小鳥遊伊緒の推理①
久しぶりの執筆のため文章の書き方忘れてる……もう勢いで乗り切るしかねえ。
鈴が峰の推理を皆に聞いてもらうため、全員を談話室に集めようと伊月と協力して館内を駆け回る。
鈴が峰の推理が真実だとすれば、最悪この間にも誰かが殺されている可能性があった。まあ今はかなり皆も警戒しているはずだし、誰かが勝手に単独行動をとったりしていなければ大丈夫なはず……。
とまあそんなフラグっぽいものを立てたものの、何事もなく無事に再集結することができた。
これまでなら全員が集まれたことに安堵する気持ちが生まれていたが、今の私の心持はこれまでとは大いに違う。
何せこの中に、二人を殺した犯人がいることを私は知ってしまったのだ。素知らぬ顔で輪の中に加わりながら内心では私たちを殺そうと隙を窺っている、そんな人物の存在を。
けれどそれを悟られるわけにはいかない。もし犯行がばれていることを知ったなら、最悪犯人はなりふり構わず実力行使に及ぶかもしれない。こちらには私を軽々取り押さえた伊月がいるとはいえ、少なくとも鈴が峰の推理が語られる前に行動を起こさせたくはなかった。
私は皆がソファに座っていくのを眺めてから、素早く目的の位置に着席する。
ロの字型に配置されたソファ。入り口側から見て左手のソファに私と厚木、奥のソファに伊緒ちゃんと新菜ちゃん、右のソファに渡澄さんと伊月、手前のソファに黒瀬が座る。そんな私たちを見渡すように、扉の正面に鈴が峰が立っている。
鈴が峰は全員が着席したのを確認すると、早速推理を始めようと口を開く。けれどそれより早く、伊緒ちゃんがすっと手を上げた。
「すいません。鈴が峰探偵の推理を始める前に、私の方から先に推理を披露させてもらえないでしょうか?」
「それは構わないけど……何か証拠になりそうなものでも見つけたの?」
「はい。おそらくこれで事件は解決しますから」
真剣な表情でじっと鈴が峰を見つめる伊緒ちゃん。
鈴が峰は軽く頭を掻いてから、「いいよ」と迷いなく頷いた。
「事件を解決するのが僕である必要もないからね。伊緒さんが辿り着いた真相を教えてもらえるかな」
「有難うございます」
軽く頭を下げて感謝の意を表すと、彼女は軽く深呼吸をして話す準備を整え始める。
この展開を想定していなかった私は、慌てて伊月と鈴が峰にアイコンタクトを送った。けれど二人は伊緒ちゃんに視線を向けており全く反応を返してくれない。
そうこうしているうちに、彼女の推理が始まってしまった。
「それでは、まず最初に日車、白杉の両名を殺した犯人を指摘させていただきます。犯人は、渡澄飛鳥さんです」
「な!」
早速挙げられた犯人の名前に部屋がどよめく。私や黒瀬がすぐさま反論の声を上げようとするが、
「そしてその証拠がこちらです」
続けて出されたものを見て、ぴたりと動きを止めることになった。
彼女が証拠として取り出したのは何の変哲もない一台のスマートフォン。しかしこの館に来てから今に至るまで、一度も見たことのないものであった。
「私がこれを証拠だと言ったことからお察しのことと思いますが、このスマホの持ち主は渡澄さんです。間違いは、ありませんよね」
「……」
まだスマホのことを本人に確認していなかったのか、伊緒ちゃんは渡澄さんの元までスマホを持っていく。
渡澄さんは驚いた表情でスマホをまじまじと見つめると――徐々に顔を青ざめさせていった。そして震える口で、「それをどこで……」と呟いた。
これまで見たこともないような渡澄さんの表情に、周りの雰囲気も一変する。
私もまさかという思いで見つめる中、伊緒ちゃんの怜悧な声が渡澄さんに突き刺さっていく。
「見つけたのは天使の庭です。犯人に繋がる証拠がないかと隅々まで探していたところ、偶然発見しました」
「そんな……でも……」
何か言いたそうに口を開くが、結局何も言わずに口を閉ざす。その態度はまるで、尋ねること自体が自身に不利に働いてしまうことを察したかのような、そんなばつの悪さを感じさせた。
伊緒ちゃんはますます冷えた視線で彼女を見つめる。
「余計なお世話と思いますが、パスワードはしっかりかけておいた方がいいと思いますよ。特にあなたのように、人に見られて困るものを入れている場合は」
「……中、見たのですね」
「はい。そしてそれが、あなたがこの事件の犯人だと確信した理由でもあります。一連の殺人に隠されていた動機が、はっきりと浮かび上がりましたから」
「……」
渡澄さんは、犯行を認めた犯人が如く顔を俯ける。
――まさか、本当にこれが事件の真相なのだろうか? 少なくとも、彼女が私に対して嘘をついていたのは間違いない?
