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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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29話:悪に重なる悪

 リゥたちが留まっていたのは、塔から数十メートル離れたところ。隆起の規模が分からなかったため、それだけの距離をとる必要があったのだ。

 その距離をどんどんと縮めていき、塔は既に目前。リゥたち一行は、手を伸ばせば触れられるところまで来ていた。


「これが、ヤツらの本拠地……」


「いや、本拠地では無いだろうな」


「ン? なンでだよ?」


 リゥが塔を見上げ、いよいよかと拳を強く握る。そしてゴクリと息を呑み小さく呟くと、その隣に立つように並び、首を横に振る。

 そんなゲンの否定に、リゥとゴウは同時に首を傾げる。


「さっき、アリウムとか言うやつが言っていただろう。ここは邪陰郷の『第6支部』で、あいつが『第6支部支部長』だ」


「つまり、第1から第6以上の支部があり、これはそのうちの一つに過ぎないってことか?」


「おそらくは、そうだろうな」


 邪陰郷の本拠地だと思っていたここは本拠地ではなく、今回のと同じような場所が最低でも6つある。ということは、今回のような戦いがあと5回は続くということ。

 そんな結論に至ったリゥたちの反応は、全員同じ。

 絶望に満ち、膝から崩れ落ちる――、


「そうと分かればこんなところでゴタゴタしてる暇はねぇ! 相手が全員じゃねぇならサクッと片付けてパパッともどってチャチャッと他の支部見つけてバーッと勝つぞ!」


 ――わけがなかった。

 ここに居るのは、選抜に選抜を重ね、数多くの篩にかけられて残る精鋭揃い。こんなことで絶望に陥るような、可愛げのあるメンツではない。勿論、例外などもなく。


「俺も、ここに来たからにはしっかり頑張る! みんなの足を引っ張らないように!」


「ここ二ヶ月で、アキラも少しは変わったな! 頼りにしてる!」


 今までであれば、こんな場面ともなればアキラは絶望に陥っていただろう。リゥたちが前向きな理由も分からず、きっと頭を悩ませていたはずだ。

 しかし、今のアキラはそうではない。リゥたちの強さを理解し、自分自身も強くなれた実感がある。自分と周囲の強さは、アキラの心を永遠に支えてくれる。もう、これくらいのことで落ち込んだりはしないのだ。


「しかし、ここが第6支部だとしたら他の支部はどこにあるんだろうな……」


「それは分かンねぇな。俺らが突き止められたのはこの迷い森だけだ」


「ただ、この世界に未調査の地はまだまだある。ここと同じような、危険区域に潜んでいる可能性は高いだろうな」


「まさかだけどよ、さすがに他の支部が全て聖陽郷に攻め入ってるってことはねぇよな?」


 本拠地だと思っていたところがいくつかある支部の一つでしかないと分かった今、リゥたちの頭に最悪の可能性が()ぎる。

 今の現状、動きが把握できるのはこの第6支部だけだ。第6があるのなら、第1から第5まではあると考えるのが普通。そしてその最悪の可能性として出てくるのが、残る支部の全てが聖陽郷に攻め入っていることだ。


「ヤツらの目的は、裏世界にある。そしてそれを管理しているのは聖陽郷だ。――つまり、聖陽郷を支配すれば裏世界は自由にできる」


「今の聖陽郷は四天王が三人、天使が一人、十二人衆が全員、そしてSCHの上位隊三つがいない」


「アイツらが聖陽郷を攻め落とすには、絶好の好機になってるってわけだ……」


 そんな最悪の状況に冷や汗が頬を伝い、顎から滑り落ちる。

 しかし、今ここで退けば敵に背を向けることになる。初陣であれだけの人数。そして今塔に残っているのは、先程よりも強い者ばかりだろう。

 その状況で背後を取られるのは、それだけで確実に不利である。

 ――よって、導き出される答えは一つだけだ。


「さすがに、この状況で退くことはできねぇ。ここをさっさと片付けて、急いで戻る。――シロ」


「報告は済んでいます。向こうは早くも厳戒態勢を取り、何かあればすぐに連絡が来るかと」


 現状、この場に長く留まっている必要は無い。寧ろ、早く戻る必要があるくらいだ。

 そのため、使う時間は極限まで少なくさせるため、リゥは単独で即決。そんなリゥの短い呼び掛けに、シロは即座に応答。現状と、リゥの意図を全て把握していたシロは、既に聖陽郷にいるクロと連絡を取っていた。

