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迷い子の館の殺人  作者: 天草一樹
殺人犯と館の秘密

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厚木の推理……え?

「うーんと、黒瀬君が考えるような僕たち一般人じゃ想像もできない狂人が犯人の可能性は残るけど、一旦それは無視して本当に僕たちの中に犯人がいないか考えてみようか。そこで推理を止めちゃうのは勿体ないからね」


 ぶすっとした黒瀬に気遣うよう視線を投げかけたのも一瞬のこと。すぐにあっけらかんとした顔に戻り、鈴が峰は推理を再開した。


「さて、少し話は戻るんだけど、犯行が突発的なものだったのか、計画的なものだったのかについて。今の黒瀬君との会話的に、計画的犯行である可能性を否定しちゃった風になってるかもしれないけど、一応両方考えてみたんだ。犯行が突発的なものであった場合と、計画的なものであった場合それぞれね。

 まず突発的な犯行だったとする考えだけど、こっちはもう言う必要性はないかな。さっきの伊緒さんの推理で分かった通り、突発的だとするには犯行方法や逃走時間的にかなり無理があるんだよ。特にさっきの推理では短時間に相手を殺すためスタンガンの使用を想定してたけど、人によっては当然持ってないだろうからね。やっぱり突発的に短時間で殺すって言うのは厳しいって結論付けられる」


 皆の反応を見るために、鈴が峰は一度言葉を切る。

 スタンガンの所持に関してはもしかしたら隠している人がいるかもしれない。その点に関して誰かから突っ込みが入るかと思われたが、特に声は上がらなかった。おそらくスタンガン以前の問題として、突発的な犯行ではないと考えているからだろう。

 誰からも疑問や否定の声は上がらなかったため、鈴が峰は続きを話し出した。


「次に計画的なものだったとする考えだけど、やっぱりこっちも厳しいんだよね。計画的に殺害したとするなら犯人は被害者をうまく殺害現場まで誘導したことになる。だけど、少なくとも日車君にそんな様子は見られなかった。それに深倉さんの話では、白杉さんも自主的に天使の庭に行ったようで、誰かに誘導されたってことはなさそうだったらしいしね。

 となるとついさっき黒瀬君が考えたように、犯人は天使の庭に来た人を殺す計画を立てていた。もしくは被害者となった二人を元から殺す気でおり、彼らが一人になるタイミングを見計らっていた可能性が残る。でも、これはこれで問題大ありなんだよね」

「……この場の全員に、少なくとも一方の事件でアリバイがあるからですね」


 これまで会話にほとんど参加してこなかった渡澄さんが、ここにきて口を開いた。

 既に知られたくなかった秘密(私に対するストーカー行為)はばらされてしまい、その一方で犯人であることが半ば否定されてしまった。こうなってしまっては、もう黙っていても意味はないと腹をくくった――というより開き直ったのかもしれない。心なしか、顔色もこれまでよりは良くなっている気がするし。

 まあ私としてはどう接していいか分からなくて困っている最中だけれど、取り敢えずは元気になってよかったと思っておこう。

 そんな私の葛藤は当然置いてけぼりに、鈴が峰は大きく頷き彼女の言葉を肯定した。


「そうそう、まさにその通り。殺す場所や相手を絞っていたとしても、そのタイミングがこなければ当然殺すなんてできはしない。だけどこの場にいる全員、彼らが殺された前後の時間にしっかりとしたアリバイを持っている。つまり二人を狙ってこっそり追いかけて、それから殺人をするだけのまとまった時間はないってことになるんだよ」

「ふん。そんなこといまさら言われずとも全員分かっていることだろう。アリバイがあるから私たちの中に犯人はいない。さっきからそっちの少年が言い続けていることだ」


 大げさなため息とともに、厚木がやれやれと首を振る。

 いちいち言うことと動作が腹立たしい。私から殺意のこもった視線が飛ぶが、厚木の話はまだ終わっていなかった。


「こんなくだらない推理合戦に参加する気などなかったのだがね。ただただ時間を浪費するだけの推理を聞かされ続けるのも飽きてきたから私からも言わせてもらおう。要は共犯なのだろう? アリバイがある以上単独での殺人は無理なんだ。これ以外に答えはあるまい」

