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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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28話:迷い森の正体と秘密

 周りの木々が焼き払われ、上からの様子が十円禿げのようになった迷い森の中、リゥ率いる迷い森上陸班は最初の大軍を難なく片付けた。

 被害ゼロの結果に、リゥは当然だと言うように安堵の息を漏らすこともなく、森の奥へと突き進む。


「ね、ねぇ? 森、こんなにしちゃって良かったの……?」


 そう尋ねるのは、先程の第一陣には全くもって参加出来ていなかったアキラだ。

 とはいえ、勿論、アキラが怖がって隠れていた訳ではない。

 まず最初に、ゴウの初手で敵の前衛は全滅。その後に来た三人の男たちをリゥが蹴りだけで片付けたところ、その後ろに控えていたその他多数は腰が抜けたのか抵抗する間もなく十二人衆に仕留められた。

 そして最後の陣営は、アキラが把握する前にゲンが倒していた。

 ゴウが挨拶代わりの攻撃を撃ってから約三分の戦いだが、戦闘に用いていた時間は約一分秒。あの男達の会話で、二分以上も時間を取られていたのだ。

 しかし、そんな短い戦いでこの森は大きく変わってしまった――と、アキラは思っていた。


「ん? あぁ、後ろ見てみ?」


「後ろ? ――って、うぁぁ!?」


 アキラに尋ねられ、特に振り返る様子もなく親指で背後を指さすリゥ。そんなリゥの言葉に疑問を覚えながらも後ろを見たアキラは、目前の光景に発狂し、リゥの腕に飛びつく。

 アキラの目に映った光景。それは、燃やしてしまったはずの木々が一瞬で成長しているのだ。

 枝が折れた木はその部分から枝を再生し、根こそぎなくなってしまった場所からは新たな木が生える。ただし、全く別の形状で。


「これも、迷い森と称される理由の一つだろうな。草を踏んでそれを目印にしようものなら、草の形を変えてしまう。木々を伐採して道を切り開こうものなら、木々さえ再生してしまう。ノーエンドフォレストの正体は、次々と成長していく魔樹ってわけだ」


「ま、魔樹……?」


「そう、かっこよく言えば『デーモンツリー』だな。この世界には訳の分からない普通じゃない木が多々ある。今まで発見されたのは、ある時を境に一切形を変えない『定形樹』や、それとは対照的にずっと形を変え続ける『変形樹』があったりするな」


 そうして魔樹の説明をしたリゥは、その後に呆れたような顔で深くため息をつく。

 それを見たアキラは、不思議そうな顔で首を傾げ、「どうしたの?」とリゥに問う。


「あいや、説明してて面白味のない名前だなーってな。見つけたのが俺じゃなくてレイだからよ、分かりやすい方がいいとか言ってそのまんまの名前付けやがって……」


「え、その定形樹? とかを見つけたのがレイさんで、名前を付けたのもレイさんなの?」


 レイが付けた名前の普通さに深く嘆息するリゥ。そんなリゥの話を聞いて、アキラにはまた新しい疑問が浮かんだ。

 そしてアキラの新たな疑問に、リゥは「ああ」と心做しかつまらなそうな辛気臭い顔で頷く。


「新種の植物や動物を見つけた場合、見つけた本人が名前をつけていいことになってる。レイなんかは特に未開拓地の探索を任されることが多いから、あいつが名前をつけたモノはかなり多いな」


「それって、リゥくんも見つけたりするの?」


「ん? そーだな。たまに見つけたりすっけど、レイやゲンほどじゃねぇな」


 前に、リゥの主な仕事が被災地や貧民街などでの支援活動だという話はしていた。

 たしかに、被災地などでは新種の植物や動物どころか、そもそも植物や動物と言ったもの自体が少ないのだろう。


「そしたら、これは新種なの?」


「俺の知ってる限りじゃ新種の分類だな。まぁ、俺がいない十数年に発見されてる可能性もあるけど」


 リゥとアキラの前を歩いていたゲンが振り向く。


「いや、この手の植物はまだ発見されていない。おそらく、この植物は新種だ」


 そう言って、ゲンは自分の足元にある草を抜いてじっくりと見つめる。

 リゥがいなかった十数年にも発見されていないのならば、これは間違いなく新種。

 きっとこの植物自体はかなり前から存在していたのだろうが、今まで迷い森に入って帰った者はいない。つまり、その存在に気付いた者がいるとしても、その情報を報告出来ないのだ。


