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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
33/146

23話:怠惰を打つ策士

 トレーニングを始めてから約二時間。

 ファクトリーに滞在していたリゥたちは、一時間前にゲンと合流し、つい先刻ファクトリーへと戻って来たヴォルフとも合流していた。


「――なるほんな。やっぱりそう来るか」


「リゥ、なにか分かったのかい?」


「大方、奴らの狙いは分かったな。それにしても、十数年離れててもそう簡単に関係は崩れないみたいだし。ほんと、お前が相棒で良かったぜぇぇぇぇぇぇぇ」


 そう言って、リゥは自分の相棒、ヴォルフの顔を抱いて激しく頬ずりをする。


 この世界では、四天王や天使、十二人衆、国宝など、限られた存在のみが所属できる階級に属している人々を、その名の通り階級持ちという。そして、その階級持ちのほとんどが、リゥたちのように相棒を定めているのだ。


 相棒とは、主とともに行動するペットのことである。しかし、リゥのようにペットをたくさん飼っている場合、その中の一頭を相棒と定める。

 そして相棒を持つ者の大体が、数年かけて相棒との絆を築く。絆の形は人それぞれだが、大凡は念話といった意思疎通を最初に身につける。


「まぁ、リゥの相棒愛は分かったが……それで、分かった狙いというのは?」


「あぁ、そうだな。――近いうちに、もう一度邪陰郷の襲撃がある。それも、ヴォルフの目で見た感じだと今回よりも勢力は上げてくるっぽいな」


「まぁ、さすがに勢力上げないで来やがったら何してンだよ、って話だかンな」


 少し不安気に報告したリゥに対し、ゴウは左手で作った拳を右手で包むように胸の前で打ち合わせ、やる気十分と言ったところだ。

 依然として態度の変わらないゴウに、レイは肩を竦め、やれやれと少し呆れた感じで笑う。


「とにかく、警戒はするべきだ」


「あ、その警戒について一つ案があるんだが……」


「ん?」


 とりあえず警戒が必要と、早々に纏めようとしたゲンに、レイが手を挙げる。


「本来の目的としてはここにいるべきなんだろうけれど、ここで奴らとやり合って、一般人に危害を加えたら大変だ。だから、僕としては場所を変えるべきだと思うんだけれど……」


「たしかに、さっきの交戦の時は近くに誰もいなかったから良かったが、そもそもこのファクトリーで人がいないところを見つける方が大変だな」


「まぁそれはたしかだけどよ、どこに移るンだ? 人がいないところで食い物とか寝る場所とか揃ってる訓練場所ってあンまりねぇぞ?」


 場所を変えるというレイの意見に、とりあえずこれといった反対はない。

 しかし、人がいないところを探すとなれば食料や寝床の確保が不安になる。寝床は最悪野宿でもいいが、食料はその場でハントするか少し遠くに足を運ばなければならない。


「俺の家ってのはどうだ? 食い物は買い込めば保管できるし、野宿にはならねぇ。十二人衆もあそこで育ったようなもんだし、トレーニングだってそこそこは出来る」


「たしかに、リゥの家の周りに住宅街はないし、急な襲撃にも対応出来るね」


「リゥがいいなら反対はねぇけど、荒れても知らねーぞ?」


「そこは少しくらい配慮しろよ……」


 首を傾げながら笑うゴウに、額に手を当てながら首を横に揺らすリゥ。勿論、リゥもそれが軽口であるのは分かっているが、ゴウなら本当に荒らしかねないと思案していることも事実だ。

 とはいえ、衣食住に困らず、人気のない所と言ったら、リゥの家が適地なのだろう。


「まぁ、俺は平気だ。他に宛もないし、一先ずは俺ん家でいいだろ」


 因みに、ゴウは拠点とした大きい家を持たず、様々なところに少し大きめの別荘を持っている。

 レイの家も大きいが、リゥの家ほど敷地を遊ばせてはおらず、人気もない訳では無い。

 ゲンの家は、人気がない所がいいと言って山頂に建ててあるため、移動はゲンにしか適していない。


「んじゃ、各々準備を整えてから夕方に俺ん家に集合ってことで。アキラは俺と一緒に買い物デートな!」


「普通の買い物ですー!」


 どさくさに紛れてデートと称するリゥに流されず、しっかりと否定したアキラ。そんなアキラの否定に、分かっていたはずだがリゥは頬を膨らませる。


 そんな二人のやり取りの後に、四天王たちは一旦解散。約束の夕方まで、各々準備を整えるために一度ファクトリーを離れた。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 リゥたちが解散してから数時間後、買い物を終えた二人は既に家に戻り、ゴウたちが来るのを待っていた。