彼女の姿からそんな考えが頭を過った直後、「ちょっと待ってよ!」と黒瀬の苛立った声が部屋中に響いた。
「あのさ、そのスマホにどんなヤバいものが隠されてて、渡澄さんに二人を殺す動機があったとして、結局二人をどうやって殺せたって言うわけ? 確かに犯行時刻のアリバイこそないけど、日車殺害の犯人なら返り血を浴びてないといけないし、白杉殺害だって自分より遥かに体が大きくて力も強いのに十分かからず殺さないといけない。そこの問題を解決してくれないと、動機がどうこう言われても納得できないんだけど」
「そちらに関して、証拠はありませんが仮説ならあります」
「どんな」
「まず白杉さん殺害には、スタンガンを用いたんです」
白杉の死体を見た際に私が考えたのと同じ推理を、伊緒ちゃんは淀みなく語っていく。
「白杉さんは絞殺されていました。それもほとんど抵抗できなかったようで、首には吉川線がありませんでした。加えて絞め痕は水平につけられている。このことから、彼がスタンガン等で気絶させられてから殺されたことはほぼ間違いないと思います」
「ふーん。別にそれは否定しないけどさ。その仮説を言うなら渡澄さんがスタンガンを持ってないといけないよね。そこのところは――」
「あ! 渡澄さんはスタンガン持ってるよ! さっき聞いたし現物も見たから間違いないよ!」
今こそ活躍の場とばかりに、新菜ちゃんが大きく手を上げてアピールする。
黒瀬はかすかに目を見開いた後、それが事実か確かめようと渡澄さんに視線を向けた。
「……護身用に、少し強力なのを……」
ここで新菜ちゃんが嘘をつくわけもなく、渡澄さんは俯いたままスタンガンの所持を認めた。黒瀬がショックを受けている中、伊緒ちゃんが「本当に護身用のためなのかも少し疑わしいですけどね」と、意味深なことを呟く。
その言葉を聞いて渡澄さんは大きく体を震わせたが、やはり何も言い返さず、一層体を縮こまらせた。
一体スマホには、何が入っていたのだろうか? あれほど凛として優しく、高潔なイメージを貫いていた彼女が、こうも怯えてしまうほどヤバいもの。凄く気になるけど、知るのは怖い。
私の興味がスマホの中に向かう一方、黒瀬は諦めることなく日車殺害について話を移した。
「……スタンガンがあっても時間的に厳しいとは思うけど、いいよ。そこは可能ってことで。で、日車殺害の方はどう考えてるわけ? あの大量の返り血を浴びない方法、洗い流す方法なんてないと思うけど」
確かに、こちらには一体どんな解決方法があるのだろうか? 鈴が峰が話してくれた殺害方法以外では、これは流石に説明がつかないように思える。
けれど伊緒ちゃんは一切慌てることなく、一言、予想外の方法を告げてきた。
「血は、スプリンクラーで洗い流したんです」