↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷い子の館の殺人  作者: 天草一樹
殺人犯と館の秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/63

小鳥遊伊緒の推理②

久しぶりの投稿。結末は描けているのに執筆は遅々として進まず

「スプリンクラーって……そんなのどこに――」

「ないはずないんです。天使の庭も悪魔の庭も、どちらも植えられているのは造花でなく生きている本物の花。あの広さを人力でやるのはどう考えても厳しいですし、まず間違いなく水を撒くためのスプリンクラーが備え付けられているはずです」

「だから、そんなものどこにも――」

「おそらく普段は景観を損ねないよう隠されているのでしょう。この館は二階と三階の下に未知の空間がありますし、それぐらいの仕掛けを施す余地は十分あるかと。ああ、天使のオブジェから水が撒かれるのかもしれませんね」

「……」


 スプリンクラーを用いた血の洗い流し。

 言われてみればあれだけ広い屋内庭園を造っておいて、水を撒くための設備を搭載していないとは思えない。

 見えていないものを勝手に想像するのは危険な行為とは言え、逆に視界に映っている物が全てだと考えていては本質を見誤る。その場所にあってしかるべきものが見当たらないなら、そこには何かしらの理由が存在するはず。そういう意味では、伊緒ちゃんの説にはかなりの説得力を感じた。

 とはいえ、疑問がないわけではない。

 一瞬怯んだ様子を見せた黒瀬も、すぐに気を取り直し反論した。


「百歩譲ってスプリンクラーがあるのは認めるよ。でも、その方法で血を洗い流したって考えるのは無理があるでしょ」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。もしそんなことしたら、庭全体が水で濡れてないとおかしいじゃんか。それに全身びしょびしょになってるだろうし、時間的に乾かし切るのだって難しいでしょ」


 私が考えていたのと全く同じ疑問を口にしてくれる黒瀬。しかしこの反論も予測済みだったらしく、彼女は表情一つ崩さず言い返した。


「水の勢いを弱めれば庭全体に広がることはないと思います。それに私の推理では血で濡れた際の対策として服は脱いで殺害を行ったと思っています。なので髪さえ濡らさなければ、タオルを使ってぱっと見濡れているとばれない程度にすることは可能だったはずです。特に彼女は事件後、深倉さんの付き添いとして浴場まで来ていますので、危険を冒していたのはわずかな間だけです」

「いや、でも……」


 まだ納得していないながらも、効果的な反論が思い浮かばず黒瀬は言葉を濁す。

 伊緒ちゃんが語ってくれた推理はあくまで可能性の一つでしかなく、不確定なところが多い。けれどそもそも、現状渡澄さん以外に犯人足りうる人物はおらず、その彼女自身が犯行を認めるが如く委縮してしまっている。

 この状況で唯一彼女を守る切り札が返り血問題だったわけだが、こうして小さいながらも穴が開いてしまった。こうなってはスプリンクラーが存在しないことを立証するか、真犯人を見つける以外に彼女を守る手はないように思える。

 どうするのかと皆が見守る中、黒瀬は何度か渡澄さんに視線を投げかけ、それから諦めたように俯き――


「じゃあさ、伊緒さんの推理では、渡澄さんは皆をここに連れてきた誘拐犯の仲間でもあるって認識なのかな?」


 ――やっと、動いた。


 皆の視線が一斉に黒瀬から外れ、声の主である鈴が峰に集まる。

 かなり重々しい空気の中にも関わらず、朗らかな笑みを浮かべる鈴が峰。

 そんな彼の様子に薄気味悪いものを感じたのか、伊緒ちゃんはやや声をどもらせつつ頷いた。


「ま、まあ、そうなるかもしれません。ただ、偶然スプリンクラーのスイッチを発見した可能性もゼロではないと思っています」

「うーん、そんなことってあるのかな? だって伊緒さん自身が、あの広い庭園の中に落ちていたスマホを発見するほど念入りに調べたんだよね。それで見つからなかったのに、渡澄さんが偶然見つけるっていうのは、ちょっと無理があるんじゃないかな」

「……そうですね。確かに偶然見つけたというのは厳しいかもしれません。……なら、こうは考えられませんか。彼女は昔この館に来たことがあり、スプリンクラーの場所や動かし方を知っていたと」


 緊張気味の伊緒ちゃんの発言に、鈴が峰は手を叩いて大きく首を縦に振った。


「それは確かにあり得るよね。渡澄さんは皆と同様に何者かによってこの館に集められた。けれど皆とは違い、この館について既に事前知識があった。さらにその証拠写真となるものがスマホに残っていた。だから疑われないよう、取り敢えずスマホを天使の庭に隠し、皆に対しては持っていないと嘘をついた」