 そんなシロの素早い行動に、リゥは感謝の念を込めて無言で頷く。

 そして、後ろへと振り返る。


「――これから、この塔の攻略を開始する。中で分割する場面が出たら、予定通りのチーム分けで頼む。絶対に一人にはなるな。もし一人になった場合、目前の目的だけ片付けて即座に合流。無理だと思えば迷わず離脱しろ。俺が率いるチームに入った以上、死ぬことだけは絶対に許さない」


 『許されないと思え』ではなく、『許さない』と、鬼気に満ちたオーラを漂わせ、リゥは強く言い切る。リゥがリーダーのチームで許されないのは、リゥが四天王に就任した日からずっと『死』だ。

 それは、リゥが命を落としたあの日からも変わっていない。そして、自ら『死』を味わったことのある今のリゥは、前にも増してそれを許さない。

 そんなリゥの言葉は、優しさや励ましを通り越した命令、即ち強制だ。


「俺のチームの目標は、ただ任務を完遂することじゃない。死者を出さずに任務を完遂し、後でその任務を笑い話にすることだ。死者が出た任務など、到底笑い話にできるものじゃない。――よって、絶対に死ぬな。途中離脱も単独撤退も大いに許そう! 逃げて生きれば後々に笑ってもらえる。だが、死ぬことだけは絶対に許さねぇ! 何があってもだ!」


 リゥの命令に、そこにいる全員の闘志が沸き立つ。それは、ゴウやゲンであっても、シロであっても、十二人衆であっても、上位隊であっても、アキラであっても同じ。

 例外なく、熱い闘志に満ち溢れる。


「――よし、」


 『征くぞ』と、リゥが合図をかけようとした瞬間、その合図を待たずして、影がリゥの真横を通る。


「一気に突っ込むぞォッ!」


 影は、咆哮しながら塔の扉を一直線に目指す。

 真っ直ぐに伸びた脚は扉に向かって垂直に叩きつけられ、衝撃に耐えられない扉は簡単に破壊される。

 くるりとリゥの方を向いたその影は、したり顔で笑っている。

 これほどまでにド派手なことをするのはただ一人。――ゴウしかいない。


「ったく、もういいわ! ――とりあえず征けェッ! んでもって突っ込めェッ!」


 最後でかっこよく決められないのが、この場合のリゥのお約束。大体がゴウに壊される。が、それが却って丁度いい。

 最初から最後まで真面目なのもいいが、リゥやゴウの班ではそれを求めない。


 ――終わったあとで笑い話になれば、それでOKなのだから。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 塔に入ってすぐ、リゥたちを出迎えたのは異様な空気だった。

 普通の家などと異なるのは当たり前だが、そうとしても異様すぎる。これまでに一度も感じたことの無い空気。呼吸をするだけで顔がひきつり、肌を包む感触に鳥肌が治まらない。


「邪陰郷第6支部へようこそ。ここは塔の5層。アリウム様は1層でお待ちですよ」


 異様な空気を放つ塔の中。その奥に佇むのは、痩せこけた茶髪の老人。前頭部から頭頂部にかけて髪の毛がなく、後頭部や側頭部だけに髪が集中している。前方から中央の髪の毛はどこに行ったのかと思えば、それはすごく簡単なこと。眉毛と髭が長かった。それだけだ。


