすべて聞き終えると、思い当たる節がある顔で切り出す。
「そっかー、確かにここら辺だと時折変わった人のような何かを見かけるって噂が流れているわ。でも確固たる証拠がないというか、なんていうか、そういうのを見かける人が限られてるのよ」
「どういうことですか?」
「うん、まぁ子供たちよ。それもまだ綺麗な事しか知らない子供たち。ほら、ココの辺りって基本的に木々が多いでしょ? だからね、時々迷子が出るのよ。それで、無事に戻ってこれた子供たちが時折言うのよ、獣の人が送ってくれたって。子供だし、獣を人って数えてもおかしくはないじゃない? だから、大人たちもあまり気にしてないのよね。だから、噂程度でとどまってるってわけ。」
「はぁ……」
リズはあっけらかんと話すものだが、件が真実であれば普通は探索に身を乗り出すはずだが、どうも彼女もそうそう動けるようではないらしい。
「その気持ちはわかるわ。納得しずらいわよねぇ。といっても、フェルラは北をすぐ行ってしまえば未開拓領域なのよ。だから、そこに満足に進めるメンバーも少なくて……かといってあたしがでると厄介だから、困ってるの。でも……」
「私たちが来たのでそれも解決したと?」
「ごめいとー! それにもうその半人半馬を見つけて追ってるっていうじゃない? 大助かりよ大助かり! それにあなた達のっぴきならない事情があるからこーんなに若いのに危ない土地目指してるんでしょ。まかせなさい、そのための支援はしっかりとしてあげるからっ!」
「ありがとう、ございます?」
「そこははっきりお礼を述べなさいな。受け取れる好意はしっかりと受け取んないと、逆に良くないからね。……それじゃ、寝床に案内してあげる。一応これでも私のギルドは大きいのよ、だから客人泊めるのぐらいなんてことないから、そこを拠点にしなさい」
そういうなりリズは立ち上がり、扉を開けて歩き出す。
椛も椋も話の流れにはいまいち乗り切ることは出来なかったわけだが、歓迎はされているようなので、とりあえずリズの後を追うのだった。
「はーい、じゃあこの部屋を二人で使って。それと、トイレはこの部屋を出て左真っ直ぐの突き当り。お風呂に関しては、ここはお風呂屋があるのよ。そこを利用してね。大体のことは受付に聞けば教えてくれるわ」
「わかりました」
「それじゃああたしはこれで、ばいばい!」
部屋に着くなり最低限の説明どころか後半を知らぬ間に受付の方に押し付け、リズは部屋を出ていった。
「ふぅ」
「なんとか、着いたね~」
扉が閉められてしばらくして、ようやく二人は息を吐く。
別にリズの目の前で気を張っていたというわけではないが、ある意味では話の勢いに巻き込まれないように注意したりするために神経を削った。
とりあえず二人は荷解きを行うことにし、必要であると思われる道具をいくつか身に着ける。
「とりあえずどうするの~?」
「そうね、あまりゆっくりはしていられないけど、この町を見て回ることにしましょう。それで、道具を揃えるのも大事かもね」
「は~い!」
すぐに悼也を追いかけたいという気持ちが無きもあらずであったが、今は悼也を信じることにして、二人は必要なものを求めて街へと繰り出すのだった。