「そう、だったの?」


 彼女が嘘をついた理由を聞かされ、私は驚いて渡澄さんを見る。彼女は少し顔を上げて私の目を見返したが、肯定も否定もせずまた顔を伏せてしまった。

 これではどちらか分からない。私は腰を浮かせ、もう一度彼女に声をかけようと口を開く。けれどそれより早く、鈴が峰があっさり「まあ嘘だけどね」と発言を撤回してしまった。


「え、嘘なんですか!?」

「うん、嘘。というかこれが事実なら、僕が話すまでもなく伊緒さんが言ってるんじゃないかな。それにスマホから分かったのは渡澄さんが二人を殺した動機なんだよね?」

「……そうですね。私が彼女を犯人だと考えたのは、スマホに館の写真が入っていたからではありません。それにそんな不都合な写真であれば、スマホを隠すのではなくまずその写真を削除していたと思いますし」

「だがそれを言うなら、一体どんな写真が写っていたというのかね。この場で犯人と疑われるような不都合な写真なのは間違いないのだろう」


 ただ黙って聞いていることに耐えられなくなったのか、厚木も口を挟んでくる。

 興味本位で口を挟んでくるなよと内心で苛立つも、質問自体は私も気になるところなので文句は我慢する。

 伊緒ちゃんは持っていたスマホに目を落としてから、渡澄さんに尋ねた。


「私が見たもの。お話しても宜しいですか」

「……それは……」


 渡澄さんは顔を上げ、スマホをじっと見つめる。それからどういうわけか私の方を見て、小さく首を横に振った。


「ダメ……。私が犯人だと認めるから、それだけは……」

「な……! それ本気で言ってるの!」


 私は我慢しきれず渡澄さんに向かって叫んだ。

 自分が犯人だと認める発言。でも、流石にこの状況では素直に受け入れられない。スマホに入っている何かを皆に知られたくないから、虚偽の自白をしたとしか思えないからだ。

 私の必死の呼びかけに対して、答えるどころか嫌がるようにより体を縮こまらせる。

 これはもう、強引にスマホを奪ってその中を見るしかない。

 私はソファから立ち上がり、厚木を押しのけ彼女の元へと歩みだす。しかしすぐに、


「座っていてください深倉さん」


 と、伊月が鋭い声で呼び止めてきた。

 だけど今の私はその程度じゃ止まらない。伊月の呼びかけを無視して歩みを進め――


「渡澄さん。このままじゃどちらにしろ彼女に嫌われちゃうと思うし、流石に明かした方がいいと思うよ」


 鈴が峰の意味深な言葉を聞き動きを止めた。


「……彼女って誰のことですか?」


 視界の端に渡澄さんを捉えながら、鈴が峰に尋ねる。

 鈴が峰は「勿論深倉さんのこと」と軽い調子で答えた。


「……私に嫌われるようなことが、渡澄さんのスマホに入ってるんですか?」

「うん。おそらくね」


 そう言って彼は伊緒ちゃんの方を向き、「ですよね」と緩い感じに話を促した。

 伊緒ちゃんは一瞬私に視線を移す。そして私の表情を見て話さないでいることが難しいと悟ったのか、「そうですね」とため息とともに頷いた。


「やっぱり、渡澄さんには申し訳ないですけど、スマホの中身を見せないわけにはいかなそうですね」

「ま、待って――」


 慌てて顔を上げた渡澄さんを哀れんだ目で見ながら、伊緒ちゃんはスマホの電源を入れ、その画面を私たちに見せつける。

 そこに映っていたのは、一人の女性がパスタを食べている姿――いや、一人の女性なんてぼかす必要はない。それは私にとっても、この場にいる皆にとっても、よく見知った女性だったのだから。

 唖然としてソファに力なく座り直した私を前に、伊緒ちゃんは隠された秘密――渡澄さんが今回の殺人を犯した動機を暴露した。


「渡澄さんは、深倉さんのストーカー(・・・・・)だったんです。だから彼女は、この館で自分よりも深倉さんと仲良くなり始めた日車君を許せず殺害してしまった。さらに無実の深倉さんを犯人呼ばわりした白杉に対しても恨みを抱き、彼を殺してしまったんです」


どうでもいいけど私の作品、ストーカー率高い気がする。気のせいか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。