「共犯って、誰と誰のことを想定してるのよ」


 苛立ちからきつめの口調で疑問をふっかける。厚木は眉をピクリと動かしてから、


「君と君のストーカーか、そっちの探偵ごっこをしている姉妹だよ」

「な……」

「ちょっと! 探偵ごっこって何よ! それに私たちが犯人なわけないじゃん!」


 驚きから固まってしまう私をよそに、新菜ちゃんが抗議の声を上げる。

 厚木はわざとらしく手で耳を覆ってから、「犯人はいつもそう言うな」と嘯いた。


「意味わかんない! 犯人じゃないんだから犯人じゃないって言うに決まってるじゃん! 大体私もお姉ちゃんもアリバイは完璧だよ! 日車君が殺された時間の前後、私は深倉さんと一緒にお風呂だったしお姉ちゃんも白杉さんと一緒だった! 白杉さんが殺されたときだって私はずっと伊月さんといたし、お姉ちゃんも三階にいて二階にいる白杉さんを殺すことなんて不可能だったもん! どう考えたって私たちが犯人なわけないじゃん!」


 激高する新菜ちゃんに反比例するように、厚木は憎たらしい笑みを浮かべていく。

 実際彼女たちのアリバイは完璧なのにどうしてそこまで余裕を見せられるのか? 

 改めて隣に座る男の心理が読めず、私はUMAを見るような目で彼の顔を見つめた。


「全く、先ほどからアリバイアリバイと言うが、君ら姉妹のアリバイが薄氷の上にあることはすぐに考えれば分かることだ」

「どこがよ! 文句のつけどころがない程完璧じゃんか!」

「最近の若者はすぐに向きになって相手の話を聞かなくなる。そんな風だからごっこ遊びなどと揶揄されるんだ」

「してるのはあんただけだけど」


 ぼそりとツッコミを入れるが当然厚木には届かず。彼は自信満々に双子のアリバイの綻びを指摘した。


「日車殺害時の姉のアリバイ証人は誰だ? 白杉だろう。そしてその彼が、二人目の犠牲者となった。となれば簡単な話だ。日車殺害時のアリバイは、白杉を誑かして作ったもの。そしてそれをばらされないように、次に白杉を殺したのだろう」

「い、い、意味わかんない! 言いがかりにもほどがあるよ!」


 怒りが限界を超えてしまったのか、新菜ちゃんは目に涙を浮かべて厚木を睨みつける。姉の伊緒ちゃんも、これでもかと言うほど侮蔑した視線を寄こしていた。

 しかしある一点を除けば、ぎりぎり筋が通りそうな気もするこの推理。私はその唯一の問題点について尋ねてみた。


「あのさ、その場合日車君殺害の方は説明がつくかもしれないけど、白杉さんの殺害の方は依然不可能なままだと思うんだけど。その点はどう考えてます?」

「別に何も難しいことはない。姉の方のアリバイは、君の証言が元だろう。となれば単純だ。君が二階から上がってきた彼女の姿を見落としていただけのことだろう」

「……よし、殺そう」

「うん? 今殺すと言わなかったか?」

「いえ、言ってません」


 ついに心の声が厚木の耳に届くほど大きく漏れてしまった。

 しかし幸いにも厚木は馬鹿だったため、「まあ当然だな。私を殺すような動機などあるはずがないからな」と一人で勝手に納得してくれた。腹立たしいことに。

 まあそれはともかく、厚木の妙な推理のせいでまたしても部屋の雰囲気がおかしなことになってしまった。今の推理から小鳥遊姉妹が犯人だと考えた人はいないと思うが、それでも論理的にはギリギリ成り立ってしまっている。

 ここでさらに小鳥遊姉妹についての話を掘り下げるべきか、それとももう一つの共犯候補として挙げられた私と渡澄さんを犯人とした推理を聞くべきか。

 次の一手をどうするべきか分からず困惑して辺りを見回す。しかし皆も今の状況についてこれていないようで、口を開く気配はない。

 このままじゃまずいと不安を抱き始めた直後、


「いやあ、驚きました。てっきり厚木さんは推理なんて全くしてないのかと思ったのに、まさか僕と同じ結論に辿り着いているなんて」

「同じ、結論……?」


 鈴が峰の唐突な発言に、この場にいる全員の注目が集まる。


 ――まさか、このタイミングで言うの!?


 皆とは別の意味で私も驚愕する中、鈴が峰はあっさりと彼が推理した犯人の名前を指摘した。


「僕もですね、小鳥遊姉妹が二人を殺した犯人だと推理したんですよ」


ようやく犯人の指摘ができた……長かった(;・∀・)

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