「ほう? それならとっとと1層に案内してくれよ。生憎、ここで油を売ってる暇もなくてな」


「残念ながら、それは出来兼ねます」


「武力行使になるぞ?」


「それは少し、老体には堪えますね……」


 なんとも力の抜ける老人の言葉。今のところ敵意は感じられないただの老人だが、それでも邪陰郷の一人だ。当然だが油断はできない。

 ただの老人などと思って話せば、後悔する結果が待ってるに違いない。よって、ゴウの言葉にも容赦はない。


「たしかにその体じゃ無理だろう。だからな? やっぱり大人しく案内しといた方がいいンじゃねぇか?」


「何回言っても同じじゃ。それとも、何回も繰り返せば儂が折れて受け入れるとでも?」


 そんな言葉が通用しないのは、話をしているゴウが一番わかっている。が、相手の狙いが掴めない限りは迂闊に動くことなどできない。

 それが分かっているからこそ、前に出るのはゴウだけ。何かがあった時にすぐ動けるよう、残りの全員は後ろでじっと待機する。

 老人は、その全員を把握するようにじっと辺りを見回し、何かを把握したように短く息を吐く。


「――ふむ、そうじゃな。これだけの人材がこの人数。儂一人が相手をしたところで、そこの男の子にすら負けるじゃろうしな」


 そう言って、老人はアキラに目を向ける。

 その視線が妙に薄気味悪く感じ、アキラはそっとリゥの後ろへ隠れる。

 すると、老人はアキラから視線を外し、ゴウの方へ向き直る。


「さて、自己紹介がまだじゃったの。――儂の名前はモーサ。第6支部の幹部にして、第5層の待人じゃ」


 モーサという名前――否。

 第5層の『待人』という新単語――否。

 それ以上に、聞き逃してはならない語句があった。そして勿論、ゴウもそれを聞き逃してはいない。

 その語句を聞き逃さなかったゴウの表情は、ゆっくりと豹変。まるで、夜の墓地で幽霊でも見たかのように、驚愕にゆっくりと目を見開き、震える瞳孔でしっかりと老人を捉える。


「――お、おい待て。今、第6支部の幹部って言ったか?」


「――? あぁ、言ったが……何じゃ? 主らも邪陰郷の幹部という存在くらい知っているじゃろう? たしか……あぁそうそう、つい最近にギルのやつが行っとったじゃろうて。そのギル坊や、随分前に何人か言った坊主たちと同じ役職じゃが?」


「ち、違ぇよ。邪陰郷のじゃねぇ。『第6支部』の幹部って言ったか?」


「あぁ、そういうことか。たしかに、そう言った」


 幹部、という言葉は勿論わかる。邪陰郷についての知識が深い訳では無いリゥでも、そもそもこの世界の知識が浅いアキラでも、幹部という存在は把握している。

 だが、ゴウを初めとして、リゥやアキラを含めた全員が決定的な勘違いをしていた。


「幹部ってのは、邪陰郷の中の、それぞれの支部にいるもンなのか?」


「なるほど、そういうことか。主らの疑問がよくわかった。――つまり、主らは幹部という役職が邪陰郷のトップクラスと思っとったんじゃろう? だがしかし、それは違うな。幹部というのは、支部内のトップクラス。邪陰郷の中の役職でトップクラスなのは、アリウム様のような支部長の方々じゃよ」


 リゥたちはずっと、幹部という役職について勘違いをしていた。幹部といえば、聖陽郷における十二人衆のような役職だと、リゥたちはそう把握していた。

 しかし、十二人衆のような役職はきっと支部長なのだ。そして幹部というのが、SCH各隊のリーダー各くらいだろう。

 ――だと言うのに、ギルの前に来た幹部は十二人衆が数人がかりで苦戦するほどの実力者だ。

 そしてその幹部が、支部に数人。さらにその支部をまとめるのが支部長。幹部によってその実力は疎らだが、支部長はそんな幹部をまとめられるほどの実力者。

 だが、それでは少し違和感が残る。リゥを襲ったギルの実力は明らかに以前の幹部よりも弱いはずで、目の前の老人――モーサも大して強いとは思えない。同じ幹部での明らかな実力差が、ゴウの頭を悩ませ続ける。


「計算違いを悔いるのもいいが、あまり長時間待たせんでくれんか? 儂も見ての通りの老体でな。こうしてるだけでも疲れるんじゃよ」


「あぁ、そうだな。考えるのも悔いるのも全部後回しだ。――現段階での優先順位は、お前だったな」


「ふむ、これで漸く本題に入れるな。――それでは改めて、儂は第6支部1層の待人。そして主らに待ち受けるのは、主らにとって最大の敵じゃ。精々頑張るとええ」


 そう言って、老人の姿が消え――、


「おい、待て! ……って、は?」


 突然消えた老人を追おうとしたゴウは、さらなる異変に気づく。

 ――消えたのは、老人の姿だけではない。

 リゥも、アキラも、ゲンも、シロも、十二人衆も、SCHの上位隊も、全員がその場から消えて、さらには塔の入口も、壁も、天井も、床も、全てが消えた。

 ゴウを包むのは、黒一色。ただそれだけの、無の空間だった。


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


 そして、ゴウが孤立した時間と同刻。リゥたちにも、同じ現象が起こっていた。


 全員が、全てと切り離され、黒一色に包また。


『待ち受けるのは、主らの最大の敵。――自らの過去に苦しみ、悩み、迷い、そして無の空間で、文字通りの無となれ』


 同じ時刻の、同じ場所の、同じ状況で、迷い森上陸班の全員が、同じ声を聞いた。

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