「よし、したら俺が名前を付けよう!」


 まだ名前が付いていないと分かった途端、リゥの表情が一気に明るくなる。そして歩きながら腕を組み、顎に手を当てる。

 暫く唸って考え込んだリゥは、何科が降ってきたかのようにハッと顔を上げる。


「これは次々と急成長していく木! そしたらつける名前はたった一つ! ――その名も、『ツギツリー』だ!」


「……え?」

「……ン?」

「……あ?」


 今世紀最大の発明を発表するかのようなドヤ顔で、考え付いた名前を堂々と叫ぶリゥ。

 そんな堂々とした叫びを聞いたアキラとゴウとゲンの三人は、ほぼ同じような顔でリゥを見る。


「な、なんだよ! 次々と成長していく木だから『ツギツリー』だ! 意味も分かりやすいし、なにより面白いだろ!?」


「す、すまン、リゥ。お前の言ってる面白味は、多分理解できねぇ……」

「たしかに分かり難くはないが、それならレイの方が分かりやすいな」

「俺もまぁ、嫌いじゃないけど……うん……」


「アキラまでっ!?」


 渾身の力作が思った以上の不評であり、リゥは愕然として、地面に膝をつく。


「それに、急成長してるのは何も木だけじゃない。草や花にも同じような名前をつけないといけないンだぞ」


「さすがにこれと同じようなやつは作れないだろうし、作って欲しくもないな……」


 ネーミングセンスの絶対的不評に続き、次作制作の否定。立て続けに精神的攻撃を受け、リゥの心がボロボロと崩れていく音が聞こえてくる……わけがない。


 だが、ボロボロと、ゴロゴロという音は、確かに彼らの耳に響いていた。


「――ッ! 下がれ!」


 後ろにいたリゥと話していたゲンは、音のする方向に振り返り、目前の異変を察知。察知してから脳で判断し、それを行動に移す。その全てが速い。危険の理由を後回しにして、直ぐに命令を出す。

 そして、そんなゲンの命令を聞いた全員が一瞬で後ろへと大きく跳躍。躊躇うことも、理由を聞くこともせず、とにかく命令に従う。流石は少数精鋭として組まれたチームだ。

 しかし、そんな中でたった一人、集団の先頭に飛び立つ人影がある。

 その人影は、両手を開いたまま胸の前で腕を交差させ、両肩の前にその手のひらを翳している、氷を操るクラだ。


「防御壁を展開します! できるだけ固まってください!」


 一歩前に出たクラはそう言うと、手から神々しい光を放つ。

 ――それは、ゴウが魔法を発動する時と同じような光だ。


「――氷壁(ウォール)!」


 たった一言の詠唱と共に、クラから溢れる光が膨張する。

 詠唱と共に膨張した光は次第に収まっていき、目を(ひら)けるほどまで弱まる。するとそこには、文字通りの氷壁が展開されていた。

 そして、その氷壁の向こう。先程までリゥたちが立っていた地面が、激しい揺れとともに隆起する。まるで、下から何かに持ち上げられたように。


「こ、れは……!」


 氷壁の向こう側で起こる光景に、そこにいた全員が息を呑む。

 そんなリゥたちの視線の先、上陸班全員の震える瞳孔に映るのは、突如として地面から出現した、巨大な建物だ。地表を突き破り、木を薙ぎ倒し、島を揺らしながら、目の前に巨大な塔が現れる。

 突然の巨塔の出現に伴い、突き上げられた地面は細かく割れて、氷壁へとぶつかる。氷壁に降りかかる無数の土砂。そして草木。その数をまともに浴びていたら、今ではとっくに生き埋め状態だっただろう。

 短時間で降りかかるそれだけの数を、全て受け止める氷壁。重量に押されるどころか、一ミリたりとも罅すら入らないその壁は、コンクリート顔負けの強度を誇る。


「クラ、このまま全部凌げるか?」


「このくらいならなんの問題もありません。人的な追撃が来ない限りは凌げます!」


「それならもう少しだけ耐えていてくれ! こっちは防衛班に連絡を取る!」


「はい! 任せてください!」


 初めて目にする十二人衆の力。そしてその力は、四天王であるリゥを含め、今いる全員が信頼しているものだ。そしてそんな力を目の当たりにしたアキラも、心の底から安心できる。

 しかし、それと同時に見えてしまったものもある。

 安心できたからこそ、落ち着いてしまったからこそ、見えてしまったものが……


「リゥ、くん……」


「どうした、アキラ。大丈夫だ。クラの氷壁はこれくらいじゃ壊れねぇよ。人的な追撃が来なければって……ん?」


「リゥくん、あれ……」


「ん……? ――だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


 アキラは、目に見えてしまった光景を伝えるべく、シロたちと話しているリゥを呼ぶ。後ろから呼ばれたリゥは手が離せないのか、振り返る前にクラの氷壁の強さを教えようとした。