「ゴウたちが来るまで、大体三時間ってとこか?」


「夕方って結構曖昧な感じだったけど……そのくらいじゃないー?」


 昼食を取り、庭で食後の日向ぼっこをしながらリゥとアキラはそんな話をしている。

 明確な時間指定をしなかったため、こっちに来るタイミングが把握出来ない。


「まぁ、そんな直ぐには来ないだろーし、腹ごなしついでにトレーニングでもしてるか?」


「――それなら、そのトレーニングの相手を僕たちが引き受けてあげようか」


「――ッ、誰だ!?」


 突然上から聞こえた声に、リゥはアキラを抱えてその場から一瞬で離れる。

 振り返り、声がした方を見るが、そこには誰もいない。警戒と険悪感に眉を寄せ、目だけで辺りを見回す。


「こっちだよ」


「――ッ!」


 最初に声がした方……ではなく、リゥが飛び除けた先、つまりリゥの後方から、リゥは再び声をかけられる。

 背中に寒気が走り咄嗟に振り返ると、そこには一人の男が立っていた。。


「誰だ? お前」


「ふむ。まぁ知らないのも無理ない、か。――僕は邪陰郷幹部のギル。『ギル班』のリーダーさ」


 白い服を着た、長くもなく短くもない茶髪の男が、数百の集団を率いて立っている。集団にこそ目を奪われがちだが、リゥとアキラの意識はそっちには行かない。

 リゥとアキラの視線の先、ギルを通り越し、集団の前で止まる。


「あ、あの二人って……」


「ああ。間違いねぇ。ベイと――アイだ」


 そう。リゥとアキラの目に映る影。ギルのすぐ後ろには、つい先刻の襲撃者である、ベイとアイがいる。


「――まだ数時間しか経ってねぇってのに……こんなに早いのかよ」


「善は急げって言うだろう? それに従ったまでさ」


「何が善だ……お前らは悪なんだよ!」


 言葉の最後、それ以上の会話を断ち切るようにリゥは先頭にいるギルを目掛けて前方に跳躍。そのままの勢いを殺さずに体を空中で捻り、強烈な回し蹴りを放つ。

 そんなリゥの回し蹴りを、ギルはすんでのところで両腕を交差し防御。しかし、それで勢いが殺される訳ではなく、勢いに負けてギルの体はそのまま後ろへと押される。

 押された瞬間、地面に片足を突き刺して勢いを殺し、どうにかストップ。


「たった一発の蹴りがこの強さか。腕も少し痺れたし、流石は四天王の一人といったところだね」


「お前に四天王と名乗った覚えはないが?」


「名乗らなくてもそれだけ有名ってことだよ。それに、事前に聞いてもいたしね」


 そう言われてみれば、アイもリゥたちが四天王だということを知っていた。聞いたのだとしたらベイかアイのどちらからか……もしくは本部か何かに聞いたのだろう。


「――まぁ、そんなことはどうでもいい。お前の目的も、またアキラか?」


「ご明察。知っているのなら話が早い。その少年――アキラくんをこちらに渡してくれるかい?」


「それを言われて、俺がはい分かりましたって素直に渡すとでも思ってるのか?」


「だよね。聞いてみただけ」


 そこまでの敵意は見えない。ただ単に余裕綽々と笑っている形で、本当に敵意がないのか、隠しているだけなのか。リゥは、この手の相手に滅法弱い。相対しているだけで気分が悪くなるのだ。

