小鳥遊伊緒の推理④
「次の白杉さんの殺害までは、特にこれと言って語ることはありません。先ほど言ったように、日車君殺害の件で無実の深倉さんを犯人扱いしたため、白杉さんを殺害することを計画し始めた。それ以外はただ深倉さんとの仲を深めるため、彼女に寄り添うことに全力を尽くしていたはずです」
懐疑的な雰囲気が強まっても、伊緒ちゃんは言い訳せずに話を続けていく。というより、彼女からしたら続ける以外に選択肢がない。
既に犯人が渡澄さんであると宣言してしまった以上、多少疑問点が残ろうとも推理をやりきらねばここまでの話が全て無駄になる。
少し、同情する気持ちが込み上げる。
けれど、これは彼女の選んだ道なのだから、仕方がない。
「――白杉さんを殺すタイミングを窺っていた彼女は、思いがけず早い段階でその機会に巡り合いました。というのも鈴が峰探偵に推理をしてもらうため、深倉さんが伊月さんを探しに館を単独行動し始めたからです。それもすぐに戻らず、数分以上も」
「その件に関しては本当に申し訳ない……」
皆に聞こえない程度の小声で、私は縮こまって謝罪する。
今更ながらに一人で行動するのはあまりに軽率だったと反省してしまう。渡澄さんや黒瀬を危険な目に遭わせたくないという思いで単独行動を選んだけど、それですぐ戻らなければ心配させてしまうことは分かり切っていたのに。
それだけじゃなく、伊緒ちゃんの推理が正しいなら私のこの行動のせいで白杉は死ぬことになったわけだ。もしそうなら謝罪なんかじゃ到底足りないわけで……。
「深倉さんが戻らないことをチャンスと考えた渡澄さんは、深倉さんを探す名目で館の中を動き始めました。まずは談話室を見に行き厚木さんと会い、深倉さんを探す姿を見せた後、白杉さんを殺すために彼がいそうな場所に移動しました」
「うむ? 白杉の居場所はどうやって探し当てたのだ? 手当たり次第かね?」
「居場所を把握する術はなかったと思うので、手当たり次第かと。ただ白杉さんは天使の庭にいることが多かったので、探し当てるのは簡単だったと思います」
あっさりと厚木の質問をかわし、話は白杉殺害のシーンにまで進む。
「白杉さんを見つけた彼女は、深倉さんを見なかったかと質問しました。当然白杉さんに嘘をつく理由はないため、来たことを簡潔に答えたと思います。それを聞いた渡澄さんは、深倉さんが再びこの部屋にやってくることはないと考え、素早く殺害に走りました。方法としては先に話した通り、スタンガンを利用して気絶させた後、首を絞めて殺害。白杉さんを殺した後、一度誰かが部屋に近づいていないか調べるため部屋の外に出た彼女は、私と深倉さんが話しながら二階に降りてきているのに気づきました。そこで急いで悪魔の庭まで逃げ込み、私たちの動きを観察。私たちが天使の庭に入っていったのを見て、さも今自分もやってきたかのように装い現れました。
その後の流れは皆さんも知っての通りです。唯一二人の殺害時にアリバイのなかった者として私に疑われ軟禁状態となり、ここに至ると。これが私が推理した、この館における渡澄さんの動きです。
……私自身、話していて論理的にやや欠陥があるとは感じましたが、これ以外の真相はないと思っています。鈴が峰探偵はどう思われますか?」
ついに伊緒ちゃんの話が終わり、鈴が峰へ判断が委ねられる。
今の彼女の推理を聞いて、心の底から納得できた人はいないと思う。けれど決定的と呼べるほどの矛盾はなかったし、反論しようにも結局はアリバイの点から外部犯を疑うことしかできなくなる。
だから今、この場にいるほとんどが彼女の推理に渋々頷くことしかできない。
だけど、鈴が峰は――そして彼の推理を既に聞いている私と伊月は、これとは全く異なる推理を導いている。ただそれは、伊緒ちゃんが話してくれた今の推理よりも荒唐無稽な話。ここで彼女の推理に対する明確な否定ができなければ、皆を納得させられず、最終的な勝利を犯人に奪われてしまうことも十分にあり得る。
鈴が峰は、一体どう答えるのか。
誰もが息をのんで鈴が峰を見つめる中、彼はふにゃりとした笑顔を浮かべながら、手を叩き始めた。
「いやあ、凄くいい推理だったよ。本心としては、それが真実だって言ってあげたいくらいかな」
「本心では……ということは、私の推理は間違っているということですか」
「うん、そうだね。申し訳ないけど、前提から間違ってるから」
「前提から……?」
困惑した表情を見せる伊緒ちゃん――いや、私たち。
鈴が峰は立っていることに疲れたのか扉に寄りかかりながら、何度も首を縦に振り、言った。
「だって、渡澄さんは日車君殺害の犯人にはなりえないから。あの日の朝、彼女が部屋から出ていないことを、千尋君がしっかり見てるからね」
ラストなのに全然投稿できず申し訳ない。「忙しくて書けない→内容忘れる→読み返す→ちょっと書いてストップ→忙しくて書けない」と言う見事な悪循環に陥っております。それともう書く内容は決まってるから新作書きたい気持ちが超湧き上がっている。まあ時間かかりますが頑張って完結させます……今年中には。