 しかし、アキラの声は心配で震えている訳では無い。そう悟ったリゥは、服を引っ張るアキラの方を振り向く。

 リゥに何かを伝えようとするアキラの顔は、まるで幽霊でも見たかのように顔を真っ青にしている。そして、震えた声と手で、リゥの背後を指さす。

 アキラの指さす方向を見たリゥは、視線を移した瞬間に大発狂。目を大きく広げ、見える面積の広まった白目の部分にはくっきりと赤筋が立っている。


 アキラの震えは、心配などではない。ただ一つの、恐怖だ。


「ま、さか……ここに来てフラグだったか……!?」


 アキラに恐怖を植え付けた物に気付いているのは、リゥとアキラの二人だけだ。クラは目を瞑ったまま想術に集中しているし、シロとゴウとゲンは防衛班と連絡を取っている。そして十二人衆や上位隊は、前後左右からの突然の攻撃を警戒しつつ、戦闘準備を整えている。

 周囲を警戒している十二人衆の目にすら映っていない恐怖の対象。ソレが十二人衆の目に映らないのは当然。

 ――何故なら、恐怖の対象となったソレは……


「上だァァァァァッ!」


「なっ!?」

「はぁっ!?」


 リゥとアキラの恐怖の対象。ソレは、前からでもなく、横からでもなく、後ろからでもなく、宙からやってきたのだ。

 大量の土砂の中に紛れ、一緒になって落ちてくるのは一つの影。その形は、人とかなり似ているようで……


「お待ちしてましたぁー! ようこそ邪陰郷第6支部へ! 大歓迎ですぅー!」


 落ちてくる影は、バッと顔を上げてこちらを見る。そのまま狂気に満ちたような笑みを浮かべながら、やはり真っ直ぐこちらへ向かってくる。


「クラ!」


「単身なら問題ありません! このまま攻撃します! ーー氷釘(ニードル)!」


 外部からの人的攻撃を警戒していたクラだが、それは邪陰郷が多数の軍勢で攻めてきた場合のこと。今回のように単身か、あるいは少数ならば問題は無い。

 氷壁を展開しながら、次なる詠唱を行う。

 詠唱と共に目をカッと開き、鋭い眼光を頭上の影へと向けるクラ。すると、クラの展開した氷壁に突起が生じる。

 そして氷壁に現れた突起はそのまま鋭く伸びていき、落ちてくる影を文字通り串刺しにした。


「うぇぇっ!? せっかく歓迎しに来たのに、何でぇ!?」


「悪いけど、お前らの歓迎は嬉しくねぇ……あ?」


 氷釘に串刺しにされ、氷壁に向かってへばりつくように四肢を投げ出してくっつく影。その動きが止まり、ようやく容姿がはっきりした。

 ――それは、白髪を綺麗に伸ばして可愛らしい顔をした女性……否、女子と表記した方が正しいかもしれない。


「なーに? お兄さん。もしかしてあたしを見て興奮してるの? でもだーめ。そっちに行ったら怒られちゃうからぁー」


「いや、俺にそっち系等の趣味はねぇよ。――ただ、お前みたいなやつも邪陰郷にいるんだなってな」


「そんなこと言ってもぉー、お兄さんたちだってアイくんには会ったでしょぉー? あの子の方があたしより年下だよぉー?」


「あいつとお前は違う……ってか、なんでお前はそんなに喋ってられんだよ」


 串刺しになり、腹に大穴を開けて血反吐すら吐いている少女。それなのに、目の前の少女は苦しむ素振りすら見せずに平然と話している。

 女子を串刺しにしたと思った瞬間は少し気の引けたリゥだが、今となってはそんなことなど一切気にしていない。


「なんでって、だってあたしの本体はあっちだもん。あたしはあの塔の最上階にいるの。この体はあたしに似せて作っただけの分身。あたしがわざわざこんなところまで来るわけないでしょぉー?」


「自分の体の複製体、ってことか。歓迎してるってんならせめて自分(テメエ)で来いよ」


「だってぇー、あたしってばお姫様だしぃー? お姫様がこんな下まで来ちゃったら意味無いもん。だから早くおいで。最上階で待っててあげるから」


 そう言って、血だらけの少女……に、そっくりな複製体はニッコリと笑う。


「待てよ。俺はリゥ、四天王の一人だ。お前もせめて、名前くらい名乗れ。」


「あ、そーいえば名乗ってなかったね。それでは改めて。――あたしは邪陰郷の第6支部支部長、アリウム。よろしくね」


 ウインクをしながら再び笑い、少女の体は弾けるように分散される。まるで雪が砕けたかのように、白い光の粒子となって塔の最上階へと飛んでいく。


「――支部長、か。聞いた事のない役職だな」


「なンにせよ、アイツが邪陰郷なら倒せばいい話だろ。先ずはとっととこの塔を攻略する」


「そうだな。――よし、行くぞ」


 そうして、迷い森上陸班は目の前の塔へと歩いていく。

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