 話すことなどないと、一気にぶつかろうと思ったその瞬間、その出鼻をくじくようにギルが嘆息する。


「ふぅ……それじゃ、やっぱり話しても無駄だよね」


 真っ直ぐとリゥを見てそう呟き、指をパチンと鳴らす。


「――ッ!」


 ギルが指を鳴らした瞬間、黒装束を纏った集団が、リゥとアキラを目掛けて一気に突撃してくる。


 左腕でアキラを抱え、瞬時にその場から跳ね退くリゥ。高々と空中に舞い、空いている右手を口に持って行き指笛を吹く。

 甲高い音がリゥの広い庭に響き渡った瞬間、庭に生い茂っている草木の中から、無数の影が飛び出し黒装束の集団を襲う。

 影は、狗、狼、虎、熊などの動物や、鷹や鷲などの鳥類、蛇やトカゲの爬虫類もいる。が、それはどれも『それらのような生き物』であり、アキラが知っている()()()とは違う。ヴォルフもそうだが、アキラの中のそれらと比べると、サイズが圧倒的に大きいのだ。


「あの人数なら俺のペットで十分。この間に――」


「逃げられるとでも?」


「なっ!?」


 ペットを呼び一瞬だけ戦況を見渡した後、一旦屋根の上に着地するリゥ。そしてペットと邪陰郷の戦いを優勢と判断し、リゥはその場から撤退を試みる。が、しかし。庭園での戦いに背を向け、足に力を入れた瞬間、アキラを抱えたリゥの目の前にギルがたった一人立ちはだかった。

 リゥの前に現れたギルは右手を顎に当て、全ての行動を把握していたように笑っている。


「僕を見くびらないで欲しいね。一応これでも幹部なわけだし、今日率いてきた集団の中でも軍を抜けて強いんだ。そう簡単には逃げられない……よっ!」


「くっ……アァッ!」


 言い切ると同時に、ギルの左足がリゥの横顔を目掛けて飛んでくる。が、リゥは咄嗟に右腕でブロックし、その足を跳ね除けて防御。攻撃の一切がアキラに当たることを拒むリゥの防御は、自分を守る時以上にその制度が高い。


「やるしかねぇ! 落ちないようにしっかり掴まってろよ!」


「う、うん!」


 リゥは右腕でアキラの頭を、左腕で胴体をしっかりと固定。荒々しくなった言葉とは裏腹に丁寧に抱きしめ、アキラもまたリゥにしがみつく。

 この体勢では両腕を使えなくなるが、その分アキラはしっかりと守られる。そして何より、リゥは殴りより蹴りの方が得意だ。両足さえ使えれば、物足りなさは感じない。

 右足で脇腹を蹴り、そのまま体を反転させて左右の足を入れ替える。そして左の後ろ蹴りで側頭部を攻撃。ついでに右足で同じ側頭部を追撃。その三連の蹴りに、リゥは一秒と時間を割かない。

