それは特殊な交換殺人
クソみたいなトリックで申し訳ない!!!!!
呆然、唖然。
つい一分前、小鳥遊姉妹が共犯で二人を殺したと推理した厚木さえ驚き固まっている。
しかしそれも当然。ここまでの推理の流れを完全に無視した、唐突な犯人の指摘。混乱しない方が無理というものだ。
唯一(伊月もだけど)犯人と指摘されるのが彼女らであることを知っていた者として、ここはうまく話を繋げる必要性がある。そう使命感にかられ、私はおずおずと口を開いた。
「鈴が峰さん、ちょっといきなり過ぎませんか? さっきの話からだと、突発的な犯行だと考えても計画的な犯行だと考えても、私たちの中に犯人はいないって結論になってた気がしますけど。どうして突然小鳥遊姉妹の名前が?」
「そ、そうだよ! どうして私たちが! まさか本当に厚木と同じ推理をしたわけじゃないよね!?」
厚木に犯人扱いされたときは怒りが前面に出ていたが、今は怯えの色が濃く出ている。彼女自身は鈴が峰の噂をあまり信じていないようだったが、これまでの発言からある程度推理力については認めていたのだろう。
そんな探偵からの告発。胸中穏やかでいられなくなるのは無理からぬことに思えた。
「うん。流石に同じ推理はしてないかな。深倉さんが見落としたって言うのは普通になさそうだと思うし、そもそもそんなリスクを冒してまで三階に戻る必要性も感じられないからね」
「だ、だったらどうして!?」
「さっきの話の続きになるんだけど、犯行の機会や方法を考えると、突発的だろうが計画的だろうがこの中の誰にも殺人は無理に思えたんだよね。だから、少し考え方を変えてみたんだよ。事件を起こした犯人が最も望む展開は何か、ってね。そしたら二人が犯人である可能性が浮かんできたんだ」
「だからどうして――」
「アリバイだよ。小鳥遊さん達、それと千尋君だけが、どちらの殺人事件でも完璧なアリバイを持ってたんだ」
「な……」
至極あっさりと告げられた疑われている理由に、新菜ちゃんは口を半開きにし固まった。
そう、アリバイ。私はミステリなどあまり詳しくはないが、それでもトリックを弄する犯人の目的が、主にアリバイ作りであることは知っている。というか普通に考えたらそれ以外にトリックを使う理由なんて無いはずだ。犯人が狂人でもない限り。
ただこの館においては、常に私たち以外の第三者が犯人である可能性がちらついていた。そのためアリバイがあることは即ち私たち以外の何者かが犯人である、という思考に誘導されやすく、こうした考えに至りづらかった。
ただ勿論、アリバイがあることが犯人の証明になるはずもなく――
「ちょっと待ってよ。言いたいことは分からなくないけど、犯行が行えないからこそのアリバイでしょ。いくら何でもその論理は強引過ぎると思うけど」
黒瀬がすぐに疑問の声を上げ、
「そうです。それにどんなトリックを使えば小鳥遊姉妹が日車君と白杉さんを殺せたと? 彼女たちが犯行時刻に現場にいなかったのは疑いようもないことのはずだわ」
さらに渡澄さんも否定的な意見を出した。
場違いにも、私は心が少し穏やかになるのを感じた。ついさっきまで自身を殺人犯と疑ってきていた相手に対しても、公平にかばう渡澄さんの姿勢。嘘や隠し事があったとはいえ、この館で見せてきた彼女の優しさが全て偽りのものなわけではなかったと、それが分かったから。
なら、私も無意味に悩む必要などない。
「この場に皆を呼び出したってことは、当然小鳥遊姉妹だったら可能なアリバイ作りのトリックを、何か思いついたってことですよね。勿体ぶらず教えてください」
これからの推理が語りやすくなるよう、私も素知らぬ顔で説明を促す。
一見すると探偵側が窮地に追いやられたように見えなくもないが、それは違う。こうして私たち全員が鈴が峰の発言を疑う姿勢でいることは、この後の展開に必ずプラスに作用する。
多数決で言うなら、小鳥遊姉妹はまだ白いまま。そして次に飛び出す鈴が峰の言葉を聞いても、すぐにそれを信じる人は誰もいないと断言できる。だとすれば、彼女たちが決死の行動に移る時間稼ぎができる。
とはいえそれも百パーセントではない。小鳥遊姉妹の反応次第ではすぐに鈴が峰から合図が来るかもしれない。
私はいつでも動けるよう神経を研ぎ澄ませ、鈴が峰の言葉を待った。
「うん。小鳥遊姉妹がアリバイ作りも兼ねて殺人を行ったと考えたら、一つ面白いトリックが思い浮かんだんだ。それは、彼女たちだからできるちょっと特殊な交換殺人。小鳥遊四姉妹による、入れ替わりを用いた無差別殺人だ」
言い訳は完結後の後書きにとっておく