 リゥの連続蹴りにグラつくギルを、リゥは両足を揃えた飛び蹴りで屋根の上から突き落とす。


「リゥくん、大丈夫……?」


「大丈夫じゃねぇけど、大丈夫だ。アキラは俺が守る……!」


「随分と仲がいいんだね。まぁそれでこそ、引き離し甲斐があるってもんだよ」


「なっ……がはっ!」


 アキラを守ると、そう誓って強く抱きしめた瞬間、後ろからギルの声が響き、無防備な後頭部を蹴りつけられ、屋根から落ち、地面を滑るように転がる。

 後頭部への強烈な一撃を受け、咳き込むように声を漏らす。


「アキラ……だいじょ、ぶか?」


 蹴り落とされた勢いが消えて地面を転がり終えた後、リゥは抱きかかえているアキラの安否を確認する。


「俺は平気だけど……って! リゥくん!?」


 自分を心配するリゥ声にリゥの腕の中から顔を上げると、目の前には顔に血をつけたリゥの顔があった。そしてすぐ側の地面にも、口と鼻から出たと思われる血溜まりがある。


「問題ねぇ……それより、無茶するからマジでしがみついてろ……」


「そんな、無理だよ! 危ない!」


「言って、られねぇよ……」


 口元を手で拭い、再び立ち上がるリゥ。

 持ち上げられたアキラは、リゥの顔を腕の中から確認する。何かを決心したような、そんな目をしているリゥを見て、これ以上アキラはもう何も言わない。

 アキラはリゥにギュッとしがみつき、それを確認したリゥは、右足を一歩下げ、猪のように三回ほど地面に足を擦る。


「――クソがッ!」


 体の動きをピタリと止め、直後足に力を集中させるリゥ。そして力を溜めた次の瞬間、リゥはそこから一歩踏み出し、一瞬でギルの目の前に移動。

 移動の流れに沿って、右足でギルの脇腹を蹴りつける。そして、そこから圧倒的な速度で何発も蹴りを叩き込む。

 脇腹、側頭部、腹部、脚部、顔面、後頭部、胸部、背部……

 足だけで、体の全箇所に攻撃する一連の動作は、ファクトリーで見た以上に早く、研ぎ澄まされている。

 そんなリゥの猛攻に、ギルは反撃の余地なし。ただただひたすらに、リゥの攻撃を浴びる。


「これで……!」


「――終わりか?」


 ギルの顔の高さまで跳び上がり、首元を目掛けて足を振るリゥ。そのままギルの首元をリゥの爪先が貫けば、戦いは終わる。

 だが、今まで無防備にリゥの攻撃を受けてきたギルが、初めてリゥの攻撃を受け止めた。

 そしてリゥの攻撃を受け止めたギルはその足を強く握り、ニヤリと笑う。


「フッ、僕がこの程度の攻撃を受け止められないとでも?」


「――」


「あんまり調子に乗らないこと……ぁ?」


 そのままリゥの足を振り回し投げようとしたギルの動きが、不自然に固まる。


「どうした? 早く投げろよ」


「体が、動かねぇ……」


「そっか。それなら、また俺のターンだな」


 そう言うと、空中で体を捻りリゥはギルの腕から足を抜く。そして体を横に回転させ、ギルを思い切りふっ飛ばす。遠心力を味方にしたリゥの蹴りをまともに浴びて、ギルの体は簡単に吹っ飛んだ。

 頭から吹っ飛んだギルは、庭に植えてある木を数本なぎ倒しても尚勢いをほとんど衰えさせず、真っ直ぐに飛び続ける。


「これ以上木を折るな」


「だっ……がぁ!?」


 突然、ギルの進行方向にリゥが現れ、足裏でギルを止める。そしてそのまま一回転して、かかと落としで地面に叩きつけた。

 背中から地面に叩きつけられ、大の字に伸びたギル。そのまま動かない体を痙攣のように小刻みに震わせながら、唯一動く口を懸命に動かした。


「なんで、体が……」


「お前、痛覚麻痺させてるだろ。俺の蹴りをまともに受けて、平気で立ち上がってこれるわけがねぇんだよ」


「だ、だが、それが分かったところで……」


「それが分かれば簡単だ。痛みに気づかないなら、俺の攻撃がどういう攻撃かも分からないだろ」


 地面に叩きつけられたギルは、今現在も全身を動かせていない。唯一動くのは、リゥを見据える目と疑問を発する口、そして僅かにではあるが、両の腕だけだ。

 しかし、それだけが動いたところでほとんど意味をなさない。腕で起き上がろうとしても、背中が持ち上がらないのだ。

 そんなギルから少し離れたところで、リゥがアキラを抱いたまま立っている。

 首すらも動かないため、ギリギリ動く目でギルはなんとか二人を捉える。


「どういう攻撃か、だと?」


「ああ。お前が痛覚を麻痺させていることは最初の一撃で分かった。だから俺が続けていた攻撃はダメージを与えるものではなく、神経の節に攻撃を入れ、体の自由を奪うための攻撃だ。それを知らなかったお前は案の定自分の能力に自惚れ、決定打以外を全て受けた。お前の能力は、痛覚を麻痺させるだけ。絶対防御や完全無効とは違う」


「……な、そんな、僕が、僕が負けるなんて……っ! あ、ああ……有り得ない! 有り得るはずがない! 有り得てたまるか! ……ふざっ、ふざけるな……! そんな馬鹿げた話が、あるわけ……あるわけないっ! 僕は! 僕の能力は! 僕の能力はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 自分の能力を逆手に取られ完敗を喫したギルは、動けない体で子どものように泣き喚く。髪の毛を毟り、顔を引っ掻き、両腕をばたつかせる。

 そんなギルの行動からアキラの視線を外すように、リゥはアキラの顔をそっと胸に抱く。


「アキラは……まだ、見ない方がいい。出来るなら、耳も塞いでおきな」


「え、あ、うん……」


 そしてリゥは自分の上着をそっとアキラに被せると、その後ゆっくりとギルに近付く。


「悪いな。アキラを、お前らに渡す訳にはいかないんだよ」


「僕が……幹部であるこの僕が……仕事を失敗して負けを喫するなんて……く、ぅぅ……」


「自分の能力を過信しすぎて、日々の訓練を怠り、戦いも怠けた。負けた原因は、単純にお前の怠惰だ。あの世では、それを忘れねぇようにな」


「――地獄で、待っててやるよ……」


 ギルは、涙でびしょ濡れの顔で、精一杯の悪顔を見せつけ、リゥを嘲笑する。

 そして、リゥの真っ直ぐに伸びた指先が、ギルの喉元にたどり着く。






 ヒューヒューと空気の漏れるような音が、リゥ対ギルの、終戦を告げる。


「――悪いが、しばらくの間は待ち惚けてろ」


 そう言って、ギルの死体に背中を向け、リゥはアキラの方へと戻る。


「結構激しく動き回ったけど、大丈夫か?」


「あ、うん。さっきまでちょっとクラクラしちゃってたけど、もう大丈夫」


 ギルに連続の蹴りを放ち、更には吹っ飛んだギルを追うように跳んだりもした。普通なら、目を回してぐったりとするか、吐いていてもおかしくはない。

 それでもアキラが立っていられるのは、リゥがアキラに配慮し、できる限り揺れや衝撃を抑えた結果だ。

 ギルとの戦いの最中、リゥの頭の半分以上はアキラで埋まっていた。それほどまでアキラに配慮しながら戦えていたのは、やはりリゥのポテンシャルの高さだろう。


「そうか。それなら良かった……って、アキラ?」


 アキラの無事を確認し、ホッと息をついてアキラの頭を撫でるリゥ。すると、頭を撫でられたアキラがリゥに抱きついた。

 リゥを抱くアキラの体は小刻みに震えていて、啜り泣くような声が聞こえる。


「よかった。リゥくんが無事で、本当によかった……」


「俺の心配してくれてたのか?」


「――だって、あの人たちが狙ってるのは俺だし、リゥくんが戦うことになったのも俺のせいで……それなのに、もしもリゥくんに何かあったらどうしようって……リゥくんに何かあったら、俺……俺……!」


 リゥがギルと戦っている間、アキラはずっとリゥを心配して、その上で何も出来ない自分を悔やんでいたのだ。

 自分のために戦ってくれているのに、その手伝いを当の本人である自分ができない。その悔しさは、アキラの心を締め付け、無力な自分を激しく責める。


「――そんなこと気にするなよ。俺は、アキラがいないともう生きていけない。アキラがいない生活を、もう考えられないんだ。それだけアキラには大事なものを貰ってる。だから、今みたいな戦いで何も出来なくても、それはアキラの気にすることじゃない」


「でも、俺は何も出来なくて……それで……」


「戦いで何も出来ないだけで、日常的に俺を支えてくれてるだろ」


 自分の無力を責めるアキラの体を、リゥはギュッと抱き、震える頭をゆっくりと撫でる。


「アキラは、これからも俺のそばにいてくれればいいよ。その代わり、勝手にどこにも行くなよ」


「それだけで、いいの?」


「ああ。アキラがいてくれれば、それだけでいい」


「――うん、分かった。ずっと一緒……」


「おう」


 そう言って、リゥとアキラは再び永遠を誓い、昼下がりの庭園で、静かに抱き合う。


 病院でのあの朝から、リゥとアキラは何回ものハグを交わしている。そんな二人は、お互いのハグが大好きだ。

 ただ腕で相手の体を抱いているだけなのに、これ以上にない安心感を抱くことが出来て、お互いの温もりに心が落ち着く。

 不安を揉み消し、心の傷を癒す。そんなハグは、二人にとって、これ以上にない『魔法』であり、二人の『絆』の証となる。

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